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設計担当者のコメント

神奈川工科大学 情報学部棟

大学施設におけるフリープランの試み

中江 哲

集合住宅のフリープランで重視されるのが、新築時における住戸バリエーションの対応(もちろん改修にも対応できるが)である一方、大学施設でのフリープランは将来の用途・レイアウトの可変性に主眼がおかれる。
理工系施設の改修では、実験台やドラフトチャンバー増設など、給排水・空調・電気すべての見直しが必要となるからである。もちろん、設備だけなら「メカニカルバルコニー」という対応方法もあろうが、今回試みた「ハイブリッドマルチタワー構法」は建築的に自由度が高く、経済性にもすぐれた、高層大学施設に適した構法であり、その特徴としては、設備の可変性に留まらず、梁が耐震要素でないため改修時に途中階でも床を自由になくすことが可能という建築的な可変性にまで踏み込んだ画期的なものである。新築時にはそのよさが実感されにくいが、柱が細い(600角)、外周梁が小さい(H400)という外装デザインの自由度にメリットがあった。
真価は10年後に発揮されるものと期待している。

構造設計の立場から

瀧 正哉

2003年、神奈川工科大学のキャンパス再整備計画において情報学部棟を高層ビルにしたいという話があった。そこで、時期を同じくして実用にめどがついた新構法「ハイブリッドマルチタワー」が検討された。意匠・構造・設備設計の担当者が同構法の開発メンバーであったこと、また新技術に対して理解のある大学であったため、採用が早期に決定した。 新構法「ハイブリッドマルチタワー」の構造計画は、極めてシンプルである。中央のH型をした2つのコア壁に地震や風に対する抵抗力をすべて集約し、外周の柱、梁は自重を支える。そして、外周のフレームとコア壁を鉄骨の小梁で結び、デッキ床で床面を構成。さらに、コア壁同士をつなぐ境界梁で地震の際のエネルギーを吸収する。通常のラーメン構造の柱・梁は自重を支え、地震や風に対する抵抗力を同時に受け持っているのに対し、この構造は各部材の目的がはっきりしていて非常に研ぎ澄まされている。

設備設計の立場から

大矢 強志

建物は長期にわたって使われつづけていくが、その建物に与えられる役割は移り変わっていく。学校においても時代とともに建物設備に求められるニーズは変化をつづけている。
神奈川工科大学は情報学部に代表されるように、先鋭技術を常に取り入れており、計画にあたって建物設備の将来的な変更への対応も非常に高く要求された。建物の価値を損なうことなく、これらの変更に追随できるよう様々な工夫を行った。
建物の外周部と建物中心のコア壁部の梁せいが小さくなる構法の特徴を活かして、建物の外周部とコア廻りの廊下部分に高い天井高さを確保しつつ、設備ユーティリティを展開させた。研究室、実習室、講義室など様々な用途に応じた換気風量への対応や、電力、LAN、給排水などの供給を効率的に行え、かつ追加変更なども容易に行うことが可能である。
一方、窓際のほてりや底冷えを防ぐためのペリメータファンや氷蓄熱空調など様々な環境配慮を行い、建築物の総合的な環境評価指標であるCASBEEにて、最高ランクのSクラスを獲得している。
本プロジェクトには構法の開発から参画した。故に意匠、構造、設備の融合が高度にかつ合理的にはかられたものと感じている。住まう人々のニーズに合わせて建物が変化しつづけ、価値を高め、長く利用されていくこと、それが建物のライフサイクル性能を高め、ひいては環境の保全に寄与するものであろう。

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