『どこでもスタジアム』『ふうせんドーム』『ボールパークの夢』『プラスチックで作る建物』『簡単屋根架け』『日集めドーム』『巨大オペラハウス』・・・。岡村さんにとってのスケッチは,アイデアやイメージを伝える言葉のようなもの。「どれも絵空事ではありません。特許登録などで記録して,現実と格闘しながら実現を待っている“夢”なのです」という。
どこでもスタジアム
2002年FIFAワールドカップの招致合戦で,日本は「バーチャルスタジアム」というコンセプトを掲げて招致活動を展開した。日本のハイテク技術で,試合が行われない他のスタジアムのフィールドに巨大スクリーンを設置し,立体映像を映し出す。あたかもそこで試合が行われているかのように観戦できる「バーチャルスタジアム」を実現するという主旨だった。
「そんな大掛かりなことまでしなくても」と岡村さんは思った。それで以前から考えていたアイデアの特許申請にかかった。アイデアは「懸垂式スクリーンによる簡易な対面型大型映像装置」。
全国どこにでもある体育館やスポーツアリーナなどの屋内空間を使った新型の大型映像装置で,フィールドの中央部に懸垂式のスクリーンをぶら下げて,裏側から両面に映写する。天候や明るさ,コストの制約の少ない巨大スクリーンだ。効果的な音響とともに,競技場さながらの臨場感が演出でき,手軽に楽しめる『どこでもスタジアム』である。
結果は日韓共同開催となって,「バーチャルスタジアム」の計画は頓挫したが,岡村さんのアイデアは2003年,当社の特許として特許第3438853号に登録された。折りしも2010年はFIFAワールドカップ開催の年。もう一度岡村さんの特許を取り出して,日本勝利の夢を描いてみよう。
6月14日,『どこでもスタジアム』が開設されたエムウェーブ(長野市)。日本代表は初戦の対カメルーン戦を,南アフリカ・ブルームフオンテーン市スタジアムで迎えた。サッカー場のフィールドよりも広いスクリーンに,一つのプレーを様々な角度からライヴで映し出す。立体的な音響が,会場に集まった数万人の観客の興奮を呼び起こす。「ニッポンチャチャチャ」のリズムはやがて最高潮になり,エムウェーブは勝利の感激の波に浸る——。
「究極のバーチャルはパーソナルな高性能AVにあるのかもしれませんが,スタジアムは数万の人が集まるところ。そこでの臨場感,一つの場所で感動を共有する醍醐味はまた格別なものがあるはず」と,岡村さんは描く。 |