特集:ダム新時代

Chapter 3 interview 「ダムの明日を考える」 竹村公太郎さん
たけむら・こうたろう
立命館大学客員教授
1945年生まれ。
1970年東北大学土木工学科修士課程修了。
社会資本整備の論客として活躍する一方,
2003年に『日本文明の謎を解く 
21世紀を考えるヒント』(清流出版)で日本と世界の
文明を論じ注目を集める。
2005年には,『土地の文明 地形とデータで日本の
都市の謎を解く』(PHP研究所)を上梓。
竹村公太郎さん
 安藤(歌川)広重が1606年に現在の虎ノ門付近を描いた浮世絵をご覧になったことがありますか。そこには今でいうダムを見ることができます。徳川家康が幕府を開いてわずか3年後に,江戸にはダムが完成していたのです。大勢の人が暮らすためには,まず「水がめ」が必要だったことが判ります。貯水池は, 地名からも判るように溜池から鹿島さんの本社の辺りまで広がっていました。このことからも「近代文明の原点はダムにある」ことが判ります。
 しかしダムは都会にあると不便です。大都市で暮らす人たちは,次第にダムを川の上流へと追いやっていきました。同時に「命の水がめ」の大切さを忘れていきました。今の私たちは,いつでも水を飲むことのできる有難さを普段ほとんど忘れてしまっています。
 一方,大雨が降っても川を氾濫させないようにするのが治水で,その基本は,水位を少しでも下げることです。川幅を広げれば水位を下げることができますが,大勢の人が暮らし,豊かな農地が広がる下流域では難しい。そうなると中流に遊水地や上流にダムを設けるしかありません。
 ダムは,大雨が降った時に,川の上流で水をせきとめて,少しずつ放流できるようにタイムラグを作る装置です。高速道路の料金所に例えると判りやすいでしょう。料金所に沢山の車が滞っていても,ゲートを通過するとスムーズに走れるようになりますが,あれと同じ原理です。いっぺんに川に流さずに少しずつ流して川を氾濫から守っている訳です。
 最近は「今あるダムで十分」という意見も聞かれます。しかし,地球温暖化が進んで,日本の降雪量が減っています。これは天然のダムが少なくなっていることを意味します。日本の稲作は,豊富な雪解け水で成り立っていますから,新たな水資源を今のうちから確保し始めないといけません。さらには化石燃料の枯渇が近づいています。エネルギーの多くを,今以上に電力に頼らなければなりません。風,太陽光,波力といった太陽エネルギーを有効に活用して電力を作る必要があります。太陽エネルギーは,単位面積当たりのエネルギーが薄く効率が悪いため,「どうやって集めるか」がポイントですが,日本の場合,水の利用が最も効率的です。流れが急な川は,貯える水の量は少なくても,エネルギーとして利用するのには有利だからです。規模の小さなマイクロ発電を各地で行って効率よく供給すれば電力事情は大きく改善されます。ダムが貯えるのは単に水ではなく太陽エネルギーでもあるのです。
 私たちが決して忘れてはいけないのは,ダムを建設する場合,立ち退きを余儀なくされた人達はコミュニティごと全てが奪われてしまうということです。そのやるせない気持ちを受け止めているのは,地域の方々と喜怒哀楽を日々共にしているダムの発注者や建設会社の関係者達なのではないでしょうか。
 地球温暖化,化石燃料の枯渇,食料事情の悪化など,私たちの生活環境が厳しくなる中で,ダムの重要性はさらに高まります。一般の方々がダムの価値を理解し,存在意義が正しく評価されるようになるのも,そう遠くない将来のことと思っています。
豪雪地域では春の河川流量はあきらかに減少傾向
雪国における稲作と使用水量



Chapter 1 最近のダムのつくりかた
Chapter 2 ダムの再開発
Chapter 3 interview 「ダムの明日を考える」