特集:フルキャストスタジアム宮城へ行こう![]() |
chapter 2 フルキャストスタジアム宮城“ラインナップ”発表 |
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工事概要 (仮称)宮城球場改修(第1期)工事 場所:仙台市宮城野区 発注者:楽天野球団 設計:当社建築設計本部 工期:2004年12月1日〜2005年3月20日 建築面積:6,683m2(今回増築分3,583m2) 延床面積:10,910m2(今回増築分4,306m2) 建物高さ:外野棟―14.34m メインスタンド棟―8.52m (フェーズ1。フェーズ2では19.13m) (東北支店施工) |
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イヌワシの翼のシルエット フルスタ宮城へはJR仙石線宮城野原駅下車徒歩5分,またはJR仙台駅から歩いても20分であり,抜群のアクセスの良さを誇る。試合前となれば,お揃いのユニフォームを着たファンが,仙台駅周辺から盛り上がりながら,球場前の広場まで続いていく。 野球の雰囲気を醸し出すランドスケープに包まれながら,球場内へ足を踏み入れる――そこにはイヌワシが翼を広げたような,まさにゴールデンイーグルスにふさわしく,特徴ある球場のシルエットが広がっている。 マイナスをプラスに変える フルスタ宮城には,既存球場の改修というプログラムを転換し,いろいろな制約や条件を活用してボールパークへ改造するアイデアや工夫がちりばめられている。 「狭い」は「近い」,「古い」は「歴史」・・・・・・設計者と施工者がともに知恵を出しながら,あるものを活かし,マイナスをプラスに変えるアイデアがたくさん生まれていった。コストや工期の条件を克服しつつ,楽しさ,面白さを盛り込んでいこうという演出が随所に発見できる。 野球を“魅せる”席 日本の野球場は,安全上の理由からグラウンドの周りがすべてネットで覆われ,観客はその外からプレーを見ることが多く,“鶏小屋”と揶揄されることさえあった。しかもそのためにかえってプレーを見ていなくても平気,と本末転倒の観戦スタイルがはびこっていたのも事実だ。 普通の改修工事だと,座席や施設を整備して,足りない観客席をスタンド後方に増設する。すると席がグラウンドからどんどん離れ,面白くない席ばかりが増えていきがちだ。しかし,グラウンドの内側に拡張する,という逆転の発想で計画されたのが「フィールドシート(張り出し席)」や「砂かぶり席」である。 プレーの迫力を間近に感じ,選手との一体感を得る席をつくることで,野球をとことん楽しんでもらおうという思いがある。この計画に影響されて他球場も改修をはじめたという話も聞く。野球はますます“魅せるスポーツ”となっていくに違いない。 それでは,場外のランドスケープから話題の観客席まで,フェーズ1の“ゴールデン・ラインナップ”を紹介する。 |
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正面入り口で観客を迎えるのが球場名を冠した弓形のコンクリートフレーム。この球場が,心機一転「ボールパーク」として新しく生まれ変わるための装置である。その名も「ボールパーク養成ギプス」という。ダイナミックなファサードをもち,既存球場に負担をかけずに,機能を付加する。フェーズ1では2階までできあがったおかげで,売店・トイレなどがあるコンコースの幅員が広がった。 |
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野球場の大きさ比べでよく出てくる数字が両翼(本塁から外野フェンスまで)やセンターの深さ。旧球場は両翼91.4mと狭かったため,その拡張は新球団を迎える球場として必須の条件だったといえる。そこで楽天野球団・三木谷オーナーにちなみ,333フィート(101.5メートル)まで延ばした。これは,西武ドームはじめ6球場(札幌・東京・ナゴヤ・大阪・福岡ドーム)の100メートルを抜いて,現在の日本プロ野球本拠地で最大である。 |
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フルスタ宮城の頼もしいところは,内野席の豊かなヴァリエーションだ。 1,3塁に迫り出す「フィールドシート(張り出し席)」。打球がファウルとなると,そこでプレーが途切れてしてしまうが,ここではファウルを楽しめる。外野側の席はネットもないためさらに開放的だ。 野球の醍醐味を味わえると言われる内野席だが,ここはピッチャーの投球準備が目の前で見られるほど,選手との距離が近い。 |
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フルスタ宮城の4番DH(指名打者)にふさわしいのは新名物「砂かぶり席」だろう。同じ内野でも,バックネットの手前にグラウンドを掘り下げてつくられている。 ピッチャーがまるでここに向ってボールを,投げてくるようなこの席は,選手が控えるベンチと同じ視線であり,新鮮な興奮を覚える。 |
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同じく打線の要となるのは,レフト側外野芝生席に築かれた,標高8メートルの“山”,楽天山である。ここでは観客がシートを広げ,お弁当をほおばりながら,まるでピクニックを楽しむようにゲームを観戦する。 外野席の名物といえば応援団であるが,楽天イーグルス応援団は「鳴り物禁止」を打ち出して,球音を楽しむ空間づくりが実現化してきた。 |
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球場の美しいシルエットをつくる“イヌワシの翼”型の外野ウィング席(右翼・左翼席)。旧球場の外野は芝生席しかなかったが,新しく椅子席が設置されたことで,試合を最も俯瞰できる席が生まれた。 楽天山をふくむ外野席へは,それまで階段でしかたどり着けなかったのだが,広々としたスロープを設けたことで,安全に,ゆったりと,席までアプローチできるようになった。 |
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選手用のブルペン(投球練習場)も見逃せない。ここのブルペンは球場の外に面しているから,選手が見え,投球がミットに届く音が聞こえてくる。散歩中にお気に入りの選手が投球練習をしていたら,それから入場することもできそうだ。 ちなみに,球場外から覗ける場所がもうひとつ。内・外野席境界のすきまは,フェンスになっていて外部からも覗くことができる。球場の雰囲気を外に伝えようという,ユーモアあふれるアイデアである。 |
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球場外のランドスケープもラインナップの脇を固めている。新しい木は1本も植えず,すぐ隣の既存公園で50年間育ってきた緑をできるだけ活かし,ボールパークに取り込んでいるのだ。 緩やかなスロープの巡らされた球場の周りを歩けば,その緑の深さが散策にも楽しい。球音を聞きながらふと足下を見れば,マンホールまでクリムゾンレッドに塗られているなど,思わぬ発見ができる。 |
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ラストバッターは,カラフルな内装のトイレ。塗り替えや改装によって広く,使いやすくなり,女性も入りやすい。 |
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そんなフルスタ宮城を支える大黒柱のピッチャーは,設計・施工に携わった当社と言えるだろうか。自身も野球少年だったと語る,赤沼聖吾東北支店長に話を聞いた。かつて,東北支店野球部が出場していた大会の決勝戦が宮城球場で行われていたそうで,何度かプレーした経験があり「非常に思い入れがある」とのこと。その改修工事への思いは――。 50年ぶりのプロ野球球団の設立で,マスコミにも大きく取り上げられ,行く先々で話題になりました。期待や関心の大きいなかで,鹿島の大変なPRになったと思います。 1週間という短い期間のコンペでしたが,鹿島の総合力に,感動に近い興奮を覚えました。建築設計本部,営業本部,支店設計部・建築部・営業部などが,素晴らしい連携をしてつくり上げた提案――これを見たときに“勝てる”と思いました。楽天さんから「夢のある提案をありがとう」と言われたときは本当に嬉しかった。 3.5ヵ月の工期,しかも東北の冬季期間。リスクも大きかったといえます。私自身も正直100%自信があったわけではありませんが,さまざまな現場経験から“やればできる”という強い思いはもっていました。 座席段床の現場PC化,PC板受基礎を土木の法面工法であるフリーフレーム工法を採用しての工期短縮。そして椅子席・人工芝・電光掲示板の順調な製作状況を確認できた1月末に,“できる”という確信をもちました。その後も雪には苦しみましたが・・・・・・(笑)。 三木谷オーナーを始め,若き集団の施主に合わせ,現場もオーナー以下の年齢で編成することにしました。経験不足の心配はあったものの,現場に足を運ぶたびに,河原木所長以下の所員,職長さん,作業員さんの心がひとつとなった団結力や勢いを肌で感じておりました。 支店は,現場が動きやすいよう,できるかぎりのバックアップをしました。おかげで無事故無災害であったこと,そして,素晴らしい提案をかたちにでき,ファン・選手を始め,皆さんに評価されたことは非常に嬉しい。担当した方々に心から感謝しています。 走りながらというより,“疾走”に近かったと思います(笑)が,この経験は,大きな自信になったと思いますし,今後の活躍にも期待しています。 |
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