特集:災害に強い企業をつくる――鹿島のBCP
interview
BCP研究の第一人者である京都大学経済研究所 先端政策分析研究センターの丸谷浩明教授に,BCPの重要性と当社のBCPについて伺った。
丸谷 浩明/まるや・ひろあき
京都大学経済研究所 先端政策分析研究センター 教授。
NPO法人 事業継続推進機構 理事長。
1959年生まれ。
1983年東京大学経済学部経済学科卒業,同年建設省(現国土交通省)入省。88年には,経済企画庁調査局で経済白書等を担当。
その後,在シンガポール大使館,阪神高速道路公団出向等を経て,2000年建設省建設市場アクセス推進室長,国土交通省労働資材対策室長を歴任。04年には,内閣府防災担当でBCP等を担当し, 2005年より現職。
丸谷 浩明
日本のBCPの現況について
 日本のBCP普及率の調査をみると,昨年と今年とでは殆ど変わっていません。それは,BCPに対する理解が進むにつれて,「わが社のBCPは,本当に満足なBCPといえるのか・・・」と,慎重になっている日本の現況があります。日本人の真面目さから,本来の取組みの進展が数字に出ていないような気もしています。
 主に日本のBCPは,大地震を想定したものですが,震度6強の地震を想定したBCPを作るのは,広域的災害への対処ですので,単発的な事故等への対処に比べて確かに難しい。完璧なBCPの定義というものはないわけですから,どうBCPを進めていけばいいのか悩んでいる自治体や企業が沢山あります。
 一方,これからは,企業は戦略的取組みとして,BCPを作る時代になると思いますね。取引先の要求に応えるBCPを作ることは,企業のイメージ戦略にもなっていくと思うのです。
 英国では規格認証の動きが始まっていますが,第三者認証制度はBCPにはどこまで有効か疑問です。BCPは取引先が納得することが最も大切ですが,第三者に形式的な認証を受けても,それが担保できるわけではありません。むしろ人材の存在や熱心でユニークな取組みなどを表彰するなど,規格の側面にとどまらない評価の方が有効だと思います。外国のBCPの規格戦略に惑わされて,日本のBCPが混乱するのは避けたいですね。

鹿島のBCPに重要なこと
 鹿島の場合は,拠点となるビルに耐震技術が施されていますから,地震が来ても建物被害によるリスクは低い。恐らく大きなダメージには至らないでしょう。大手ゼネコンにとって,地震対応の大きなリスクは,お客様や地域の支援活動への立ち上がりが遅れて,信用を失うことだと思います。
 そのためにも,まず,社員や関係者の安全確保です。BCPの円滑な着手にも,それが大前提です。建設現場でも,事務所内でも,地震の揺れや二次災害で人に被害が発生すれば,オペレーションはそれに掛かりきりになって,他の対応のスタートができなくなる恐れがあります。もちろん,人道的観点からも,人命の確保に向けた防災対策は重要です。
 鹿島では,社員の自宅の耐震診断を行うツールがあると聞いていますが,社員の被災懸念を把握しておくことは大切です。どれだけの社員を初動に動員できるか予測し,計画しなければ,実効性のない計画だけがひとり歩きしてしまう。
 ですから耐震診断だけでなく,社員の自宅の家具固定もしておきたい。全社員とはいかなくても,キーパーソンや資格保有者など,BCPの要となる役員・社員宅の耐震補強を促すことは大変重要だと思いますね。
 自社要員の確保に続き重要なのは,顧客や地域への復旧活動支援に不可欠な資機材と労務の調達です。平時から,リース会社や協力会社といかに協力体制を構築しておくかが決め手になるでしょう。

当社の情報統合基盤ツール「BCMプラットフォーム」について
 これは大変有効だと思います。安否確認以外の情報を共有できる社内システムは,まだ少ない。自社のBCPで検証を重ね,是非とも他企業などへも提供してほしいですね。
 ただ,こうしたツールは,目的を明快にしないと,かえってBCPの足を引っ張る恐れもある。詳しく情報を連絡させ,多様な情報が集まったから満足,というようなものでは意味がありません。
 地震が起きて初動の現場にたった時,「担当者はまず何をやるべきか」という役割の優先順位と情報収集内容が整合したシステムでなければなりません。例えば,即座に経営者に上げなければならない第一報――死傷者がいるか,対象建物が倒壊していないかなどの簡潔な事実の伝達が,多様な情報を集めたいというシステムの(自己満足的な)目的により阻害されることがないようにすべきでしょう。

社員に対する啓蒙について
 訓練についても,社員へのBCPの啓蒙・周知の目的を持ち,訓練を事前勉強の機会とさせて臨ませる工夫が大切です。「自分はBCPとして何のために,何をすべきか」が解っていない人に訓練しても,意味がありません。社員に自分自身のBCP対応のチェックリストを作らせるのもいいでしょう。BCPというものは,担当者から指示されたからやる,という受身では適切な運用も改善も進みません。
 また,管理職を含む各人のBCPへの取組み度合いを,人事の査定項目のひとつにいれると効果的だと思いませんか。BCPは企業のマネジメント戦略ですから,トップのそのような確固とした意思表明が望ましいと思います。

今後当社に期待すること
 BCPは今後益々導入が進むでしょう。ゼネコンも耐震技術だけでなく,独自のBCP支援技術を,他企業へ提供していくことが求められます。鹿島の「鹿島早期地震警報」や「BCMプラットフォーム」などは,他企業のBCP支援に非常に喜ばれる技術だと思います。ITベンダーなど他業種とタイアップして,コンサルティング業務をフィービジネスとして進めていくのはいかがでしょうか。
 それから,各地の支店の技術者や営業担当者のBCP教育も是非お願いしたい。地方にはどうやってBCPを作ればいいのか,どこに相談したらいいのか,悩んでいる自治体や中小企業が沢山あります。こうしたニーズに応えるために,“BCPのことならこの人に聞けばわかる”という人材を各地に育てて,簡単なレベルでもよいので相談にのってあげていただきたい。
 私が所属するNPOでも,独自の中小企業向けのBCP策定ガイドを改良しながら,各地で講演会や勉強会を行っていますが,ゼネコンの各支店にも協力いただければ力強い限りです。BCP普及の支援をすることも,企業のCSRの一つです。鹿島の有効な技術と優秀な人材を駆使して,BCPでも社会に貢献していただきたいです。

 鹿島のBCP支援技術
 鹿島のBCP訓練リポート
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