特集:ライフサイクルのトータル・マネジメントへ

マネジメント=プロフェッション×イズム  鹿島グループの多様なプロフェッションは,当社のマネージャーたちの個性でもある。今回ご登場いただく4人には,マーケティング,環境産業,事業プログラミング,不動産投資コンサルティングといった個々の職能的基盤があり,確固とした「イズム」が存在する。
 次世代マネジメントサービスの具現化へ向けて,リーダーシップをとる現在の取組みと,建設業の将来的なイメージを語っていただく。

小野光敏
顧客の支座に広がるマーケット
LCM室 室長
小野光敏
マネジメントの接着剤 マネジメントサービスは,何も目新しいことではありません。基本的に建設会社は従来から行ってきました。しかし,建物を軸として角度をほんの少し振って周囲を見渡すと,お客様の求める新しいマネジメントサービスがたくさん見えてきます。それを建物のライフサイクルに位置づけていくのがLCM室の役割です。様々なキーワードと照らし合わせて,各部署がすでに実行していることを整理し,説明しやすくします。
 これはマネジメントサービスを「統括する」という立場ではなく,むしろ「接着剤」のような役割と言えますね。お客様のニーズに対して,不足したり欠けている部分があればそこを補い,すでに応えられる部分にも,さらにサービスを付加していくのです。
無限のマーケット 建設業がマネジメントサービスを提供することの強みとして,それぞれにポテンシャルを持った技術部隊がいることが挙げられます。省資金型ビジネスの典型である建設業にとって,マネジメントというのは馴染みの良いものだと言えます。
 一方,建設業のなかで考えると,開発事業を柱のひとつとしているのは当社だけですし,海外での事業展開も優秀な実績とノウハウを蓄積しています。ですから,資産マネジメント,ビルマネジメント,プロパティマネジメントなどを行うだけの下地を持った人材が多いですし,各業界で有数な地位を占めているグループ会社のポテンシャルも,マネジメントに活かされるのです。
 従来の設計・施工だけでなく,PFIに代表されるような運用管理が求められてきています。オーナー業務の一部をアウトソーシングするようなニーズが無限にマーケットへ出てきていますから,そこに目を向けるのが私たちの役割であり,可能性であると言えるのでしょう。
Live with Client こうした動向をかたちにするために,「顧客サポートセンター」の設立を準備しています。すでにお付き合いのあるお客様だけでなく,はじめてのお客様のニーズに対してもサポートできる体制を整えるのです。ニーズに合わせて機能を補完することは,新たな土壌を開拓していくことにも結びつきます。
 施主と施工者という関係から,お客様の立場に身を置き,一体となることがマネジメントです。お客様の一部になっていく行為のステップに,マネジメントというものがあるのだと思います。「Live with Client」,お客様なしでは生きていけません。

阪田弘道
ポテンシャルをつなぐビジネス哲学
新事業開発部 部長
阪田弘道
企業価値の向上 新事業開発部の役割はふたつあります。ひとつは,建設本業と相乗効果のある新しいビジネスを創造し,鹿島グループのトータルな企業価値を高めることです。現在は,ライフサイクルをトータルに見たなかで,リスクマネジメント,建物管理,産業廃棄物処理などの周辺のサービスメニューを設定し,ベストな組み合わせを提供することが要求されているからです。
 ふたつめの役割は,IT関連などの収益性・成長性が高いニュービジネスへの事業投資を行うこと,つまり収益源の多様化を図ることです。どちらも重要でありますが,最近はひとつめの役割のウェイトが高くなってきています。建設業が変わること,それ自体がニュービジネスになってきているのです。
ゼロから1を創ること 例えば私たちは,13年前に最初の廃棄物処理会社を設立しましたが,廃棄物処理業に対する理解を得るのは至難でした。建設業はものをつくることに重点を置いていますので,建設業が動脈だとすると,廃棄物産業は静脈です。このギャップが大きいほどビジネスのポテンシャルも大きくなり,両者をつなぐだけで社会的にもビジネス的にも意義が出てきます。当社は「快適な環境の創造」を標榜しておりますが,このことが結果的に,施設づくりというマーケットを広げることにもなるのです。
 新事業では,スタート時のアイディアが大切なのですが,新しい価値観というのは絶対的に少数で弱いのです。しかし,当時の経営トップが非常に強く理解してくださいました。そのときに一番強く感じたのは,時代とマーケットを読み哲学をもつ経営者がいないと新事業は育たないということです。建設業で廃棄物処理会社を持っているのは未だに当社だけですが,資源循環型社会に対応するためには欠かせません。「1/0=∞」とよく私は話すのですが,ゼロからモデル事業を立ち上げることで,無限の可能性が広がるのです。
ポテンシャルの有効活用 マネジメントという視点から考えると,グループの財産である「人」が保有するポテンシャルを,マーケットにつなげるということが一番のポイントとなります。この「つなげる」ということがトータル・マネジメントなのです。また,世の中のあらゆる知見を使える状態にしておくということが,マネジメントであるとも言えます。マーケットをしっかりと掴み,適切なマネジメントを行うこと。これが重要になってくるのです。

望月由彦
「信用力」がつくる公共施設
開発事業本部 PFIマネジメント室 室長
望月由彦
建物は「生き物」 ご存じのようにPFIは,1990年代初頭にイギリスではじまった事業手法で,民間の知力と経済力を行政サービスに活かすことが目的です。日本ではPFI法の施行から2年が経ちましたが,民間が公共事業を行ううえで,民間側の意識改革や資金調達の問題といったリスクが,ようやく見えてきたと感じます。
 当社では建物というハードをメインに仕事をしてきたわけですが,中身が問われるPFIはそれだけで成立しません。ハードとソフトをいかに合理的に考えていくかが重要です。資金調達,設計・施工,維持管理・運営,大規模修繕,と4つの分野をトータルにマネジメントし,公共サービスを長期スパンにわたって進めていくことが求められています。建物は「不動産」といいつつも,日々新陳代謝を繰り返している「生き物」ですから。
コンペに勝つために PFIには地方自治体からのニーズが高まっています。私たちは,各地の支店から集まってくる情報を整理・分析し,指導・支援を行うのです。さらに出資も必要とする場合には,全社的な判断を仰ぐ審査機能も果たさなければなりません。
 私は様々な設計コンペや事業コンペを経験してきましたが,今回のPFI事業も本質的にはコンペのひとつなんですね。重要なのは,まずコンペの要求を冷静に判断し真のニーズを理解すること,そして勝つためのコンソーシアムを組むことです。PFIではソフトの側面も固めるために,従来お付き合いのなかった企業とコンソーシアムを組む必要があります。その結果,これまで8件のPFIコンペに応募し,3件を落札できました。当社PFI第1号の大阪府泉大津市の生涯教育施設・あすとホールは,現在順調に稼動しています。
まちづくりへ 将来的には新たな視点で見た,まちづくりが必要になると思います。まちづくりには「核」が重要になりますが,その中心的存在がハードとソフトからなる公共施設です。そしてソフトを考える際に,PFIでの手法が活用できます。PFIで経験と信用を得ることで,ほかの行政サービスへの活用・転用も可能になるのです。
 鹿島グループは,コンソーシアムを組む際の中核として,パートナーとして信用されていると感じますね。企画力や総合力,優秀な人材というのは当然のことだと私は思います。これからは「信用力」が必要なのではないでしょうか。この信用力をより磨いていくことが,新分野の確立に不可欠になると考えているのです。

山内宥幸
海外経験を日本へ
開発事業本部 資産マネジメント事業部 部長
山内宥幸
本業との協同 資産マネジメント事業部の役割は,大きくふたつあります。ひとつは,従来の建設本業に加えて,不動産投資顧問という新しいサービスを行い,収益源の多様化を図ることです。一方は,お客様が自らの投資を総合的に評価しなければならない今,つくり手である建設会社としてお客様の相談にのることです。
 受注を想定した従来の建設営業サービスではなく,あくまでもお客様の立場に立ってサービスを提供していかなければなりません。現在はアセット(資産)マネジメントやプロパティマネジメントを行っていますが,建設業が果たす役割や機能の一部として,建設本業と協同していくことも私たちの役割だと考えています。
純粋なコンサルタント これまで日本の不動産取引での仲介役は,単に売り手と買い手をつなげるだけでしたが,2〜3年前からシステムもニーズも大きく変わってきています。アメリカでの不動産価値は,収益還元法という合理的な根拠で算出します。エージェント的な仲介とよく言われますが,売り手の側に立って不動産の価値を判断し,意見を交換しながら売却のお手伝いをするのです。
 当社では,従来の日本には存在しなかったデューデリジェンスやプロパティマネジメント,ブローカレッジを行い,新しい内容の不動産取引を成立させています。総合建設業ならではの多分野の職域が揃っていますし,海外での開発・建設や不動産取引の経験も持っていますので,拡大するマーケットやニーズに対してアピールしていきたいと考えています。不動産投資顧問サービスを純粋なかたちで行なっているのは,建設業のなかで当社だけではないでしょうか。
ネットワークの有効活用 マネジメントサービスが様々なかたちで広がっていくなかで,事業化するテーマや,建設業として補完すべき点を整理しています。それぞれのプロフェッションが総合的に集まって,ひとつの事業に取り組むこと。これはまさに,お客様が総合建設会社に求めていることではないでしょうか。
 これまで蓄積してきたあらゆるノウハウをサービスとして提供し,海外の投資家もお客様としてきたバックグラウンドと,様々なネットワークといったものが日本国内でも機能してきていると思われます。これらをさらに強化しながら形成していくことが,鹿島グループの総合力を一層高めることになるでしょう。



Chapter1:拡張するマネジメント・シーン
Chapter2:次世代マネジメント・レシピ
|Chapter3:マネジメント=プロフェッション×イズム