特集:鉄とコンクリートの世紀

21世紀へ、変貌する建設材の姿を探る
当社は、鋼材やコンクリートについて様々な研究開発を行っている。ここでは、建築設計エンジニアリング本部で建築物の構造設計を担当する林部長から、また、技術研究所で土木分野のコンクリートを研究する信田主管研究員から、21世紀の建設材について述べていただく。

林 幸雄 21世紀の
鋼材の果たすべき役割


建築設計エンジニアリング本部
構造設計部長
林 幸雄 (はやし ゆきお)

●建物の構造にあった鋼材の開発
 当社を始めとするゼネコンは、建築物を構成する膨大な部材を様々なところから調達して組立てるアッセンブル産業です。その中でも鋼材などは、建築物の骨組みとなるものですから、材料の選定から組立てまで綿密な検討を行います。そして我々が鋼材に対して要求する性能をメーカー側にも理解していただいて製品を提供していただいています。そのため当社は大手鉄鋼メーカーと定期的に鋼材に関する情報交換をしています。その中で新製品の実験的使用やその結果を共有し、次の建築物に生かすようにしています。
 戦後の超高層を始めとする様々な建築物が実現できたのも、鉄鋼メーカーの開発が大きいと言えます。特に超高層の先駆けとなった霞が関ビルが完成したのも、施主、設計、施工、メーカーの4者が一体となって様々な技術開発に挑み、その中で新しい技術を開発したことが大きいでしょう。

● 鋼材にも性能が求められる時代へ

 鉄の原料となる鉄鉱石は豊富にあり、建設材料としての性能も非常に優れています。これに代わる材料は今のところ考えられません。21世紀においても建築物の構造材としての地位は揺ぎ無いものでしょう。ただし全体の流れが環境への配慮とかライフサイクルを意識した方向へと進む中で、鋼材においても強さ・硬さだけを追求するものではなくなるということです。
 その動きは既に始まっています。昨年の建築基準法の改正により、「性能規定」が盛り込まれました。これは従来材料や構造方法を具体的に規定して、それが使われていれば適法とした「仕様規定」を、ある一定の性能を満たせば建物に採用する材料の種類や構造方法を問わず適法とするというものです。今までは使われる部位によって期待される性能がはっきりしていませんでした。これからは使われる部位によって鋼材のスペックをきちんと決めて使う必要があります。21世紀の建築材料は性能を売る時代に本格的になるのです。

●鋼材の選定にもライフサイクルコストの観点を

 これからは建物の性能についても、顧客と話し合ってよく理解して頂く必要があります。当社としては、建築基準法の必要最低限なレベルの性能だけではなく、より満足のいく性能を顧客に提案して、納得した価格で採用して頂きたいと思います。
 それは、もちろん建物のライフサイクルを考慮した上での提案となります。例えば免震・制震装置を組み込み、建物の性能をアップすることによって地震などの被害からリスクを軽減することができますし、資産としての価値も上がってきます。または建物を証券化もしくは売却する際にも有利になります。21世紀は、ライフサイクルコストの観点から建物に関わる最善の投資ができるよう、当社としても設計なり施工をしなければならないのです。ていく責務があると考えています。
 協議会では流域の自治体みんなで議論を進めているところですが、意識をいかに高い状態で保っていくかが、非常に重要な課題です。市民の皆さんに説明したり開発事業者に指導していく立場の各自治体の担当者に、この流域はこのように浸水被害が起こりやすい流域なのだという現実を理解していただいた上で、自分たちは何ができるだろう、何をすべきだろうということを考えながら取り組んでいくことが重要だと考えています。そういう理解なくして総合治水対策はできないですし、河川管理者、都、県、自治体みんなが意識を一つにして初めて成り立つものだと思います。
 いろいろな機会で市民の皆さんにお話していますが、もっといいチャンネルで情報発信できないかと考えています。これからもいろいろな形で、少しずつでも説明や情報提供に努力を重ねていくことが大切だと考えています。

21世紀を見据えた新しい鋼材
 21世紀プロジェクトが東京都港区の汐留で進む。計画ではJR新橋駅近くの旧国鉄貨物駅跡地を中心とした地域に、業務・住宅・商業機能を併せ持った複合都市を整備する。工事は31haの敷地を九つの街区に分け、IT社会に対応した最新鋭のインテリジェントビル群を建設するもの。
 これらの建物には、21世紀の標準となる規格の構造材が多く採用される。例えば、低降伏点鋼という特殊な鋼材を装置として用いたハニカムダンパは、地震のときに鋼材が伸縮、エネルギーを吸収して制震効果を持たせる。またCFT鋼管は、鋼管の中にコンクリートを充填した構造材で、鋼材とコンクリートの相乗効果を期待している。

ハニカムダンパ
ハニカムダンパ

CFT鋼管
CFT鋼管
建設
当社は主に松下電工東京本社棟、鹿島棟、共同通信社新本社棟、トッパンホームズ本社棟、日本通運本社棟などを担当している



|鉄とコンクリートが実現した近代建築
|大構造架構を実現した(鉄骨)
|あらゆる構造物の建設を実現(コンクリート)
|21世紀へ、変貌する建設材の姿を探る
|次世紀のコンクリート開発の展望