特集:ダム再開発現場のKAJIMA遺伝子

3.奥鬼怒に聴く鹿島DNA

五十里ダムの建設開始から半世紀──
当社は奥鬼怒のダム事業に幾度となく携わってきた。
再開発が進む今,地元の人々の目には,一連のダム事業はどのように映ってきているのだろうか?そして当社に抱くイメージは?住田所長とともに町に出て,5人の地元住民の方々に率直な想いをうかがった。

大塚利道さん   坂内源之亟さん   小倉光子さん
大塚利道さん。「鹿島組」時代から二代にわたり地元建設会社としてご協力いただいている   川治温泉街で精肉店を営む坂内源之亟さん(奥)。川治観光協会会長として水資源への想いを語る   川治温泉街で飲食店を営む小倉光子さん。歴代所長をもっともよく知る人のひとりで,個人名を挙げて思い出を語ってくださった
細井沢吉さん   石山成典さん    
五十里湖を眺めながら所長に語りかける五十里地区自治会長の細井沢吉さん。湖畔で営む蕎麦屋は地元住民や観光客だけでなく,ダム関係者の間でも良く知られ,常連客も多い   旅館を経営する石山成典さん。藤原町漁業協同組合理事を務めているため,ダム再開発に対しては具体的な放水量の数値をあげて期待されている    

半世紀を顧みて
五十里ダムの建設事業がはじまった1948年ごろ,当時1,300人ほどが住んでいたこの地区に,関係者1,000人が来て人口はほぼ倍になったわけです。鹿島さんも今ほど大きな会社ではなく,この工事ではじめて名前を知りました。(大塚利道さん/地元建設会社会長)
所長 こうした土木工事は長期間の事業となるので,地域の方々との交流から当社を知っていただける良い機会でもあります。
川治プリンスホテル(1980年)の火災では,鹿島さんも消火活動のお手伝いをしてくださいました。犠牲者の数で戦後最大のホテル火災となる悲しい結果になりましたが,周囲への類焼を食い止められたのは奇跡的でした。人海戦術の賜物だったと思っています。(石山成典さん/旅館経営,藤原町漁業協同組合理事)
所長 温泉街を流れる男鹿川の清掃も地元の方々との交流のひとつです。先日も国土交通省の方々と一緒に参加させていただきました。
共同での河川清掃は,住民と工事関係者との垣根を取り払うことになったと思っています。(坂内源之亟(げんのじょう)さん/精肉店経営,川治観光協会会長)

歴代現場マンにみる鹿島
まるでひとつの家族のようなイメージです。伝統なのでしょうか。川治ダムの建設のころまでは社宅に家族で住んでいらっしゃったので,地元の住民の一部になっていましたね。印象に残るのは川治ダムの初代所長,津垣昭夫さん(故人)の送別会に町民のほぼ全員が出席したことです。あんなことはそれ以前もその後もありませんよ。(小倉光子さん/飲食店経営)
親戚みたいなものです。吉田喬二さん,工藤一磨さん,田代民治さん,中村正志さん,米山義春さんといった鹿島の皆さんや工事関係者の方たちと野球をしたり駅伝で一緒に走ったりしました。川治ダムで2代目の所長をされていた梅田社長は,義理人情に厚い方で地元をとても大切にしてくださいましたね。(坂内さん)
工事関係者も参加する「川治野球リーグ」は今でもつづいていますが,私たちが若いころは朝5時から野球をしていました。鹿島の方は皆さんとても親しみやすいですよ。(細井沢吉さん/飲食店経営,五十里地区自治会長)
鹿島さんの歴代所長は地元への対応が良く,コミュニケーションがとれていますね。所長時代の梅田社長も地元の野球リーグや盆踊り,駅伝などに参加してくださいました。50年近くお付き合いしていますが悪い噂を聞いたことがありません。長い年月のなかで良い印象が根づいているのですね。(大塚さん)
所長 私はここに来て1年あまりしか経ちませんが,鹿島びいきの方々が多く,他にはない非常に恵まれた環境だと感じています。先輩たちのお陰です。ですから地元の方々の信頼を裏切ったり,先輩たちに対して恥ずかしい行動は絶対にできません。
旅館経営という商売柄,宴席を見ることが多いのですが,そこでも鹿島の皆さんはしっかりしています。“ジェントルマン”なのです。(石山さん)
同業の立場で見ると,組織が非常に系統立っていて,本社トップの意向がそのまま現場の意志となっている印象を受けます。一方で営業的なPRが少ないように思われます。「超高層の鹿島」は誰でも知っているので,ここのように地元に密着した地味な工事もPRした方が……(笑)。(大塚さん)

ダム再開発への想い

ダムより下流に住んでいますが,昔は川の水量が多くて子供が近づけませんでした。今はダムのお陰で台風が来ても増水に気づかないほどです。しかし,川治温泉のある藤原町は「観光立町」ですから,水はなくてはなりません。今回の連携工事は,現場が地中なのでなかなか見る機会がありませんが,工事の成果には期待していますし,五十里ダム改良工事で45年ぶりに掘り出されたコンクリートを見て安心しています。(坂内さん)
所長 今回の工事は環境への配慮から施設のほとんどを地下化しているのですが,工事現場を是非見ていただきたいと思っておりますし,いつでも見ていただけるように心掛けています。昨年11月には土木の日(11月18日)にちなんで川治小学校の生徒さんたちに現場を見学していただきました。また,地元の方々に迷惑を掛けないように,工事車両は温泉街を通らせていません。周囲の山々には野鳥が棲息していますから,工事の騒音を最小限に抑えるために防音ドームをトンネル入り口に設置しています。
自治会という立場で言えば,五十里ダムの建設当初,観光への効果に期待していました。東洋一のダムということで,団体観光客がたくさん来ていましたが,今では道路事情の変更と景気の影響もあって非常に厳しい状況です。水の安定とともに,再開発には期待しています。(細井さん)
ダムの再開発は,漁業組合の立場から見ても将来的に大事なことだと思っています。「観光放流」は地元の要望で行っているのですが,昨年からは渓流釣りでのキャッチ&リリースやカヌーによる川下りも観光イベントとしてはじめました。鹿島さんはじめ工事関係者と我々で一緒に川治の自然環境をつくっていきたいですね。(石山さん)
所長 水が資源であるのと同様に,観光も大切な資源だと思っています。そうした視点からもこの連携事業の工事を地元の方々と一緒に考えていきたいと願っています。今回改めて皆さんの想いをうかがって,ダムという社会基盤づくりの歴史的な重みを,ひとりのエンジニアとして再確認する機会となりました。同時に,当社との思い出やイメージをお話しいただいて,「鹿島に流れる血」のようなものを,ひとりの社員として再認識できたような気がしております。ありがとうございました。
川治小学校生徒の見学会 河川清掃
川治小学校生徒の見学会。11月18日の「土木の日」にちなんで,昨年11月20日に開催された。当日はJV職員全員で掘削の方法や建設機械の説明を行った
住民とダム工事関係者が共同で行っている河川清掃
   
防音ドーム 佐藤忍さんと小野田絵美さんの婚約
周囲の山々に棲息する野鳥への環境配慮のために,工事現場の出入口に設けられた防音ドーム
大塚さんによれば,当社現場マンと地元女性の縁組はこれまで10組を超えるという。取材に訪れたこの日,安全大会後の会食にて,JV職員の佐藤忍さんと協力会社事務員で地元在住の小野田絵美さんの婚約が発表された

鬼怒川ダム群連携本体JV工事事務所
野岩鉄道・川治湯元駅から見た鬼怒川ダム群連携本体JV工事事務所(写真中央の建物2棟)。工事現場は写真手前の山中にあり,鉄道と放水トンネルは地中で立体交差する




1.水資源を支えるダムDNA
2.岩盤に挑む現場マンDNA
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