水曜会:社内講演会の記録
第79回 2008年11月12日(水)
妹島 和世SANAA
近作について
「空間と空間の関係性がおもしろい」そう話す妹島氏の思いが近作には溢れていた。
トレド美術館は、自身も興奮する体験だったというガラスのもつおもしろさからできている。「固定された建築でも人が動いて自然が動くと、変化を与え感じることができる、それがおもしろい」、写真を次々とめくる妹島氏からは楽しさが伝わってきた。
ローザンヌに建設中のラーニングセンターは氏曰く「空間のわかりやすさを断面的に解いたもの」であり、複雑に見える建築の中に明快な空間が点在し、つながりあう。コンクリートの型枠がスクリーンに映し出されると会場がどよめいた。誰もが頭を抱え込みたくなる形状だが、やはり感じるおもしろさ。
「スタディを曲線から始めるわけではないのですが」と言いつつ自然と出来上がっていくという曲線の理由をいくつか挙げて下さったが、理由はあるようでないように思えた。紹介された作品は、使い手の気持ちになって考えると自然と出来上がった空間であり、曲線もガラスも複雑な断面も一種の道具でしかない。世界で活躍中の氏の作品からは、法規や風土は変われど「使い手のための建築」というゴールは変わらないのだろう、とても柔軟な考えがみてとれた。
設計の仕事では、ゴールの違う迷路に自分自身で迷い込むことも多かった。何度も抜け出しながら、ひとつの建築に対する「いいものをつくりたい」という周囲の共通意識に奮い立たされた。私自身、建築に憧れていた頃からつくりたかったものは、心地よさ。初心忘るべからず、と改めて感じた一夜だった。

妹島 和世
- 1956年
- 茨城県生まれ
- 1981年
- 日本女子大学大学院修了後、伊東豊雄建築設計事務所勤務
- 1987年
- 妹島和世建築設計事務所設立
- 1995年
- 西沢立衛とSANAA設立
- 現在
- 慶応義塾大学教授、
プリンストン大学客員教授