サウンドテクノロジーが生きる空間
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コンサートホール
著名な演奏家の演奏でも,無響室のような響きの無い空間では味気無い演奏になってしまうし,逆に残響室のように響きすぎる空間では,演奏家の細かなニュアンスが聴き取れなくなってしまう。このようにコンサートホールの室内では,楽器同様に音質まで考慮した繊細な音響設計が要求される。
まず,大まかな室形が決定した段階で,音響CADシステムに空間の形状を入力し,舞台上から客席に向かって,音がどのように伝播していくかその経路を表示して,ロングパス・エコーやフラッター・エコーなどの音響障害を視覚的に検討する。もし問題が生じる場合は,壁面の角度や材料を変更して再度検討する。このように音響CADシステムは室形状や材料を容易に変更することができるため,短時間で繰り返し検討することができる特質を持っている。
しかし,音響CADシステムは音を光線のように扱っているため,回り込みなど音の持つ波動性は考慮されていない。このため,そのホールがどのような音色の響きを持っているかまでは,判断できない。そこで,空間の形や材料が決まった段階で,縮尺音響模型を作成し,放電パルスを舞台上の音源にして各客席での響きの状態を収録する。この時客席には,人間の両耳の位置に相当するところにマイクロホンを埋め込んだダミーヘッド(疑似頭)を配置して,両耳録音する。このようにして得られた空間の響きに無響室で録音された響きの無い音楽をコンピュータ上で合成してヘッドフォンで聴くことによって,ホールの客席でどのような響きの演奏音が聴こえるのかを事前に検討することができるのである。
聴取者に対しては個人個人に最適な座席位置を選定する「座席選定システム」を,また良い演奏をひき出すには舞台上の音場も重要であり,これらの研究を進めると共に舞台上の演奏者に適切な反射音を提供することによって演奏しやすくする「演奏者支援システム」も実用化している。
大空間施設
ドームなどの大空間施設で場内アナウンスが聴き取り難いことはよく経験することである。これは空間が大きい割には吸音できる部分が少ないため,残響時間が長くなりすぎたり,壁などから大きな時間遅れの反射音が到達してエコーとして聞こえたりするためである。このように大空間では拡声からの音声の明瞭性に留意して音響設計を行う必要がある。
実際の設計に当たっては,音響CADシステムによって拡声装置から客席に伝播する音線を計算する。この時、拡声装置に複数のスピーカーが配置されているような場合もそれぞれのスピーカーの指向特性を考慮した計算が可能である。このようにして計算で得られた客席に到達する音の系列と,無響室で録音されたアナウンスを音場合成装置で合成して,音が到来する方向別に16個のスピーカーで聴いてアナウンスの明瞭性を検討するのである。
テレビスタジオ
テレビ放送局においては,スタジオに限らず副調整室,編集室,録音室,MA(マルチプルオーディオ)室など音響を重視する諸室がある。ここではスタジオについて紹介しよう。
テレビスタジオは,「絵」が中心であるのでその制約を受けながら音響設計を行う難しさがある。テレビスタジオには撮影時に背景として用いるホリゾントと呼ばれる無彩色で平坦な壁面が設置される。従来は,ホリゾントの長さは短く,ホリゾント同士が対向するようなことは少なかったが,近年,ハイビジョン化やスタジオの有効活用などから,3あるいは4壁面全てホリゾントが設置できるスタジオの要求が高まってきた。この場合,ドラマ撮影ではセットが配置されるので問題は少ない。しかし絵と音を同時収録するような音楽用途に使用する場合は,ホリゾント間でのフラッター・エコーが問題となる。
ホリゾント面を吸音処理できれば問題はないが,美術,照明に問題があり,ホリゾントを傾斜させる方法を考案している。この時にも音響CADシステムを使って様々な検討を繰り返し,最も効果的な傾斜角度を決定している。
この際にも,音響模型実験システムと可聴化システムを用いてスタジオ内での音がどのように聞こえるかを検討するのである。
写真は鹿島月報より転載
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