特集:鉄とコンクリートの世紀

次世紀のコンクリート開発の展望

信田 佳延 技術研究所 土木技術研究部
主管研究員
信田 佳延(のぶた よしのぶ)

●建設コスト削減のための技術開発が重要
 建設コスト縮減、構造物の大規模化、工期の短縮、労働力の減少、自然環境保護の高まり、初期欠陥・耐久性不足問題など、コンクリート工事を取り巻く環境の変化に対応して、より合理的、経済的かつ環境負荷の小さなコンクリートが必要となってきています。またそれを生み出す方法も変化してきています。最終的に供用される構造物の性能は、単に材料としてのコンクリートの性能で決まるものではありません。前述した社会的ニーズや条件に対応したコンクリート構造物を得るため、新しい設計技術・構造形式、高い信頼性を有する施工システム開発などが不可欠です。多機能でかつ高性能なコンクリートに対する要求もさらに大きくなるものと思われます。
 しかし次世紀のコンクリートの技術開発は、現在の建設業界を取り巻く厳しい環境と無縁ではありません。建設投資の減少が予想される中、建設コストの削減や、資源の有効利用と構造物の高耐久化の流れに則したミニマムライフサイクルコスト追求が重要課題であると考えられます。

●高性能コンクリートの展開への期待
 コンクリートの性能は大きく力学性能、耐久性能および施工性能に分けられます。高性能コンクリートの例として高強度コンクリート、高流動コンクリート、高じん性コンクリート、高耐久コンクリート、軽量コンクリートなどが挙げられます。これらのコンクリートの性能はそれぞれが独立したものではなく、互いに関連するものです。水セメント比の小さい高強度コンクリートは材料自体の性能として一般的に高耐久性を有していると言えるでしょう。また、高強度・軽量コンクリート、高強度・高流動コンクリートなど複数の優れた性能を併せ持つ多機能型のコンクリートもコンクリートの高性能化の例です。さらに、環境・美観の観点から要求される性能を有するコンクリートの出現もあります。排水性舗装コンクリート、電波吸収コンクリート、再生コンクリート(再生骨材、産業副産物リサイクル材などの利用)なども従来のコンクリートに比べ高性能化が図られたものと言えます。
 これまでに述べたコンクリートは基本的には基礎性状が把握され、施工実績も増加しつつあるものです。それらが有する性能の高さを考える場合、将来、その利用がさらに図られるものと期待しています。

●性能設計への移行に向けて

 将来のコンクリート工事は、いわゆるライフサイクルコストを意識した「性能照査型」「性能設計型技術基準」に基づくものに移行すると考えられます。そこでは、コンクリート構造物の要求性能が明確に設定され、それに応じて、コンクリートの性能、施工方法を定める必要が出てきます。ここに、新材料・新工法採用の糸口が開かれています。言い換えれば、技術力の格差がより明確になるとも言え、技術力が発揮できる場が多くなると考えられます。コンクリート材料の高性能化、施工技術の向上に向け、さらに努力していきたいと考えています。

21世紀のコンクリート技術
 当社は社会のニーズや様々な施工条件に対応したコンクリート開発を行っている。高強度、高流動、軽量などの高性能化を図ったものや環境に配慮し資源を有効活用したものなどが挙げられる。21世紀に向けて当社が開発するコンクリート技術を紹介する。
高強度・高流動
コンクリート
高強度・高流動コンクリート
コンクリートの基本的性能である圧縮強度を追求、流動性を更に高めることで施工性の向上を図る。
金属のように変形する
高じん性材料
金属のように変形する高じん性材料
引張りに弱く、脆いというコンクリートの弱点を改善。繊維材料の利用などにより鋼材に匹敵する高い変形能力を引き出す。
水に浮くコンクリート
 
水に浮くコンクリート
普通コンクリートに近い圧縮強度と耐久性を併せもちながらも、水に浮くほどの軽さを実現。
寿命予測技術
 
寿命予測技術
塩害による鉄筋コンクリート構造物の劣化評価と寿命予測を可能にするシステム。新設構造物の耐久設計、既存構造物の補修・リニューアル計画の策定に適用。
コンクリート塊を用いた
再生コンクリート
コンクリート塊を用いた再生コンクリート
解体で発生したコンクリート塊を、現場内において軽微な加工処理を行い、コンクリート骨材として再利用する。



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