特集:環境配慮建築

Chapter1 屋上緑化とビオトープで生態系を再生
−自然との共生−
わが国では都市化に伴い緑地が減少し,ヒートアイランド現象や大気汚染の問題を引き起こしている。こられの解決策として,屋上緑化やビオトープが注目されている。多くの建物を緑化することで都市の緑被率が向上し,生態系の保存や再生にもつながる。
地域の街並み配慮から始める
 我々は自然から多くの恩恵を受けている一方,様々なところで自然に手を加えてきた。人間は自然生態系の一部であり,良好な生態系の維持なくしては真に快適な人間環境の創造もないであろう。サスティナブルな社会とは,次代に豊かな恵みを残すことであり,このためには今後,自然や生態系にできるだけ影響を与えない取組みが重要となる。
 特に自然を相手にする建設業では,建設行為に伴う生態系への影響をできる限り少なくし,自然の地形を活かした計画により地形改変などを最小限にとどめなければならない。建設の際には,長い年月をかけて形成された自然表土の保護や既存樹木の保存を行い,既存の街並みや街路との調和を図る必要がある。建物がつくる街並みは,地域の貴重な共有財産でもある。これらと共存し,更に調和を高めていくような街づくりが求められている。
生態系の再生などのメリットがある緑化
 最近では,建物の屋上緑化や,動植物の生息空間を創出するビオトープをつくる動きが活発化している。国や自治体でも緑化の普及のために様々な法整備を進めている。屋上緑化は,屋上の照り返しを防止し,断熱による省エネルギー効果を発揮することにより,地域のヒートアイランド現象を軽減すると言われている。また,建物を酸性雨や紫外線から防ぐ効果や,雨水を一時的に蓄える保水機能や大気浄化機能も発揮する。ビオトープが公共の場にあれば,地域住民の環境教育やコミュニティ形成のための共通の題材ともなる。
 都市部では大規模な緑地を確保することは困難である。しかし,各建物に小緑地を設置し,これを有機的に結べば生態系のネットワークが形成される。地域の植生にあわせた緑化と生物の生育環境を整えることにより,多様な生物が育み,都市のエコアップが図れるのである。
当社KIビルのアトリウム マルイト札幌ビル
緑のネットワークをつくることが大事
 地上と異なり,特殊な環境下にある建物の屋上に樹木を植栽したり,ビオトープをつくるには,様々な配慮をして動植物が生育できる環境を整えることが必要である。特に既存の建物については,屋上の積載荷重や防水層の調査を十分に行わなければならない。
 樹木の選定の際には,計画地の気象条件や自然環境に適したものを選び,積載荷重条件や植栽基盤の厚さ,樹木の成長度,搬入の容易さなどの点も考慮する。例えば,背の高い草花は風で倒れやすく,大きくなる樹木は荷重負担などの点からも適さない。
 またビオトープでは,生態系の連鎖や植生のバランスを乱す外来種などの混入を防止し,周辺地域と緑のネットワークが形成されるよう配置を考える。都市環境下では,人と自然がバランス良く保てるよう相応の維持管理を行うことも大切である。
 屋上緑化の普及促進に向けて   品川エコ・ヒーリングガーデン 
昨年9月に東京・品川区総合庁舎の屋上にオープンした展示ガーデン。約890m2の面積にリサイクルした床材や軽量土壌などを使用して,乾燥に強い植物をはじめ五感を刺激する様々な植物が栽培されている。
各種の緑化技術や手法を分かりやすく見学できるよう5つのエリアに分け,屋上緑化の普及を図っている。
幅広い層の人々が親しめるようバリアフリーにも配慮した施設だ。
「キッチンガーデン」エリア 「ヒーリングガーデン」エリア
品川エコ・ヒーリングガーデン
「ビオトープガーデン」エリア 「セダムガーデン」エリア
地域コミュニティの場として   渋谷区ケアコミュニティ・原宿の丘
廃校となった中学校をリニューアルして昨年7月に営業を開始した福祉施設。既存の屋上プールを最大限に活用し,水中及び水辺の多様な生物生息空間となるビオトープを創出している。プール内には深さを変えてプランターを沈め,低層には,ハス,スイレンなどの浮葉性植物,中層にはコウホネ,ヨシなどの抽水性植物,水面の浮島にセキショウ,セリなどの湿地性植物を植えた。プールサイドには,枕木を利用したプランターに草花や中低木を植栽し,観察デッキなど利用者が植物や水辺に近づけるエリアも設けている。日常管理や生き物観察を地元のボランティアが行っており,地域コミュニティの醸成にも寄与している。
既存のプールを利用してつくられたビオトープ 深さを変えて沈めたプランターで様々な水草を栽培している
渋谷区ケアコミュニティ・原宿の丘


|Chapter0 環境配慮建築とは?
|Chapter1 屋上緑化とビオトープで生態系を再生
|Chapter2 風や自然光を利用して省エネ
|Chapter3 リニューアルで永く使い継ぐ建築