特集:災害に強い企業をつくる――鹿島のBCP
鹿島のBCP支援技術
当社は,これまで培った豊富な地震エンジニアリングとITを融合させ,独自のBCP支援技術を開発。自社のBCPをサポートするツールとして,プランの中に組み入れている。
地震発生の直前・最中・直後・事後,そして日頃からの地震への備え――。
地震災害を時系列で捉え,当社のBCP支援技術を紹介するとともに,その役割を考える。
地震の直前・最中・直後の技術 鹿島のリアルタイム防災システム「RDMS」
 揺れが到達する前に,地震が来ることがわかれば,危険を回避する行動が取れるし,恐怖やパニックを低減できる。発災後,ただちに被災状況を把握できれば,二次災害を防ぐことができるし,初動の開始を促すこともできる。
 当社は,揺れの到達前に地震の規模・到達時間を伝達する「鹿島早期地震警報」と,地震最中の揺れの計測などから,建物の危険度を判定し点検情報を提供する「リアルタイムモニタリング」を開発。両システムを組み合わせることで,地震の「直前・最中・直後」の対策をサポートする。この一連の技術を総称し,リアルタイム防災システム「RDMS」とし,当社の新本社ビル・新赤坂別館ビルに導入している。
鹿島早期地震警報 2007年10月に一般配信がスタートした気象庁の「緊急地震速報」。地震発生直後,震源に近い観測点で捉えた初期微動(P波)から,瞬時に震源の位置や規模を推定し,主要動(S波)が来る前に,予測震度や到達時刻などの情報を伝達・提供するシステムだ。ただしこの速報は,あくまでも震源地に関する基本情報であり,それ以外の特定の場所の震度情報は得られない。
 「鹿島早期地震警報」は,この気象庁の「緊急地震速報」を当社独自の豊富な地盤データと解析手法を用いて,より精度の高いピンポイント情報に変換。守りたい建物が建つ“その場所”の予測震度・予測到達時刻をユーザーに伝達する。同時に,設備・機器の制御を自動的に行い,二次災害の低減を図ろうというものだ。
地震波の伝わり方は,経路となる地盤の状態によって大きく異なる。対象建物が建つ“その場所”の揺れの大きさ,到達時間を知るために,当社は豊富な地盤データや解析手法を用いて,震源から“その場所”への地震の伝わり方を瞬時に分析。より正確な予測震度・予測到達時刻を伝達する。
鹿島のBCPでは・・・・・・
「鹿島早期地震警報」を受信すると,館内に報知音とともに地震予告の放送が自動的に流れる。
設備・機器については, LED点滅・照明一斉点灯・ブラインド全開・避難経路電気錠開錠・エレベータの一斉最寄階停止などが,自動的に作動する。
一部支店ビルや建設現場にも導入。建設現場では,高所作業などの作業員の安全の確保,揚重作業中のタワークレーンの安全な場所への待機,仮設エレベータ内の作業員の閉じ込め防止などに効果を発揮する。
リアルタイムモニタリング
 地震の際のリアルタイム情報を利用し,建物の防災管理をサポートするシステム。
 地震発生時,建物要所に配置した地震計が揺れを計測。建物情報(耐震性)などのデータをもとにシミュレーション解析を行い,瞬時に階層別に建物の応答(負荷)を評価する。さらに,防災監視カメラが,揺れの最中のビル内状況を監視。発災後は,応答解析結果と地震前後の防災監視カメラ画像の解析結果から,建物・設備の危険度を判定し,点検情報(要否・優先順位)を提供する。
当社では,防災センター内でシステムを管理。平常時は防犯用として監視カメラを活用している 主要情報を一覧表示地震情報や地震直後の建物の全体状況を1画面で素早く表示する
重要な部位・設備をビジュアル表示危険レベルに応じて点検箇所を表示。点検の優先順位など,次の行動をスムーズに支援する 画像による外観変化の検知重要設備の外観変化を,地震前後の防災監視カメラの画像解析をもとに自動判定した結果を表示する
鹿島のBCPでは・・・・・・
● 揺れの収束と建物・設備の危険度を確認し,手動放送により状況を従業員に周知する。
● ただちに点検の必要性のある箇所に人員を送る。
column
「RDMS」適用実績 
 「鹿島早期地震警報」と「リアルタイムモニタリング」を組み合わせたリアルタイム防災システム「RDMS」は,一刻も早い復旧活動と事業再開のための適切な対策を講じるBCP支援技術として,顧客のBCPにも活用できる。すでに東京都千代田区にある複合オフィスビル「秋葉原UDX」などに適用例がある。
 オフィスをはじめ,患者の安全確保と早期医療活動の再開が求められる病院や,危険薬液などを扱う生産施設,多くの利用者が集まるホテルや商業施設など,あらゆるニーズに対応できるシステムとなっている。
秋葉原UDXでの適用例
地震発生後の技術 BCMプラットフォーム復旧活動を支援する統合情報基盤「BCMプラットフォーム」
 発災後は,従業員とその家族の安否確認,自社の拠点ビル・現場などの被災状況を迅速に把握することが求められる。事業継続へ向けたアクション,そして得意先・地域への復旧支援のためには,速やかに初動体制を整えなければならないからだ。
 また,復旧支援活動のためには,できるだけ早く正確な被災状況を把握し,復旧工法の決定,資機材・人の調達を行う必要がある。
 こうした発災後の活動には,本社・支店・現場間の連携と情報共有が不可欠だ。当社は,災害時の即時情報共有,迅速な情報発信,最適な復旧計画立案を目指し,全社員が共有できる統合情報基盤「BCMプラットフォーム」をイントラネット上に構築した。
 このシステムは,地震発生直後から被災状況や復旧対応状況に関する情報などを,一括して共有できる。イントラネットが通じる場所であれば,社員はどこからでもアクセスでき,対策本部と同等の情報を閲覧できるとともに,情報発信することも可能だ。現在構築されているのは,「建物被災モニタ」「広域被災マップ」「緊急情報バインダ」「BCMデータベース」の4つのコンテンツ。今後,自社のBCP訓練で有効性を検証し,コンテンツの充実を図るとともに,より使用性にすぐれたツールへと改良していく。
 「BCMプラットフォーム」は,電力会社やデベロッパー,物流業界など,多数の営業所や建物管理を行う企業のBCPをサポートするツールとしても有効である。

BCMプラットフォーム

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鹿島のBCPでは・・・・・・
発災後,「建物被災モニタ」や「広域被災マップ」を活用し,被災規模と 復旧支援に従事できる人員情報を入手する。
営業所・現場が「緊急情報バインダ」から,現地の被災状況を報告。より精度の高い被災情報を収集し,早期復旧支援体制を整える。
営業マン・現場などが,得意先や当社の施工済み物件などの状況を調査し,「緊急情報バインダ」から報告。復旧支援計画立案を支援する。
「緊急情報バインダ」から,資機材や人員の情報を抽出し,復旧支援活動に向けた,資機材・人員調達の計画をたてる。
分散した拠点施設間の連絡・報告の一元化により,BCP活動を早める。
・・・etc
地震災害に備えた事前の技術 耐震技術とITネットワークで,地震から建物を完全武装 災害に強い企業をつくる――。2007年8月より供用されている本社ビル・赤坂別館には,当社の耐震技術が施されている。
 大地震時にも本社機能を維持し,自社の災害拠点となるべく,本社ビルには免震構造を採用。直径0.95mから1.2mの鉛プラグ入り積層ゴムを22基設置し,Sグレードという高い耐震性能を確保している。
 上層階が住宅,下層階がオフィスの赤坂別館には,各々のニーズに最適な構造計画を行うため,ハニカムダンパシステムによる制震構造を採用し,安全性を確保した。
 そして,当社の地震解析と制御技術により,従来のエレベータ地震時管制運転では制御できなかった長周期地震に対応できる管制システムを開発。両ビルに導入している。「鹿島早期地震警報」と連動させ,より安全なエレベータ環境を実現している。
 また,業務系データ通信(OA)と電話,ビル設備監視・制御(BA)をIPで統合した当社の「B・OA統合ネットワーク」の相互連携性能を活かし,当ネットワーク上にリアルタイム防災システム「RDMS」を構築。複数の拠点ビル・支店・技術研究所に 本社の「RDMS」が連動できる環境を整備した。

 当社は,独自のBCP支援技術と従来の防災技術,そしてITを活用した最先端のネットワーク環境を構築し,大地震に屈しない強い企業を目指している。
ハニカムダンパ 免震装置

「B・OA統合ネットワーク」上に構築された「RDMS」の概略図

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 鹿島のBCP訓練リポート
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