特集:ダム新時代

Chapter 1 最近のダムのつくりかた
 ダムは,計画時点の社会的要請に基づいて立案され,最も効率のよい場所,構造や型式が選択される。しかし,完成後も時代の変化とともに上水道や農業・工業用水の供給量の増加,発電能力の向上など新たなる需要はふえ続ける。
 今,日本では安全で安心して生活できる環境づくりのための社会資本整備を,限られた財源で進めていかなければならない。それには,高品質で,より経済的で,より短い工期で,環境に優しいダムづくりが求められる。このため当社では,様々な技術開発を行い,施工の高速化,効率化を図ってコストを縮減し,環境に配慮した施工を行っている。
1 貯水量を9倍にふやす−既設ダムの下流に日本最大級のロックフィルダムを新設−
胆沢(いさわ)ダム
工事概要
場所: 岩手県奥州市
発注者: 国土交通省東北地方整備局
設計: 国土交通省東北地方整備局
CM: 建設技術研究所,大林組
規模: 中央コア型ロックフィルダム,堤高132m,
堤頂長723m,堤体積1,350万m3
有効貯水量1億3,200万m3
工期: 2004年10月〜2009年3月(1期工事)
(東北支店JV施工)
胆沢ダム
 北上川水系胆沢川の上流部(岩手県奥州市)で建設中の日本最大級のロックフィルダム*である。洪水調節,河川環境の保全等のための流量の確保,灌漑用水・水道用水の供給,発電の役割を担う多目的ダムとして計画された。
 胆沢ダムの約2km上流には既設の石淵ダム(日本初のロックフィルダム。1953年竣工)がある。より大きな貯水量を確保するため,胆沢ダムが完成すると新しいダム湖に水没させ,なるべく少ない用地の確保で,より多くの貯水量を確保できるよう既設のダムと一体化した再開発が計画されたのである。
 この現場は積雪寒冷地で作業日数が限られるため,ロック材の運搬に日本最大級の90t級重ダンプを使用するなど,大型重機を使用した大規模土工を実施している。さらにGPSを活用したIT施工による合理化,効率化でコスト縮減,工期短縮を図っている。なお建設には森吉山ダム(後述)に続きCM(コンストラクション・マネジメント)方式が導入されている。
*ロックフィルダム
岩石を盛り立てる形式のダム
着工前のダムサイト付近。写真上に将来水没する石淵ダムが見える 完成予想パース
胆沢ダム
コア材の盛立て。最も重要な作業の一つ
断面図
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ロック材盛立て工事 GPSアンテナを備えたブルドーザによるIT施工
既設の石淵ダムのダム湖 国道に面した展望台。ここからダムサイトを見おろすことができる
胆沢ダム学習館
 地域に開かれた胆沢ダム建設の拠点施設として2001年に開館。ダム工事の見学者に対応するインフォメーション機能を持つ展示室と,地域の児童生徒に対する体験学習支援機能を兼ね備えた学習室などから構成される。展示室には胆沢の水文化,ダムの役割や周辺の自然などを紹介する模型やパネルなどが展示されている。
学習館の内部 胆沢ダムの模型
環境の保全
 堤体の盛立てに使うコア材(ダム中心部に使う水を通しにくい土砂)を採取地から運び出すのに日本で初めてベルトコンベア(全長約900m)を用いている。ダンプによる運搬に比べ,騒音,振動,粉塵の発生が抑えられ,排気ガスによる大気汚染もない。生活環境,自然環境に配慮した運搬方法である。運搬能力は1時間当たり最大910t。
コア材を運搬するベルトコンベア
2 鋼管を用いてコンクリートを運搬−SP-TOMによる高速施工−
SP-TOM(Spiral Pipe Transportation Method)とは,パイプを用いてコンクリートや土石類を連続して大量に高所から低所へ運搬する工法である。パイプをシュートとして用いて運搬するのは従来から行われてきたが,材料が分離するなどして安定した運搬が難しく,これまで短距離の搬送でしか用いられてこなかった。
 SP-TOMでは,内側に数枚の硬質ゴム製の羽根を螺旋状に取り付けた搬送管を回転させることにより,コンクリートや土石類を安定した状態で連続的に大量に斜面下方に運搬できる。ベルトコンベアでは不可能な急斜面でも安定した搬送が可能で,低騒音,粉塵の発生や材料の飛散も少なく,他の運搬方法に比べて自然環境に与える影響も小さく,比較的低コストで設置できるという特長を持つ。
 当社では,SP-TOMを滝沢ダム(水資源機構・埼玉県秩父市)の減勢工*1の施工に日本で初めて本格的に採用した。ここで蓄積したノウハウをベースに,重力式コンクリートダム*2の嘉瀬川ダム(国土交通省九州地方整備局・佐賀県佐賀市)の堤体のコンクリート打設に,当社のVE提案により,SP-TOMの本格採用が決定している。
*1 減勢工(げんせいこう) 
ダムから流下する非常に大きな水のエネルギーを弱めるためにダムの直下流に設ける構造物
*2 重力式コンクリートダム
コンクリートで作られたダムで,貯水池からの水圧をダムの重量で支える形式のダム
SP-TOM概念図 搬送管内部の構造
滝沢ダムの施工で活躍したSP-TOM 滝沢ダム左岸の斜面に設けられたSP-TOM
施工中の嘉瀬川ダム
滝沢ダム全景。2008年完成予定
3 CSGを使ったダムづくり−新しい台形CSGダムの実現に向けて−
 CSG(Cemented-Sand-and-Gravel)とは,ダムの建設現場で発生する土石にセメントと水を混合した材料をいう。CSGを薄く敷き均し,締め固めを行う。この作業を繰り返して盛土を築造して安定性の高い台形の堤体とするのが台形CSGダムで,設計の合理化,材料の(製造の)合理化,施工の合理化を同時に達成できる新しいタイプのダムである。
 コンクリートの骨材ほど品質の高くない現地発生材が利用可能で,原材料を製造するための機械設備を簡素化でき,汎用機械で急速施工が可能なため,コスト縮減や工期短縮を図ることができる。また,コンクリートの骨材などを採取する原石山を新たに確保する必要がないため環境保全の観点からもメリットが大きい。
 現在当社では,滝沢ダムの減勢工の施工実績をふまえ,稲葉ダム(大分県・竹田市)の貯水池遮水工で,CSGを本格的に採用した施工を行っている。当社では,将来のダム堤体への適用に備え,施工実績を積み重ねていく。
CSGプラント(稲葉ダム) 施工中の稲葉ダム
稲葉ダムの完成予想CG CSGのもとになる岩石質の原材料(母材)の採取(滝沢ダム)
CSGの敷均し(滝沢ダム)
4 人工岩盤を設置したダムづくり−造成アバットメント−
 従来は掘削して除去していた堤体基礎地盤の低固結層を残したまま,コンクリート躯体による人工岩盤を造成する工法。自然環境の改変が少なく,地山の掘削量,残土処分量などを減らすことができるためコスト縮減も期待でき,景観・環境上も効果的。現在当社で施工中の稲葉ダムにも国内最大規模となる同工法が適用されており,傾斜型*としては国内初の施工事例である。
*造成アバットメント工には,傾斜型のほかに比較的小規模な端部処理である標準型の2タイプがある。
奥に見える堤体端部の傾斜したコンクリートの構造物が造成アバットメント(稲葉ダム右岸) 稲葉ダムの造成アバットメント(左岸)
5 IT施工管理システムの導入−施工のさらなる合理化,効率化−
 施工管理の省力化,品質向上,工期短縮を図りコストを縮減するためのITを駆使した施工も今日のダム建設の大きな特長である。今年6月に湛水を開始し来年7月に運転開始予定の小丸川発電所の現場を例に紹介しよう。ここでは,九州電力最大の水力発電所(最大出力120万kW)として計画された純揚水式発電所の上部調整池を,河川の最上流部に建設している。形式は,表面遮水壁(アスファルトフェーシング)型ロックフィルダムである。施工にあたり当社では,3D-DAM-CADを中心としてダンプトラックナビシステム,転圧管理システム,3次元マシンコントロール,3次元位置誘導システムなど,最新のIT施工を行い,徹底した施工の合理化,効率化による工期の短縮,コストの縮減を図っている。
小丸川発電所の上部調整池取水口
アスファルトフェーシングの施工状況 ダンプトラックナビシステム(GPSアンテナを付けたダンプ)
転圧管理システムによる施工 3次元位置誘導システムによる出来形測量
6 コンストラクション・マネジメント方式の導入−ダム建設では日本初−
森吉山(もりよしざん)ダム
工事概要
場所: 秋田県北秋田市
発注者 :国土交通省東北地方整備局
設計: 国土交通省東北地方整備局
CM: 当社,日本工営
規模: 中央コア型ロックフィルダム, 堤高89.9m,
堤頂長786m,堤体積585万m3
有効貯水量6,810万m3
工期: 2002年3月〜2011年
施工: 第一工事(堤体)大林,間,五洋JV,
第二工事(原石山)西松,三井住友,錢高JV
 米代川水系小又川(秋田県北秋田市)で国土交通省東北地方整備局が建設を進めている多目的ダム。形式はロックフィルダムである。ここでは,日本で初めてダムの建設にCM(コンストラクション・マネジメント)方式が導入されている。近年,日本でも関心が高まっているCMは,1960年代に米国で始まった建設生産・管理システムである。発注者の補助者・代行者であるCMr(コンストラクション・マネージャー)が,技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って,施工調整,品質管理,工程管理,コスト縮減提案などの各種マネジメント業務の全部または一部を行う。このダムの建設に当社は,日本工営と共にCMrとして携わっている。
原石山 施工中の森吉山ダムの堤体 完成予想パース
写真資料提供: 森吉山ダム工事事務所
施工管理システムの構成図



Chapter 1 最近のダムのつくりかた
Chapter 2 ダムの再開発
Chapter 3 interview 「ダムの明日を考える」