特集:景観デザインと土木の「バランス」

Chapter1 土木のデザインコンセプト

土木構造物としてのバランスと風景のなかのバランス
 豊かな景観の創造と自然環境の保全が求められるなかで,1990年代以降,土木においても景観デザインに関する思想や手法の形成,制度の構築が本格化してきた。たとえば2001年には土木学会の景観・デザイン委員会で「デザイン賞」が設立されている。
 こうしたなかで当社では,景観デザインに取り組むにあたって,総合建設会社(ゼネコン)として土木構造物を建設してきた実績と経験を基盤としている。それは,土木構造物の前提となる機能性・経済性・施工性のバランスを確保したうえでデザインすることである。つまり,「土木構造物としての基本性能のバランス」が,第一のデザインコンセプトとなる。
 第二に,いわゆる意匠を考えるにあたっては,「シンボル性」と「調和性」を結ぶデザイン性の指標軸を設定し,「風景のなかのバランス」を重視した設計を行っている。つまり,周辺の環境や構造物の機能に応じて,シンボル性を強調するか,調和性に重点を置くか,あるいは双方を融合させるかを検討し,実用的でバランスの良い景観の創出を当社はめざしているのである。
 ここでは,それぞれの設計主旨の特徴がよく表れたデザインの事例をもとに,鹿島の景観デザインのコンセプトを紹介する。 
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基本性能の高度化とデザイン効果
 安全な社会基盤づくりを目的とする土木においては,基本性能の要求も時代を経るごとに高度化している。景観デザインは,こうした基本性能をより効果的に向上させることが可能となる。
 たとえば道路施設では,増加しつづける交通車両に対しても,走行の安全性を確保することは変わらざる原則である。さらに,より円滑で快適な走行環境の実現が求められている。構造物から受ける圧迫感の低減はその解消手段のひとつだが,それは同時に周辺環境への配慮ともなる。

 
図1 立体交差プロジェクト 図2 トンネル坑門プロジェクト
 
 図1の〈立体交差プロジェクト〉は,圧迫感低減のためにコンクリートの露出面が最小となる竹割式坑門を採用し,周辺法面との一体感を図るデザインとした。
 図2〜4の〈トンネル坑門プロジェクト〉では,周辺環境との調和と安全な走行への配慮から,壁面の輝度低減処理を施した面壁式の坑門をデザインした。渋滞の原因となるトンネル進入時のブレーキを減らすために,走行車両のドライバーの視点から進入抵抗感の低減も図った。
 
図3 トンネル坑門プロジェクト(原案) 図4 トンネル坑門プロジェクト(デザイン案)
 
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鹿島の土木構造物における景観デザインのコンセプト
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シンボル性
図5 高架駅舎プロジェクト
図6 高架駅舎プロジェクト
 シンボリックな構造物においてもデザイナーの個人的な主義主張は求められず,地域の環境や風景のなかでバランスよく存在することが課題となる。
 図5〜7の〈高架駅舎プロジェクト〉は,橋梁技術を活かした土木ならではの空間デザイン。街の伝説に由来する光の演出は,構造美のシルエットが骨格となっている。
 図8〜10の〈富士通厚木グランド歩道橋〉では,シンボリックな造形を事業者から求められるなかで,CIマーク(∞)をイメージさせる平面線形で設計し,豊かな緑に映えるデザインとした。



図7 高架駅舎プロジェクト
図8 富士通厚木グランド歩道橋 図9 富士通厚木グランド歩道橋 図10 富士通厚木グランド歩道橋
調和性
 風景に調和し,バランスよく溶け込むことをめざす土木構造物では,造形だけでなくテクスチャーや色彩など細部にわたってデザイン検討を行っていく。
 図11〜12の〈多摩川橋梁〉では鉄道鋼橋の色彩計画を手掛けた。周辺環境の色彩や特色,環境色の調査を実施し,橋梁形式をより美しくみせるカラーコーディネートを展開した。
 図13〜15の〈鉄道高架橋プロジェクト〉は,連続立体交差事業にともなう鉄道高架化計画におけるデザインである。さまざまな視点からの見え方と周辺のイメージ調査をもとに,存在感を和らげるテクスチャーや色彩などをまとめた。
図11 多摩川橋梁 図12 多摩川橋梁
図13 鉄道高架橋プロジェクト 図14 鉄道高架橋プロジェクト
図15 鉄道高架橋プロジェクト


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|Chapter2 橋梁美の設計プロセス
|Chapter3 鹿島の考える「バランス」