特集:ダム再開発現場のKAJIMA遺伝子

2.岩盤に挑む現場マンDNA

完成イメージ図
完成イメージ図(上の図版:国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所提供)

機場 I 付近平面図 S=1/2,000

機場 I 付近平面図 S=1/2,000
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ダム連携に生きる地下発電所の技術
 ふたつのダムを結ぶ連携事業は,きわめて煩雑な工事となる。単に一本の水路トンネルを掘るわけではないからだ。
 五十里ダムと川治ダムの水位の高低差を解消するために,水を汲み上げるポンプが必要になる。そしてポンプが入る大空洞の機場(きじょう)と,地中の機場を管理するトンネルも求められる。高さ4m・幅3.8m・断面積約14m2の放水・取水トンネル,高さ16m・断面積約230m2の機場から深さ20m・直径12mの立坑まで,大小・長短さまざまな7種類のトンネルが岩盤のなかを巡るため,掘削工事は複雑になり,建設機械の種類も多くなる。
 そこで白羽の矢を立てられたのが,地下発電所の建設工事で培われた当社固有の技術だ。地中に発電所を設置し,さまざまなトンネル群で結ぶ構造は,今回のダム群連携工事と同じ仕組みである。実は,連携本体JV工事事務所の住田徹所長や山下亮次長は,大断面トンネルの掘削技術を要する大規模地下発電所建設のエキスパートなのだ。

コミュニケーションで高める安全性
 これまで住田所長は,玉原(群馬県),塩原(栃木県),神流川(群馬県)と数々の地下発電所の建設に携わってきた(企業者はいずれも東京電力)。協力会社の現場マンや坑夫たちとは地下発電所の建設工事を共にした旧知の間柄である。
 「2交代制で昼夜稼働する現場のすべてに立ち会うことが事実上困難ななかで,危険が伴う工事を安全に遂行するには,信頼できる協力会社や坑夫さんの存在が不可欠。熟練した坑夫さんが減少しているなかで,どれだけ優秀な人を知っているか,集まってもらえるかが今後ますます重要になる」と所長は話す。
 また,工事の関係者全員が気軽に意見を交換できる雰囲気づくりを重視しているという。日常のコミュニケーションの積み重ねが,工事の安全性を高めることにつながると考えているからだ。「ここに集まってくれた坑夫さんは優秀な方ばかりで,冗談も飛ばし合える仲」と目を細める。
東京電力・神流川地下発電所の建設現場(群馬県) 東京電力・神流川地下発電所の建設現場(群馬県)。鬼怒川ダム群連携事業には,こうした大空洞掘削の固有技術が展開されている
安全大会 安全会食
作業者全員が集まって月に一度開かれる「安全大会」(左)。大会後の「安全会食」(右)では,住田所長(左側)の周りに輪ができ,コミュニケーションが促進される



放水トンネル
昼夜2交代制の現場では,トンネルの施工は,削孔・装薬・発破・ズリ出し・コソク・吹付・ロックボルトの順で一日に3〜4回の工程を繰り返す。工法はNATM(New Austrian Tunneling Method/吹付ロックボルト工法)と呼ばれるもので,ロックボルトと吹付コンクリートを主要な支保部材として,岩盤のもつ強度を利用している
※コソク:発破後に残った浮き石を除去すること

施工イメージ図(下の図版:国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所提供)
施工イメージ図

放水トンネル全景
放水トンネル全景
1.削孔   2.装薬・発破   3.ズリ出し
1.削孔   2.装薬・発破   3.ズリ出し
4.コソク   5.吹付    
4.コソク   5.吹付    

ロックボルト
6.ロックボルト

機場 I
地下発電所の大断面トンネル施工技術を活かした機場の施工風景。天井となるアーチ部の掘削にはじまり(頂設導坑〜アーチ切り拡げ),斜路を切り替えながらベンチ部を4mずつ掘り下げ,大断面のトンネルとして機場掘削を進めていく。機場のかたちがほぼできあがった現在は,止水グラウトの注入やクレーンポストでのコンクリート打設が行われ,人と機械が目まぐるしく動き回っている
アーチ部の掘削 斜路を使ってベンチ部の一段目を掘り下げる
アーチ部の掘削(2001年8月) 斜路を使ってベンチ部の一段目を掘り下げる
(2001年9月)
ベンチ部2段目を中央から掘る 2段目を掘り終え,ほぼかたちができあがる
ベンチ部2段目を中央から掘る
(2001年10月)
2段目を掘り終え,ほぼかたちができあがる
(2001年11月)
現在の機場の施工状況
現在の機場の施工状況。止水グラウトの注入やコンクリートの打設が行われている




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