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設計担当者のコメント

時事通信ビル

建築設計の立場から
―都市を彩る白い幾何学―

北 典夫

計画にあたり、世界各地からの情報をリアルタイムに編集する業務を中核とする通信社の情報受発信基地として、高い基本性能を備えたワークプレイスの構築が求められた。それを受け、また地球環境の保全や情報基盤の高度化という社会的ニーズを背景として、新しいオフィス環境づくりをめざした提案を行った。

4面自然採光の明るく開放感に満ちた整形平面のオフィス空間と、エレベータホール、階段、サービス廊下、さらにトイレにいたるまでを開放的な設えとしている。また外部の光、風、音といった環境要素や人の気配などを内部においても常に意識できるよう、内外のインターフェイスを重視した空間づくりを行っている。
都市との関わりにおいても同様に建物自体と周辺環境とのインターフェイスを重視している。即ち、カフェに面してオープンスペースを確保し、道路沿いに歩道を拡幅して街路樹を植え、その緑を映し込むガラスウォールに包まれたエントランスロビーを設け、さらに最上階では都市の空を切り取る静寂さが漂う中庭を計画している。こうしてこの建築は都市環境と多様な関係性を結んでいる。

白色のプレキャストコンクリート打放し面とガラス面が織り成す外装の表現は、極限にまで要素を絞ったディテールにより、明快に区切られた二種の面が交替する簡素で力強い構成のファサード・ストラクチャーとなっている。雑然とした銀座の街の中で「飾らない規律正しさ」が鮮烈な印象をもって際立った存在感を示している。

構造設計の立場から

辻 泰一

2000年の初春にこの計画に接し、その後着工にいたるまでの約2年の間、下層階へのホールの設置、サービスコアの形状・配置など、様々な建築計画の検討と並行して、構造計画においてもいろいろな材料や架構についての検討を重ねた。中でも構造設計として最も意を払った点は、一見プレキャスト躯体とも見紛う白色セメントを用いた外装デザインと構造架構の整合性を図ることだった。

全体架構のコンセプトは、主に自重を支えるオフィスエリア中央の4本の大黒柱と、壁面意匠と同じ3.6m間隔に配置した柱で構成するチューブ(籠)状の外周フレームという二つの要素で全体を構成するというものである。外周フレームの中で、前記の外装材と構造躯体をいかにコンパクトに処理し、すっきりとした窓廻りを実現するかについては、数多くのスタディを行った。柱の鉄骨形状の検討に始まり、白色セメントのプレキャスト構造柱による高層鉄筋コンクリート構造の可能性を探るなど、構造設計として挑戦的な課題を含んだ数多くの検討を行い、時には施工関係者も交えて協議を重ねて最良の方法を模索し、その結果、偏平形状のコンクリート充填鋼管柱とプレキャストコンクリート版によるステディな外装計画を選択するに到った。
構造技術の多くは実際のプロジェクトにおいて検討・適用された中から生まれることも多い。このプロジェクトでは採用に到らなかったものの高層オフィスへのプレキャスト鉄筋コンクリート柱の採用は、現在進行中の別のプロジェクトに生かされ、制震・免震構造など他の先端構造技術との融合して更に可能性を広げている。

このように、この建物は、構造技術の発展の上でも、また私個人の経験の中でもマイルストーンとなったプロジェクトであったという思いが強い。

設備設計の立場から

橋本 洋

この建物が建つ場所には環境保全を目的として地域冷暖房施設が整備されている。しかしながら、それは大震災時にも絶え間なくエネルギーを供給し続ける保証はない。一方、通信社は、震災や騒動を含むいかなる事態にも報道活動を継続するという社会的使命を担っている。エネルギー供給が止まることは許されない。そこで、環境保全と信頼性の確保というある意味では相反する命題のあいだで最適解を見出すという、対官折衝を含めた困難な作業が始まった。

その結果、たとえ都市インフラが遮断されても、報道機能の維持に必要な最低限の電力・熱源・水を確保すべく、3回線スポットネットワーク受電、非常用発電設備、高信頼性給水設備に加え、2セットの氷蓄熱システムが併用されることになった。2次側の設備についても、二重、三重のスタンバイ、バックアップを用意している。

設備の設計にあたっては、建築計画と設備計画がいかに融合し、それぞれのベクトルを一致させるかが最大のポイントと言える。このビルの窓周りは、今となっては珍しくはないエアフローウィンドである。しかしながら、その形状決定や風量のコントロールについては綿密なコンピュータシミュレーションを行って諸元を決定している。3.2mの高さのガラス窓がオフィスワーカーに開放的な空間を提供すると同時に、木製ブラインドや調光制御機能付照明器具とあいまって、グレアの防止と昼光の有効利用とが両立することを意図している。

竣工後に行った居住環境の実測調査、ユーザーへの申告調査でも、当初計画した環境性能が発揮され、高い満足度が得られていることが検証された。

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