特集:環境配慮建築

Chapter3 リニューアルで永く使い継ぐ建築
−長寿命化への対応−
建物は,その建設に際して資源を消費し,解体でも廃棄物を発生させ環境に負荷を与える。建物に求められるニーズに長期的な視野から対応することで,建物をより永く使い続けることができ,その結果,廃棄物の削減にもつながる。
長期的なニーズに対応する可変空間
 価値観が多様化する現代。建物の利用形態においても,利用者や居住者のニーズの変化に柔軟に対応できなければならない。その際に重要となってくるのが,リニューアルのし易さである。
 当社が提案する「超高層フリープランハウジング」は,居住空間から柱や梁などを無くし,多様な住戸プランを提供する。将来の間取り変更にも柔軟に対応し,居住者の長期的なニーズに応えると共に,建築の社会的寿命を伸ばすことが可能である。
 この考えを具現化したのが,当社が開発したスーパーRCフレーム構法。その構造は,建物に必要な構造要素を,建物中心部の柱「スーパーウォール」と,最上部の大きな梁「スーパービーム」,外周部の「コネクティング柱」に集約することで,居住スペースに柱や梁などを無くすことができた。スーパービームの先端部とコネクティング柱との間には制震装置が組み込まれており,地震や風にも強い。
 2001年6月に東京都港区に竣工した芝パーク・タワーで初めて適用されてから,今日まで施工中の物件を含め,5棟の超高層マンションに適用されている。
「スーパーRCフレーム構法」概念図 多様なバリエーションを可能とした「超高層フリープランハウジング」)
進化したスーパーRCフレーム構法
 現在,東京都中央区で建設中の「イヌイ建物プラザタワー勝どき」は,スーパーRCフレーム構法の進化したかたちである。完成すると地上43階建て,高さ155mの超高層マンションとなり,同構法を採用した中でも最も高い建物となる。
 このマンションは従来のタワー型が主流の超高層マンションでは考えられなかった横幅の長い形状が特徴である。スーパーウォールを建物の長辺方向に2組配置することで,居住空間として奥行の約7倍もの広さの間口を実現。全戸の約8割が南向きとなり,方位にとらわれない自由な住戸割を可能としている。
 さらに,同マンションでは間取りの多様性を実現しただけでなく,躯体の材料にも長寿命化への配慮がされている。圧縮強度が最大60ニュートンにも達する高強度コンクリートは,100年間の耐用年数がある。比較的早い更新が予定される設備・電気配管などは二重床や二重天井の内部に納め,改修が容易に行えるようにしている。
 都心の好立地に続々と建つ超高層マンション。これからのマンションは短期の投資目的ではなく,長期の資産としてのニーズがますます高まってくる。そんな中,長寿命化に対応したマンションが,良質なストックとして社会に蓄積されていく。
完成予想図(2004年2月竣工予定) 躯体概念図。スーパーウォールを2組配置している
隅田川を望む43階建てのイヌイ建物プラザタワー勝どき。23階まで建ち上がった(2002年12月現在) 居住空間に柱と梁がまったくない大空間が広がる。単身向けからファミリー向けまで多様なタイプの間取りをとることができる
歴史的建造物の保存と,建物のコンバージョン
 長寿命化への対応は,既存の建物をリニューアルすることでも図られる。一昨年秋にオープンした横浜情報文化センターは,歴史的建造物と最先端のインテリジェントビルとの融合を図った例である。1929年の開業以来,横浜の発展と共に歩んできた「旧横浜商工奨励館」と「旧横浜市外電話局」を最新の技術で改修・耐震補強し,新築のビルを取り込んだかたちで再生した。
 一方で,既存建物の機能を新しいニーズに対応するよう,用途変換を図る「コンバージョン(用途転用)」がいま注目を集めている。当社では,1995年に軽井沢でルーブル美術館の改修などで知られるフランスの建築家・ジャン=ミッシェル・ヴィルモット氏との共同設計により,ウィスキー蒸留所内の樽貯蔵庫を改修して美術館をつくっている。
 最近の事例では,少子高齢化社会を反映して小学校を医療福祉施設に転用する例も出てきた。例えば,人口流出の激しい東京・赤坂で,築17年を経て廃校になった区立小学校の校舎の躯体を残し,内装・設備を全て一新,特別養護老人ホームを現在建設している。
 首都圏で大型ビルの供給がピークを迎える2003年。需要の少なくなったオフィスビルの有効利用として,今後,集合住宅などにコンバージョンする動きが活発化するであろう。
着工前の「旧横浜商工奨励館」と「旧横浜市外電話局」 矢印 新しいビルを取り込んで横浜情報文化センターとして生まれ変わった(2000年3月竣工)
ウィスキーの樽貯蔵庫を転用した軽井沢のメルシャン美術館(1995年7月竣工)


|Chapter0 環境配慮建築とは?
|Chapter1 屋上緑化とビオトープで生態系を再生
|Chapter2 風や自然光を利用して省エネ
|Chapter3 リニューアルで永く使い継ぐ建築