阪神大震災からの復興を目指して
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専務取締役 関西支店長 小島 雄
全国を震撼させた阪神大震災から10カ月が経過した。 その間、関西支店長として現地において復旧作業の陣頭指揮を取ってきた小島専務に現地の状況と復興への取り組みについてお話を伺った。
(聞き手:KAJIMA編集部)
復旧工事も大詰め
空き地の目立つ神戸
24兆円の復興投資
復興支援部門を新たに設置
New KIDS工法の適用
復旧工事も大詰め
復旧は現在までどのように取り組んで来られたのですか。
今回の震災は、その発生時刻と震災エリアの地域特性によって、過去見られなかった都市震災の恐ろしさを、まざまざと見せつけられました。兵庫県下だけでも人的被害は別として、その物的被害は建物、インフラ、ライフライン等を含めて総額10兆円(建物の被害は約5.8兆円)にのぼります。さらに、東西の交通網は鉄道、道路が分断され、港湾施設、バース等も壊滅的な打撃を受けた結果、陸海の交通網が全て分断されてしまったんですね。
関西支店では、震災の当日から復旧の準備を始め、本支店各部門の応援を仰ぎながら、当社の施工物件、周辺地域等の被害状況調査を行いました。また、企業者の復旧要望に応じるため、いち早く施工体制を整えて復旧作業に臨みました。この間,他の企業者から当社施工以外の物件に対する診断、復旧の依頼が数多く寄せられたことは、当社の迅速な応対ぶりを評価いただいたものと考えております。
今、復旧工事は大詰めを迎え、最盛期には関西支店206名、本支店から225名、合計431名の社員が復旧工事に従事していましたが、現在、本支店・関西支店合わせて137名で対応しています。
また、震災の翌日から被災した社員及び重要得意先への緊急支援を行い、大変感謝されました。先日、ある電鉄会社の得意先から復旧に対する感謝状と金一封が贈呈され、その時に「昼夜を分かたぬ超突貫工事で、当初の予定を2カ月半以上も繰り上げて全面復旧開通を見たことは、各社の血のにじむ努力に負うところが大きく、当社の社員に『人間、成せば成る』ことを教えてくれた」とのご挨拶があり、一同感激いたしました。全ての復旧工事は、文字どおり震災後の悪環境の中で、社員や作業員の血のにじむような努力と使命感によって着々と進められました。このことは、建設業の社会的な存在感を示す原動力になったものと信じています。
空き地の目立つ神戸
阪神大震災から10ヵ月が経過し、復旧の目処もある程度立ってきたのではないでしょうか。
震災から約10ヵ月を経て、特に被害が大きかった兵庫県下は、まだ爪跡をあらゆる所に残しているものの、ライフライン、鉄道、道路の復旧は、道路の一部を除いて急激なスピードで完成し、利用されています。このことから、全般的に見てある種の落ち着きを取り戻していると思われます。しかし、この落ち着きは、一面都市の復興の気運が盛り上がっていないことの表れで、復興に関していくつかの深刻な問題を抱えています。
深刻な問題とは、まず行政側の共通課題でもある住宅復興や街づくりに対する住民との意識の乖離があります。住民が現実に求めているものは防災理念に基づく復興もさることながら、むしろ一日も早く元の生活に戻ることなんですね。ですから、行政主導の計画は、住民の意向にそぐわないと受け止められがちです。その結果、いくつかの地区では、地元住民側が「街づくり協議会」を結成し、自らの手で検討を行っています。その他にも、住宅を建設する際、用地の確保、権利調整、資金問題など多くの課題を残しており、今後の展開が懸念されます。
道路、鉄道の復旧は極めて迅速に行われましたが、特に産業にとって大動脈である阪神高速神戸線の復旧が遅れています。この遅れは、環境問題とも関連していて、来年後半でないと完成できないことから復興推進の足かせとなっています。
一方、地元産業界の復興動向も全国的な景気の低迷と重なり、全体に復興の気運が盛り上がっておりません。各企業は、周りの様子を見ている状況です。その背景には、バブル経済の後遺症や産業構造の変革期であることが挙げられます。
また、神戸市三宮を中心としたオフィス街の復興は、震災直後から動向が大変注目されていました。しかし、その動きはマスコミで言われるように非常に鈍い。一部企業者に神戸回帰の動きはあるものの、被災ビルを建て替えるためには、テナントを確保することが必須条件です。神戸全体の産業復興の不安から、新たな投資チャンスを窺うまでに至ってないように思えますね。
このような問題を含みながら、都市復興の気運は今一つ盛り上がらず、神戸は解体後の空き地ばかりが目立つ状況になっています。
24兆円の復興投資
このような問題を解決するためにも、復興に向けて様々な施策が考えられているのではないでしょうか。
政府の復興対策本部の基本方針を受けて、兵庫県では「阪神・淡路震災復興計画(ひょうごフェニックス計画)」が8月4日に決定されました。ほぼ同時期に決定されている神戸市の復興計画を見ても、計画の基本精神は、災害に強い都市への転換を柱として「防災安全街区」の整備方針を強く打ち出しています。兵庫県ではこれらの基本に加えて、「便利」「効率」「成長」を重視してきたこれまでの都市形成の理念から、「安全」「安心」「ゆとり」をキーワードに都市復興の原点として、生活者重視の住宅復興・都市基盤整備に関する660事業(10年で公共的総事業費17兆円)を計画しています。
建設省による投資予測や最近の兵庫県の官民投資比率から推計して、これらの官民全投資額は、仮に民間投資を7兆円とした場合、総額約24兆円と予測され、復興投資の傾向から、立ち上がりの早い最初の3ヵ年に8兆円、5ヵ年で17兆円、10ヵ年で約24兆円と推定されます。今後の経済情勢によっては、660事業以外にも産業基盤整備事業が増加し、10年間で24兆円を上回る投資も考えられますが、従来の一般的建設投資と復興投資の厳密な区分をすることは難しく、ほぼ確定的なものは、3ヵ年の8兆円という数字だけのように思います。
復興支援部門を新たに設置
復興に向けて関西支店が今後取り組むべきことは何でしょうか。
支店としては、震災の復旧に今まで本支店各部門の協力支援の下、全力でがんばってきましたが、さらに復興に向けて、4月から新たに復興支援部門を支店に設け、神戸に支援社員を配置しました。同時に工事量の増大に備えて、神戸営業所を4部制にするなど人事・組織面の刷新を図りました。
また、震災後、様々な箇所で実施された、構造の補強方法が一つのマニュアルとなり、震災を境に全国各地で、耐震の見直しや補強の動きがあると聞いております。今後、耐震、補強工事に対しても積極的に提案していきたいと考えています。当社が誇る制震、免震技術については、企業者からの問い合わせも多く、現在、既存の建物に装置を安価で設置できる方法を関係部署と検討しています。
一方、復興は兵庫県下だけの問題ではなく、関西支店管内の兵庫県を除く2府3県にも大きな影響を与えています。以前から計画されている関西国際空港2、3期、紀淡海峡横断道、大阪港ベイエリア計画などの沿岸の将来計画、第二名神道、新山陽自動車道の計画推進に伴う南北を結ぶ幹線道や電鉄などの大規模開発に対しても大局的な見地から、関西圏一円の調和ある発展が求められています。
New KIDS工法の適用
住宅建設は被災した人達にとって一番気になる点ですね。
様々な復興計画の中で最も急を要し、重点的に推進しなければならない住宅建設は、この3ヵ年で公的供給の住宅、民間住宅を合わせて11万戸が計画されています。
これらの住宅の品質とコストに対し、いかに貢献していくかが支店の課題です。現在、震災前から事業協力を行っていたいくつかの地域計画が、この震災によって住宅計画に切り替えられました。
住宅建設を進める上で、当社が保有する住宅技術と耐震・免震技術を結集して、さらに住宅を大量かつ安価に供給するため、「NewKIDS (KAJIMA INDUSTRIALIZED DESIGN SYSTEM)工法」の展開を新たに図り、売り物の一つとしたいと試行中です。
この工法は、住宅部品の画一化と自由な住棟計画・住戸空間設定を可能にするもので、20年前に埼玉県の志木ニュータウンの建設時に考えられた工業化のためのデザインシステムです。これを現状に適合した計画や施工法に新たに改良して、コストニーズに合った品質の高い住宅を供給できるように努力しております。この実現は、KIDSの研究開発当初から携わっていた私の20年来の夢でもあります。
住宅以外の復興事業においても、660事業の内容をよく検討し、土木、建築、設計、開発の総合力と営業のリサーチ力から、企画提案力を結集して、鹿島として取り組むにふさわしい事業を、工事面から支援していきたいと考えています。
いずれにしても、震災前の神戸、西宮、芦屋などの古き良き時代感覚を残しながらも復興計画の施策体系にそった新生都市に、一日も早く生まれ変わるために努力していきたいですね。
写真は鹿島月報より転載
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