特集:新たな中期経営計画――2006〜2008年度

Part 2 鹿島グループ 中期経営計画(2006〜2008年度)スタート 中村社長に聞く
5月18日,当社は「鹿島グループ 中期経営計画(2006〜2008年度)」を発表した。
建設業をめぐる経営環境が激変する中,鹿島グループが継続的に成長し,発展を遂げていくための経営の基本方針と業績目標を設定したものである。
そのキーワードは,「お客様本位」と「企業倫理の実践」。
新しい中期経営計画のスタートに当たり,陣頭指揮を執る中村満義社長に聞いた。
(聞き手: 竹田優広報室長)
経営体質改善の果実をどう生み出す

Q まず,先の中期経営計画の総括からお伺いします。
――先期を最終年度とする3年間の中期経営計画は,ハードルの高い目標設定だったにもかかわらず立派に達成できました。私は当初営業本部長として受注面での目標達成に注力しましたが,ほぼ全ての数字でクリアできた。本支店ならびに関係会社の皆さんの努力の賜物と感謝しています。
 前任の梅田社長(現会長)時代に,有利子負債や企業年金問題など様々な財務リスクを一掃し,しっかりとした財務体質を整備してくださった。ですから経営体質改善の果実をどう生み出していくかが,私に課せられたテーマだと思っています。具体的には受注高,売上高,それに利益の面でバランスの取れた収益力の確保を目指す。改正独占禁止法の影響から土木の受注は落ちると考える人がいるかもしれないが,これは判りません。でもやはり建築にはしっかり頑張ってもらうことになるでしょう。
中村社長に聞く
品質と高付加価値を真ん中に据える

Q このほど策定された新しい中期経営計画について,基本方針と狙いについてお話ください。
――マスコミの取材でも,新しい中期経営計画の目玉は何ですかと聞かれます。強いて言えば「目新しいものはありません」というのが目玉かもしれませんね。奇をてらうことなく,ひたすら本業の建設事業を,地道に一つ一つ丁寧に推し進めるということです。本業が強ければ開発事業やPFIなどでの相乗効果も生まれると思っています。
 私は40年間営業に携わってきて,そこで得た教訓の一つが「お客様と一緒に考える」ということでした。どうしたらお客様が満足する構造物やサービスが提供できるのか。それには品質が確保されなければいけません。お客様の多様なニーズを的確に捉え,品質と高付加価値にこだわった建設事業に一生懸命邁進する。そうすれば,その後に必ず受注はついてくる。利益もきちんとついてきます。建設業の原点に返って,まず品質を真ん中に据える。品質は信頼の基礎。それが私の経営方針の基本です。
 近頃は,お客様が計画したものをただ施工するという時代ではなくなりました。私たちには,しっかりと蓄積した技術やノウハウを活かして,コストパフォーマンスの高いものづくりをする基盤がある。ですからお客様と一緒に考えながら,お客様の気づかれていない潜在的なニーズをも掘り起こしてさしあげることもできるのです。
 新しい経営計画では,2008年度で連結経常利益600億円以上を目標にしています。けれども目標というのは,単に 600億円以上稼ぐということではありません。社員が自らの仕事に誇りと自信と愛着を持って活動できる土壌ができれば,利益は600億円だろうと必然的についてくるものだと思っています。品質―お客様の満足―受注―利益―社員の生活というサイクルを完成させる,その根幹に顧客本位主義がある。私は社員との会話を通じてそうした土壌作りに務めたいと思っています。この考えと活動をグループ全体に浸透させていくことが3ヵ年の目標です。

土木事業の受注力強化も三位一体で

Q 新しい中期経営計画で特に重点的に取り組みたいテーマは?
――いま一番力を入れたいのは土木の受注力強化ですね。民間中心の建築工事は,公共工事主体の土木より景気変動の影響を早く受ける。それで,総合力を発揮してやってきた。設計力,施工力,営業力の三つが噛み合わないと勝てないから,「三位一体」とか「それぞれの立場を考えろ」といってきた。土木の人たちにすれば,土木は一枚岩でちゃんとやっているとの自負もあったと思いますが,いまは総合評価方式,公共工事品質確保促進法(品確法)の時代です。土木もまた設計,施工,営業の三位一体が不可欠の環境にきているのです。
 その意味で土木の受注力の強化,三位一体の作り込みに取り組みたい。価格競争の波を乗り越え,レベルの高い技術提案競争を勝ち抜いて,真の「土木の鹿島」の地位を確立したいと考えています。それには旧来の社会システムの中で培われてきた慣行と決別して,新しいビジネスモデルの構築を急がなければならない,そんな時代になっているのです。
 もう一つは建築の収益力の強化です。建設市場としては,ここしばらくは建築の割合の大きいトレンドは変わらないでしょう。ですから,利益の成長は建築が主体的に担うとの気概を持ってやってもらいたいと思っています。その方法論としては,竣工時利益を入手時に想定する生産機能の強化があげられる。お客様へ提案する以前の検討を入念かつ戦略的に行うのです。キーワードは生産計画機能の強化。これが建築の受注収益に繋がると確信しています。
 需要が高まる開発事業やエンジニアリング事業,環境事業などについても,経営環境の変化を機敏に捉えて,事業の拡充や新規プロジェクト創出の機会の拡大を積極的に推進していきたいと考えています。
中村社長に聞く
コンプライアンスが社員の生活守る

Q CSR(企業の社会的責任)についてのお考えをお聞かせください。
――いま企業に強く求められるのは,高い企業倫理に基づいたコンプライアンス経営の実践です。企業は利益追求だけでなく,常に社会から信頼され信用される存在でなければなりません。それにもかかわらず昨年後半から構造計算偽装問題が発覚,さらには談合事件が相次いで摘発されるなど,建設業に対する社会の不信感や違法行為に対する制裁強化の流れが増しました。改正独占禁止法の対応を誤れば,企業経営は深刻なダメージを受けることになるのです。
 もちろん,独禁法に限らず全ての法は遵守しなければいけません。社員一人一人の企業倫理の確立,遵法精神こそが透明性ある企業活動の根幹になる。ですから今後は役員・社員の違反行為には厳罰処分をもって臨まざるを得ません。例えば談合が発覚すれば,会社は営業停止になるとか,課徴金を払うとかのペナルティを受ける。同時にその社員に処罰が下される。社員と家族の生活まで影響が及ぶことになる。
 ですからコンプライアンスの徹底は,社員の生活を守ることにもなるのだと私は考えています。そういう視点からも法令遵守を強く役員・社員に訴えていきたい。会社のためという弁解はもはや許されないのです。

自然環境に対しては常に礼儀正しく

Q コンプライアンス経営の実践が求められる一方で,サステナブル社会の構築,環境創造への一層の貢献が求められています。
――持続可能な社会を実現するための「環境経営」が,建設業でも重要なCSRの一つになっています。それは,企業の経営方針の中心に積極的に環境問題に対する意識を組み込むことと認識しています。事業活動に伴う環境負荷をいかに低減し,安全で住み易い環境創造にどう貢献するか。喫緊の課題はたくさんありますが,その実現にはこれまで培った建設技術が寄与すると思っている。事実,自然保護やサステナブル社会構築のために提言し,実現してきた技術やノウハウは数多くあるのです。
 建設業の仕事は時として自然環境に手を加えることになる。しかし自然に対しては常に礼儀正しくありたい。鹿島は更なる技術開発を通じて,環境に対して感度の高い企業を目指します。
中村社長に聞く
自分の仕事に誇りと自信と生きがいを

Q 新しい中期経営計画の推進に当たって,社員に何を求め,何を期待しますか。
――私が社員に求めるというより,私が求めるものが社員の求めるものと一緒であってほしいと思っています。私の考えや行動を見て共鳴し理解して一緒に動いてほしい,というのが私の考え方です。
 野球を例にとりましょう。1番バッターには足が速くて出塁率の高い能力の選手を置く。それがオーソドックスな考え方です。しかし4番を打っていた選手を1番に据えたらどのようなことが起きるか。これは監督が考えなければいけない人事の問題です。私が言いたいのは,どういう野球を監督が試みようとしているかを見て判断してください,ということなのです。あ,それなら自分はこういう役割をすればいい,と考えてもらうのです。私がどういう野球をやりたいかは,折々に発信しているメッセージにも入っています。
 例えば,入社式の訓示でも話しましたけれども,私が「クリエイティブであれ」と言ったとします。日本語の「そうぞう」には,ものを作り出すクリエイト(創造)とお客様のニーズを予想するイマジネーション(想像)の2面があります。ある情報が入った時,そのメッセージから何を感じ取り,何を思うかということなのです。雲が出てきたら雨が近い,温度も下がるだろう,というのは想像の世界です。そこで何をやれば売れるかとなればクリエイティブな話です。大事なのは,その情報をどう受け止めるかということ。情報の中から重要なポイントを発見するための感性を磨いておくことも大切になるでしょう。
 社員の皆さんが,トップが何をやりたがっているかを察知して,自分に必要なものを考える。これがマッチングすると,それは大きな力になる。トップの価値観を社員の皆さんが共有し,理解してもらうのは大事なことだと思っています。
 もう一つお願いしたいのは,社員一人一人が自らの仕事に誇りと自信を持つということです。会社という組織の基盤は,結局は個々の人にあるのですから,まず個人が楽しくなければいけません。楽しくなるというのは,苦しさを乗り越えた中から生まれてくるのだろうけれど,それは自らの仕事に達成感とか愛着を持つことだと思う。最終的には給料ということになるのでしょうが,給料の多い人の方が楽しいとは一概にはいえないのです。
 企業人として仕事をする以上は,辛くてもやり抜く,やり遂げた結果としての達成感,それが生きがいとなって心を満たすのですね。困難を克服した時の感動,お客様からの感謝の言葉・・・。これは決してお金では買うことのできない無上の価値だと思います。

お客様に喜んでもらえる価値の提供

Q 新しい中期経営計画の最重要課題に「顧客志向」を掲げましたが,お得意様をはじめステークホルダーに,鹿島としてのメッセージがございますか。
――先ほども触れましたが,私は会社というのは,お客様からの信頼があってこそ存在意義があると思っています。お客様の信頼とは何かといえば,鹿島に,あるいは鹿島のあの社員に頼めば間違いないと思ってもらうことだと思うのです。「任せておけば安心」と言われる鹿島でありたいし,お客様からそうした評価を常にいただけるよう努力していきたい。
 私たちは,お客様のために私たちの全ての経営資源をつぎ込んでいくつもりです。それによってお客様とコミットし,お客様の信頼を得る。これが私の考える経営の基本軸です。お客様に喜んでもらえる価値が提供できれば,利益という対価がもたらされ,社員は健全で安定した生活が営めるわけです。そういう経営をして参りますので,お客様をはじめステークホルダーの皆様には,ぜひ私たちの姿勢を見ていただきたいとお願いしたいのです。

真に魅力ある企業への脱皮目指そう

Q 社長就任から間もなく1年が経ちますが,特に思い出深いことは?
――重く受け止めているのは,やはり改正独占禁止法の施行ですね。今年1月に発覚した談合問題では,はからずも鹿島も関与する事態になりました。社員が略式起訴されたのは残念でなりません。日頃から執拗に法令遵守を求めてきましたが,改めてコンプライアンスの徹底を強く感じました。この事実を真摯に受け止め,二度と社員をそんな目に遭わせてはいけないと,改めて思いました。
 私は社長をしている間に,建築・土木・事務全てのジャンルの学生が鹿島に行きたいという会社にしたいと思っています。それにはまず建設会社,そして鹿島のイメージアップを図らねばなりません。そのためには,旧来の社会的慣行と断固決別し,社員一人一人が法令遵守に務め,胸を張って生き生きと仕事に打ち込める,そのような環境の中で,新しいビジネスモデルを構築しなければ,本当に魅力ある企業への脱皮はできないと思うのです。
 もう一つは安全管理の問題です。就任早々に労災事故が起きたこともあって,思い立ったのが安全パトロールでした。就任の挨拶回りをしながら,夏の2カ月間で10数回実施しました。「安全」を通じて,支店をはじめ色々な現場へ寄って,一番大切な現場の人たちと触れ合えたことは良かった。私の考え方も知ってもらえた。「災い転じて福」ではないけれど,良い機会を得たと思っています。
 執行役員制度の導入からも1年が経って,機動力がでてきました。取締役会でパッと集まり,月1回の特別役員会議にかけて全ての執行役員に周知する。執行役員はそれに基づいて,それぞれの所管業務を責任を持って遂行できるわけです。取締役は現在13人ですが,皆同じ土俵で話を聞く。事前に全取締役に配られる資料をもとに議事を進めるから,効率もいい。会議も活発化しました。うまく機能していると思いますね。
 組織改革をはじめ,労災事故や談合問題,構造計算偽装など,確かにこの1年,いろいろなことがありました。石川名誉会長の逝去という悲しいできごともありました。その一方で,鹿島の新しいビジネスモデルともいうべき秋葉原クロスフィールドのグランドオープンを迎えることもできた。体験した全てをこれからの経営に活かしていきたいと思っています。



Part 1 計画のあらまし
Part 2 中村社長に聞く
Part 3 事業戦略の推進