特集:新たな中期経営計画――2006〜2008年度

Part 3  事業戦略の推進
新たな中期経営計画では,「建設本業の深耕と技術・営業の強化」が重要なテーマとして掲げられている。中核である国内建設事業のさらなる競争力強化に向けて,顧客ニーズの高度化・多様化を踏まえた企画提案力,高い技術力とエンジニアリング力による受注営業力を強化し,収益力の向上を狙おうというのが戦略の基本的な考え方である。
併せて,開発事業の積極的推進,環境事業やPFI事業の強化,建設周辺分野の拡充により,建設事業との相乗効果を追求し,グループ収益力の強化を図っていく――と明記された。事業を遂行するに当たって各セクションはどんな事業戦略を展開しようとしているのか。建築,土木,エンジニアリング,環境,開発事業のトップに決意を聞いた。
建築事業の事業戦略の推進に当たって
 建築事業においては,高度化・多様化する顧客ニーズを的確に捉え,「顧客にとってのベストバリュー」の提供に向けた取組みを強化してまいります。
 そのためには,まず価格競争力の強化が不可欠です。営業・設計・施工の連携を一層強力なものにし,全社の総合力を発揮できる体制を確立するとともに,工事入手段階でのコストの作り込みや戦略的なVE提案を可能とする生産計画機能の強化を推進いたします。
 また,ソリューション提供力の強化を図り,当社ならではの高品質で高付加価値な建物の創造を提案してまいります。さらには,開発事業やエンジニアリング事業,環境事業等と一体となった取組みにより,お客様にとってより最適なソリューションが提供できるものと考えております。
 例えば,当社が企画開発から設計・施工を手がけた「秋葉原クロスフィールド」は,交通網の結節点に一大IT拠点を形成するという東京都の構想に応えた,社会貢献度の高い再開発プロジェクトとなりました。また生産施設の建設においては,技術と市場ニーズの急速な変化に対し,当社のトータルエンジニアリング力で応えています。医療福祉施設の建設に当たっては,高度専門医療や高齢化対応,災害時にも強い病院といったニーズに対応した施設の設計・施工にとどまらず,病院経営や運営面など様々な提案を行い,施設づくりのサポートを行っています。
 以上のような価格競争力・企画提案力の強化への取組みに併せ,品質・安全並びに環境への配慮を満たす生産体制の構築も急務であります。工事監理体制の拡充,協力会社の育成・強化などを図り,「安全・安心で快適な環境創造」に貢献してまいります。
取締役専務執行役員 建築管理本部長 金子 宏
交通網の結節点に一大IT拠点を形成(秋葉原クロスフィールド) 生産施設の建設(大分キヤノン大分事業所 当社設計・施工)
土木事業の事業戦略の推進に当たって
 土木事業においては,昨年4月より施行されている「公共工事の品質確保の促進に関する法律」への対応体制の強化が非常に重要であります。土木建設投資の減少傾向が継続する厳しい受注環境のなか,2006年度においては,国土交通省発注工事の8割以上(金額ベース)が総合評価方式によるものと見込まれており,これまで以上に企業の技術力が問われる時代を迎えています。
 また,価格競争に打ち勝つための低コスト生産体制の構築も急務であります。資材調達方法の改善,協力会社の再編・強化を含めた生産体制の見直しなどにより,厳しい価格競争で入手した工事においても,利益の創出が図れる強靭な企業体質を目指してまいります。
 これまで,年度施策において「連携強化」という言葉が幾度となく使われてきましたが,市場環境が大きく変化した今ほどこの言葉が重要な意味をもつ時はないと考えております。営業・施工・技術部門がより一層連携を強化し,全社の総合力を発揮してこの総合評価方式への対応と価格競争力の強化を進めてまいります。
 さらに,海外事業に関しては,土木部門における主要事業の一つとして発展するように,人的資源の拡充などにより順次施工体制の整備を進めてまいります。
 なお,当社が関与しているプロジェクトは,東京国際空港D滑走路の建設工事や関西国際空港の2期埋立て工事など交通インフラ整備事業,昨年度竣工した東京電力神流川発電所等大型の電力供給設備建設事業など日本を代表するものが多く,また,海外においても台湾地下鉄プロジェクト(4ヵ所),ドバイメトロプロジェクトなど国民の期待を担っている事業もあり,率先して価格と品質に優れた施工を実践しているところであります。
取締役専務執行役員 土木管理本部長 中洞好博
関西国際空港2期空港島埋立工事 関西国際空港用地造成株式会社提供 台湾・高雄地下鉄CR4工区
エンジニアリング事業の事業戦略の推進に当たって
 エンジニアリング事業の競争力強化を通じ,建設事業の国内外における受注機会の拡大を図るとともに,エンジニアリング事業を新たな収益事業として確立し,全社建築受注の10%を担うビジネス・ユニットとして自立することを3年後の目標といたします。
 当本部の扱うエンジニアリング分野は医薬品・化学関連の生産・物流施設を主な対象としてまいりましたが,競争環境の変化に伴い,今後は,医薬・ライフサイエンス系研究施設,最先端アグリ分野などの機能的施設全般においても,タイムリーなソリューションの提供が受注の鍵となると考えております。そのため,エンジニアリングと建築/設備との融合を更に推進するとともに,工場再構築コンサルティングや全国展開型施設へのPMサービス等,多様な機会を通じて最適なソリューションを提供してまいります。
 また,閉鎖型植物工場,磁気シールド,ITエンジニアリング他,保有技術のインキュベーションを着実に進め,エンジニアリング力の充実を図ってまいります。
専務執行役員 エンジニアリング本部長 岡本 章
製薬プロセスの3D-CAD
製剤プロセスエンジニアリング
環境事業の事業戦略の推進に当たって
 当社の環境分野への取組みは,30数年前の水処理を手始めに,廃棄物,土壌処理等へと領域を広げてきており,2000年10月,本格的な事業展開に向けて,「環境本部」を設置いたしました。
 環境市場は拡大しているものの,裾野が広く参入企業も多いため,競争は熾烈であり,また,市場の変化が早いため,市場特性を見極めた戦略的な資源配分,即ち,選択と集中による技術力を背景とした対応体制を構築いたします。
 環境事業戦略は,これまでゼネコンとして蓄積してきた技術,ノウハウ等をベースに,現在強化中のプラントエンジニアリング力とのシナジー効果による,計画・設計・調達・施工,さらには運営・管理まで取り込んだ環境配慮型の施設を提供することによって社会貢献いたします。
 このため,風力発電,廃棄物資源化(メタクレス,リサイクルプラント),土壌浄化等の分野において,化学,バイオ,プラントエンジ等の人材確保を進めるとともに,関係機関とのアライアンスによるトータルエンジニアリングを目指します。
常務執行役員 環境本部長 小谷健一
メタクレスが導入されている生ごみ資源化施設 メタクレス
開発事業の事業戦略の推進に当たって
 公示地価の上昇が示すように,景気回復に伴い活況を呈する不動産市況ですが,同時に新規優良プロジェクトの創出には,厳しい競争が不可避となりつつあります。中期経営計画の推進に当たっては,当社のメリットを生かした鹿島らしい開発を心がけ,建設に続く収益源の第二の柱として業績を上げると同時に,リスクを十分見極めることが重要と考えます。いたずらに量を追うのではなく,利益を重視した良質な案件に注力いたします。
 具体的には,営業部門と連携を強化し,優良情報の早期入手や営業得意先との共同などにより事業化を図る一方,開発型の提案営業を行い受注支援活動にも取り組みます。また,都市機能を更新するエリアに重点を置いた地域戦略を展開し,都市再開発への取組みを強化します。一方で,ファンド等との連携により,省資金・短期回転型事業の推進を図り,さらなる投資効率の向上を目指します。
 常に顧客ニーズを意識し,ハイクオリティかつコストパフォーマンスの高い商品づくりに建設部門とともに取り組み,生活環境の向上,街づくりへの貢献を心がけ,事業・設計・施工のすべてを手掛ける当社の開発事業を通じて,顧客,社会からの信頼に応えていきたいと思います。
常務執行役員 開発事業本部長 山口皓章
当社の子会社・鹿島八重洲開発が事業参画している東京駅八重洲口開発(完成予想パース)



Part 1 計画のあらまし
Part 2 中村社長に聞く
Part 3 事業戦略の推進