特集:都市と水景

chapter 1 水辺の復権
水に背を向けた時代から
 東京・日本橋の架け替えが話題になっているが,お隣の韓国では2005年秋,ソウル中心部を流れる清渓川(チョンゲチョン)の復元工事が完成した。川の“蓋”となっていたコンクリート道路やその上の高架道路を撤去し,全長5.8kmの川が復活した。清流に集う市民の様子は,日本でも大きく報じられ,今やソウルのオアシスとなっているという。
 水辺はかつて,憩いの場というより生活に欠かせない交易の場であった。船でものを運び,移動するなかで,身近だった水辺は遊びの場としても用いられてきた。ところが,産業構造の変化に伴って船の利用方法が変容すると,川や海に人が近寄らなくなってしまった。土地の高度利用のために埋め立てられたり,防災上の理由から護岸に高い堤防が築かれるなど,水辺が人々の暮らしから遠い存在となってしまっていった。

川や運河の魅力――東京
 現在では,こうした効率一辺倒の開発から変化して,水辺空間の見直しが自治体レベルでも取り組まれている。
 たとえば東京都港湾局は,運河の水辺空間での観光・景観・回遊性などを重視し,新たな魅力ある都市空間としての再生をめざす事業「運河ルネッサンス」を行っている。この事業では,地域を主体にした取組みを推進している点が特徴で,たとえば商店会やNPO,民間事業者らによる地域協議会が,水上レストランや桟橋などをつくることについての規制を緩和する。
 2005年に品川浦・天王洲と芝浦,翌年に朝潮と勝島・浜川・鮫洲がその推進地区に指定され,それまで未利用の水辺空間にレジャーボート乗り場や,水上レストランが次々と誕生した。

それぞれの「水の都」――大阪と広島
 「天下の台所」には水運が欠かせなかった。諸国の物産の取引は運河を通る船が行い,ネットワークを築いていたからだ。現在,大阪府の都市再生プロジェクトのなかに「水の都大阪の再生」がある。大阪の都心部は,北の中之島(堂島川,土佐堀川),東の東横堀川,西の木津川と南の道頓堀川により「水の回廊」を形成している。このポテンシャルを活かした,水辺のまちづくりが活発だ。とんぼりリバーウォーク(道頓堀川水辺整備)や水上カフェの社会実験,八軒家浜の船着場の整備,なにわ探検クルーズなど数多くの取組みがなされ,賑わいを都心部に取り戻している。
 また,6本の川が市内を走る広島市は,いわゆるデルタ地帯を形成し,市街地に占める水面面積が全国でも1,2位を争う「水の都」である。市中心部の原爆ドームや平和記念公園周辺は広島を象徴する空間であり,世界中から多くの人が訪れている。
 この場所と川は密接に結びついており,原爆記念日の前後には元安川にて灯籠流しが行われているほか,ドームを望む太田川周辺は,1970年代からまちづくりと一体となった河川整備や生物の生息・生育空間の保全・再生に取り組んできた。その美しい景観デザインは全国にも知られている。
 最近も河川の氾濫対策に加え,2003年には市民と行政(国・県・市)の協働で「水の都ひろしま」構想が策定され,質の高い水辺空間や魅力的な水都文化の実現を目的に取り組んでいる。

 このように,かつてあった水辺を身近に取り戻そうという動きが各地で進んでおり,水に親しむ空間が随所に生まれている。
 次に,自然を再生させるプロジェクトから,街中の建物につくられる公園のランドスケープまで,都市に暮らしながらも感じる水辺――魅力的な水景を紹介していきたい。

 chapter 1 水辺の復権
 chapter 2 水辺の風景
 chapter 3  interview――水辺の魅力