特集:ダム再開発現場のKAJIMA遺伝子 |
1.水資源を支えるダムDNA |
工事概要 鬼怒川ダム群連携本体工事 場所:栃木県塩谷郡藤原町大字川治地先 発注者:国土交通省関東地方整備局 規模:管理用トンネル368m(断面積40m2), 換気・ケーブルトンネル41m(断面積31m2), 放水トンネル855m(断面積14m2), 取水トンネル113m(断面積14m2), 機場 I 59m(断面積233m2), 立坑20m×2条(直径12m) 工期:2000年3月〜2002年10月 |
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ダム技術の継承 雪が降り積もる2月の川治温泉郷。関東平野北端,鬼怒川上流の山峡には,当社のダム技術の歴史が積層するかのように刻まれている。五十里(いかり)ダム,川俣ダム,川治ダム……「鬼怒川3ダム」として地域に親しまれ,洪水調節や農業への灌漑用水,発電など,多目的な治水を行い,人々の生活を支えてきた。 1956年生まれの長兄・五十里ダムは,堤高100mを超えた国内最初のダムだ。当時アメリカの最新技術を学びながら日本人技術者が手探りで築いた重力式コンクリートダムで,その後,国内でのダム建設のモデルとなり,「ダムの教科書」とまで呼ばれている。 現在のコンクリートダムの建設技術は,五十里ダムでの技術を継承しながら洗練させるかたちで合理化・機械化したものだ。当社が施工に携わった近年のコンクリートダムでは,例えば,重力式の宮ヶ瀬ダム(神奈川県),アーチ式の温井(ぬくい)ダム(広島県)へと受け継がれているのである。 既存ダムの再開発 洪水・渇水を防ぐために各地で次々と建設されてきたダムだが,近年の環境問題や公共事業への意識の高まりから,新設計画の見直しが迫られている。そこで注目されているのが,これまでに築かれた既存のダムを有効活用する再開発事業である。 ダムを再開発する手法としてまず挙げられるのが,貯水能力を高める嵩上げや,放水能力を高める設備改良といった,ダム機能のリファインだ。当社でも,山王海ダム(岩手県)や三高(みたか)ダム(広島県)などで嵩上げ工事を手掛けている。また,放水能力の改良工事では,本誌2001年8月号で紹介したように,五十里ダムの工事がつづいている。 そして五十里ダムには,もうひとつの新しい再開発手法が導入され,大きな注目を集めている。ダムとダムとをトンネルで結ぶことでネットワークを形成し,水の有効活用を図る手法だ。相手は1.2km離れた川治ダム。1984年生まれの鬼怒川3ダム末弟である。 |
建設中の五十里ダム 先輩たちから受け継がれたダムづくりの基本技術は変わらずに,合理化・機械化されていった過程が見られる
川治ダム
以下のすべての図版:国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所提供 鬼怒川下流域の現在と改善後の流況イメージ
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五十里ダムと川治ダムの流入量と貯水能力の現状。双方の年間流入量は1日あたりで東京ドーム1杯分に匹敵するが,水が貯めきれずに放流される一方で,灌漑期などには流水が不足する状況も発生している。 |
連携活用による相互機能の向上へ 3ダムのなかで五十里ダムと川治ダムの使用状況は対照的だ。五十里ダムは水の年間流入量が3ダム中最大にも関わらず,有効貯水容量は少ないため,雪解けや梅雨・台風の時期には貯め切れない水が使われないままに放流されている。一方の川治ダムは,水の流入量が五十里ダムよりも少ない反面,貯水容量が3ダム中最大のため,いったん水位が下がると回復しにくい。 さらに,五十里ダムは下流の川治温泉の水面環境を維持する目的で観光放流も行っているが,景観などを考慮すると十分な水量とはいえない。また,鬼怒川中流域では,田植えの時期には流域の水環境の悪化も指摘されている。 そこで,近接した大規模ダムという全国でも稀有な地理的条件に着目して,管理河川の異なるふたつのダムが手を結び,相互機能のスパイラルアップを目指すことになったのである。 |
五十里ダムと川治ダムのネットワーク図 |
|1.水資源を支えるダムDNA |2.岩盤に挑む現場マンDNA |3.奥鬼怒に聴く鹿島DNA |