特集:これからのインフラ整備

巻頭企画・座談会「これからのインフラ整備を考える」
「我々は
社会資本づくりの担い手」
小谷健一
企画本部土木企画部長 | 「技術開発は
ハイブリット化へ向かう」
栗原宏武
技術研究所副所長
|
「今の業務を
しっかりやることこそ原点」
細村国夫
営業第二本部企画部長 | 「従来型に+αの発想が
求められている」
飛田研一郎
土木設計本部企画設計部長 |
●市場環境の変化とその対応
●リニューアル−その拡大する市場
●ハード中心の従来型整備からの転換へ
●技術とノウハウの構築こそ競争力の礎
●PFIには従来組織を超える対応が必要
●21世紀のインフラ整備にむけて
●いま変革とともになすべきこと
●市場環境の変化とその対応
小谷 最近、世の中にはもうこれ以上公共事業は必要ないというような意見があります。これは極端な意見と思われますが,これからも世の中のニーズにあったインフラ整備は間違いなく必要だと確信しています。しかし一方で社会的背景も変化しています。キーワードとして,高齢化社会,ゆとりある社会,情報化社会などがあげられると思います。これからの社会がどう変わり,どのような形でインフラが求められているのか,それに対して我々はどのように対応していくべきか,本日は皆さんと意見交換していきたいと思います。まずは,社外との接点最も多い営業第二本部細村部長からお願いします。
細村 基本的にインフラ整備というのは,安全で快適な国土づくりだと私は思っています。この点から考えてみると,インフラ整備が終わったとはまだまだ言えない。例えば洪水や地震で被害が出る度に,もっと安全で快適な国土にしていく必要があると思うのです。今ある日本のインフラ−我々が造ってきたわけですが−その安全性や快適性に対する世の中のニーズがますます多様化していく中で,我々の今やっていること以上に領域を広げて行かないと今後の求められるインフラ整備には対応できない,そういう感覚でいます。
飛田 従来のインフラを分類しますと,国土保全,産業基盤,生活環境という分け方ができると思います。今までは国土保全あるいは産業基盤といったところに重点的整備がなされてきた。それが少し生活にゆとりをというところで,生活環境向上のインフラに重点を移そう,そういう政策が問われていると思うんですね。従来だと例えば道路とか空港とか,単体でものを造っていたわけですが,それに付加価値というか,+αの要素が要求されてきていると思います。我々も単にハードを造るだけでなく,ソフト的な要素が必要とされてきているというのが最近の特徴ではないでしょうか。
栗原 例えば,我国が直面している台風・集中豪雨・地震といった自然の力,これは世界に類例がない独特の国土・地理・風土条件だと思います。この自然災害で毎年インフラが一瞬にして寸断されたり,破壊されたりするのを目の当たりにしますと,これからやるべきこと,見直すべきことがまだまだ隠されていると思いますね。これには自然条件の見直しとそれによる影響評価が重要なポイントのひとつと思います。そこで当社でも,台風や地震による被害予測の技術開発に取り組んでいます。このような技術を駆使して,現有の,あるいは今後のインフラを適正に評価してより高度で確実な社会資本を21世紀に残していくことに力を注ぐ必要があると思います。
●リニューアル−その拡大する市場
小谷 21世紀に向けてこれからは間違いなくストック社会になっていきます。このストック社会に対して、リニューアルに関するニーズはあるんだけれども、これが明確になっていません。官など発注者側の人達は、どういう手順でどのタイミングでどの程度の手をかけて機能を維持したり向上させればいいのか,完全に掴みきれていないと思います。この辺を我々も一緒になって考えていこう,研究開発も必要だろう,ということで土木技術本部にこの度リニューアル室ができた訳です。ここで考一番大切なことは,これからのストック社会では,利用者というか,使用者のニーズをよく考えていく立場をとらないといけないということです。
栗原 そうですね、リニューアルの評価のためには確率統計論的な信頼性設計技術もある訳ですが,これに使うデータそのものが十分にストックされていませんね。コストミニマムとか環境負荷ミニマムといった概念はありますが,それを駆使するに至っていないというのが現状です。はやく整備して,ここでこう補修したりリニューアルしたりするとより経済的だと的確なジャッジができるようにしたいと思いますね。
飛田 そう、例えば交通容量が増えて道路の幅が今のままでは対応しきれなくなったとか,2車線を4車線にするとか,あるいは下水の容量を増やさなければいけないとか,強度を補強するといったいわゆる補修補強など,これらもリニューアルの一種だと思います。そのときに我々が考えなければいけないのは,例えば道路をリニューアルする場合,いかに現在の交通に支障を与えずに,新しいものに代えるかといった工夫が必要になります。そのために交通シミュレーションをやって,こういう施工手順でやれば車がうまく流れますといったところまで提案して,一番うまい施工法を採用してもらうというような技術も,今求められていると思います。
細村 今までは当然日本国内でのみ通用するインフラ整備を行ってきました。ところが,これから先,国際社会の中の日本ということになると,ISO仕様のトレーラーがすべての道路を円滑に走れるかというとNOの部分があります。昔のトンネルでは小さくて通れないところもあるでしょう。国際的な物流社会の中で,日本が生き残ろうとすれば,国際基準に対応しないと,非常に不便なことが発生するということからもリニューアルという分野があるはずです。また,インフラが成熟した欧米の建設投資の内訳を見れば,補修というかリニューアルという言葉に該当するものの方が,新規よりもずっと多くありますからね。日本も成熟していく方向ですから,当然リニューアルという仕事はある。今その準備に取り掛かっているという感じでしょうか。
●ハード中心の従来型整備からの転換へ
飛田 今国家プロジェクトとして推進中なのがITS*1 (高度道路交通システム)というもので、これはまさに情報技術です。その内容のひとつが道路交通情報の通信システムで、渋滞に関する情報等を運転者に与えて,渋滞解消とか効率的な運行に役立てようとするものです。もうひとつはETC*2 (ノンストップ自動料金収受システム)、料金所での渋滞を解消するシステムです。これはプロジェクトが来年からスタートし、首都圏の高速道路等を中心に実際に導入されるという状況です。それとAHS*3 (走行支援道路システム),道路のレーンマークに沿って,時速100キロくらいの高速で自動走行もできるという仕組みです。特に前を走る車との距離を一定に保てるので,非常に効率的でかつ安全な運行ができるという訳です。これは建設省が「スマートウェイ2001/知能道路計画」と称して推進しているものです。2002年以降に第二東名などに実際に適用していくという動きがあります。まさに情報技術と従来の道路インフラが組み合わされて,新しいインフラの仕組みが出来るといった一つの例ではないかと思います。
小谷 従来我々の得意な分野はダムやトンネルとかハードな分野で,これからITSや情報化とか言うときに,異業種やエレクトロニクス分野をどう取り込むか,どう統合化するかという問題がでてきます。本来我々の得意でない分野に,取り組まなければならないという悩ましさがありますね。
細村 そこなんです。ITSやETCにしろ,我々の今までのハードをつくる能力では,成果の少ない分野なんです。ですから,異業種との協調も含めたソフト能力を高めて市場領域を広げる必要があります。
小谷 我々が設計・施工というか,かなり設計まで取り込んだ計画までを受けたという格好で全体をまとめれば,その中に今のITSなりいろいろなことが取り込めるということですね。交通工学を知る立場として,全体をまとめるのをお手伝いしようということなんですけどね。
飛田 まさにそのとおりで,逆に我々が入り込んでいこうとしたら,従来のように単に道路を建設しますといったハードだけでは無理なんです。一つ前の企画や計画段階等上流から入って,例えばインターチェンジの構造や料金所の設計をどうするとか,それらを含めてトータルで仕事を,という方向に持って行かないとなかなか難しいと思うんです。
細村 そういうチャンスを与えて欲しいというところですね。我々の市場にしようとするなら,今のハード能力のみに拠点を置いて,上流下流に能力を拡大し,企画やメンテ・運営管理にも手を出さないと,全体としてのパイを手に入れることがでない,そういう世の中を迎えつつあります。今まで通りのやり方なら,既存の市場の中でのみ生きていくだけです。それを打破しようと思ったら,インフラ整備の方向性に合わせたように,我々自身の中身が変わっていかないといけないと思います。
*1ITS:Intelligent Transport Systemsの略,高度道路交通システムの総称。
*2 ETC:Electronic Toll Collection Systemの略
*3 AHS:Advanced Cruise-assist Highway Systemの略

●技術とノウハウの構築こそ競争力の礎
小谷 我々にとって技術革新はたいへんな武器です。言い換えますと,これからのストック社会においても,技術をもってすればいろいろな意味で役立てるわけですね。
栗原 技術革新の大きな流れは,ハイブリッド化の方向だと思います。それは材料的にも,構造的にもです。その狙いは高耐久化・省エネルギー化・省力化,そしてコストダウン等だと思います。
飛田 ソフトな分野もまた増えています。都市環境を総合的に評価することができる技術とか,国土防災にも関係するGIS(地理情報システム)とか,交通のシミュレーションソフトなどです。従来のハードに関する技術に取り組まなければならないんですが,最近の傾向では,新しい情報化社会や環境重視の中にあって,ソフト的な技術開発も大いにやっていく必要があると,実感として感じているところです。
小谷 都市への再投資というか,都市部にまた重点投資して整備しようという話題がありますね。
飛田 都市部のインフラ整備にしても,まだまだやらなければならないところが一杯あると思います。交通問題にしても,環境問題にしても,特に最近ですと防災面もあります。例えば,都市防災の面でいえば,もっと緑の空間を確保するとか,あるいは洪水防止のための地下調整池などもそうですね。
栗原 都市部というのはみんな河口付近の軟弱地盤の上に成り立っている訳で,大都市ほど地盤が悪くて条件が厳しくなります。都心では更に空間の物理的制約大きく,使える空間が大深度化していかざるを得ません。技術的にもこの観点から強化すべき分野の1つだと思います。保有技術やノウハウの展開から言うと,例えばシールドでは,矩形であったり,横に広がったり縦に長かったりといった単品の応用技術は開発されています。これを大深度地下空間で,さらに組み合わせたり,環境影響がないよう上手く制御したりするには,現在の技術やノウハウの更なる蓄積が必要です。将来この分野で優位性を保持するためには,今やっていることが将来にも当然結びついていくわけで、現状のデーターベースをしっかりつくっておくことが重要なんです。
細村 土木の世界では技術的な難工事というのがあります。総合力を投入しないとそのプロジェクトが成立しないといった大工事を,幸いにして当社は数多く担ってきました。そこではやはりいろいろな経験を積んできています。シールド,ダム,山岳トンネルや橋梁等いろいろな分野で,そのときどきの厳しい施工条件や自然条件を乗り越えて造ってきたんです。しかし、それはあくまで過去からの延長線上にあって,そもそも土木技術というのは,過去を含めた今ある現状の中から生み出されていくものだと思うわけです。つまり現状の仕事をいかにしっかりやるかが,次への発展に繋がると思います。今までの蓄積されたノウハウがこれからの変化するインフラ構築への有効なツールとなるのではないでしょうか。まだまだやることが一杯あると思います。その根幹にあるのは,今やってることをしっかりやることこそ,将来に繋がるんだということです。それは土木の世界だけに限りません。新しい市場を考えたとき,事務系,建築系,それと他業種,そういった方々が現時点で持っているノウハウを,なんらかの格好でお互い手を握りあってさらに新しい展開をしようということです。これを大切にしない限り,他業種からも他分野からも頼りがいのない集団にとなってしまう,それが一番恐ろしいなと思っています。
●PFIには従来組織を超える対応が必要
小谷 ちょっと視点を変えて,インフラを実現させる1つの方策として、このところいろいろ話題に出ている「PFI*4 」という事業手法についてはどうでしょうか。
細村 日本でも来春頃までにはPFI法案が成立するということで、非常に興味を持たれている手法です。一番キーになるのは民間資金を公共事業に導入するということですが,これから日本流のPFIを組み立てていくところだと思います。官と民が契約をして,その事業での役割と責任をお互いに明確にし,なおかつその事業タームが20年とか30年の中でどういうことが発生するかを予測した上で契約が結ばれるわけです。今まで馴染みのないことをやろうというのですから、規制緩和の問題や資金調達,補助金制度も関係してくるでしょう。最終的には,国民が安全で快適なものを得るために,いろいろな手法が導入されるのが望ましい方向です。それに対して我々はどうするかというと,さらにビジネスチャンスを拡大しようと思うと,関係するノウハウをどれだけ持っているのか,という部分もあり,これからのインフラ整備に対応するための大きなテーマであると思います。
小谷 PFIではファイナンス部門も大事だし,事業計画も大事だし,メンテナンスまで考えたりすると,かなり我々が従来上流側といったような分野にまで踏みださないといけない。異業種と組むにしてもその辺の知識が要る。やっぱり我々取り組むべき分野が広いんだという感じがします。
飛田 PFIという仕組みは,土木・建築,設計・施工といった従来の枠組みでものを考えていくととても対応しきれない。従来の鹿島の組織なり体制だけでできるのか,かなり抜本的に部署間を横断して組み直さないと,相当難しいような気がします。特に重要なのはプロジェクトの成否の評価,なかでも投資対効果の算定,それが本当にできないと,なかなか事業に踏み切れない。従来我々が断片的にやっていたもの,多分それをさらに超えた総合的な事業採算性の評価ができるような,技術なりノウハウをもたないといけないと思います。
*4 PFI:Private Finance Initiativeの略、解説参照
●21世紀のインフラ整備にむけて
小谷 21世紀のインフラ整備についてもう1つ重要なことがあります。これからの建設業は、環境への配慮なしには考えられませんね。
栗原 そうです。自然保護,あるいは環境共生を念頭に,建設事業も進めていく必要があると思います。また,これまでの人間活動・社会活動で崩してきた地球規模での環境問題に対して,修復というか,ミチゲーションというのもひとつの取り組むべき分野です。技術研究所でも,今まで個々にやっていた環境分野の研究を,ひとつの研究部に集約して,総合的に環境課題を解決していこうという取り組みも考えています。
飛田 最近,環境インフラという言葉もあるようですけど,例えば河川整備といったときに単に洪水調整とか,安全な堤防を造ればいいというのが従来型の発想だとすれば,最近ではそれにさらにビオトープとか生物環境を考慮したものを付加した河川に改修しましょうとか,同じインフラ整備でも,+αの要素が必要になってきたんですね。整備にあたっても,いわゆる環境影響に対する評価といった技術も必要となります。それからライフサイクル・エンジニアリングとか,トータルで環境評価して最適なものをつくるという,そんなことが技術的に可能な会社でないといけないということが,特に最近必要とされていると感じています。
細村 やはり我々の子孫達に安全な国土なんだよと安心して渡せるということが大切でしょう。そのためには我々ゼネコンという立場でできる範囲で環境への配慮をインフラ整備に努力して行くべきだと思います。
小谷 会社として,もっと広く環境に対してどう取り組むかということを考えなければいけないと思います。土木・建築を含めて総合的に,もちろんエンジニアリング本部も入って、いろいろな観点から知恵を出し合って議論していかなければならないということでしょうか。環境問題をはじめ、これからのインフラ整備には、なお一層の叡智の結集が必要となっていくと思いますね。
栗原 原点にかえってみると、21世紀のインフラというのはどうあるべきかというグランドデザインが必要だと思います。それに沿った形で,インフラとインフラ,あるいは地域と地域というようなネットワーク化が重要なポイントとなるでしょう。それに伴い技術開発の分野もいろいろな機能を組み合わせ,ハイブリッド化していくと思います。さらに,インフラの安全性とか健全性を情報発信するモニタリング、そして,その情報をうまくキャッチして,運営・管理する自動化・合理化・無人化といった方向の技術も必要となってきます。従来型ハードの面では,省資源,省エネルギー,省力化といった分野の技術が当然必要となってきます。インフラというのはもともと土木技術の進歩とともに歩んできています。でもこれからは,土木技術の進歩というより,他分野のエレクトロニクス,メカトロニクス,あるいは新素材、衛星通信技術、環境技術、もちろんシミュレーションソフト技術も含め、どんどん導入して形成されていくと思っています。しかし,その根底ではいずれのステージにおいても,環境への配慮は必要でしょう。
●いま変革とともになすべきこと
小谷 我々,ものづくりという原点に立てば,例えば生産性を向上する,言い換えれば低価格で工事ができるということも,やはり世の中に役に立つというような観点から,大事にしていかなければいけないと思います。社会のニーズに対して我々が的確に反応しないといけない,これからは間違いなくそういうことなんでしょうね。ちょうど今,いい転換点で官側も我々も変わろうとしています。
細村 変わってきています。発注者もいろいろな制度を検討したり,試したり,実施したりしています。事業そのものの評価や再評価も出てきています。多分今までと全然違ったニーズが我々にむけられることも念頭において,対応していくことになるでしょう。
飛田 民のノウハウというか,技術力,知恵とかアイデアとか,そういうようなものを発揮する場面がこれから次第に増えてくるのではないかと思います。また,そういうことが期待されている。入札制度も,VE提案だとかプロポーザル方式だとか,あるいはデザインビルドだとかが模索されている。そういうものが次第に実現化してくれば,民のノウハウというのをかなり出せる場面が出てくるはずです。そのとき,民が新しい提案をしたら,それなりの評価をいただいて,それがフィーになって戻ってくるという仕組みも是非考えていただきたいというのが,我々の率直な希望ですね。アイデア出せば戻ってくるよというのであれば,かなりいろいろなノウハウが出てくると思うんです。
小谷 社内を見渡すと,技術力もエンジニアリング力も総合的なマネージメント力ももった人がたくさんいます。特に今回のテーマである次世代のインフラ整備を担うべき若手には非常に期待できると思っています。我々には,今日までのインフラ整備を担ってきた自負と明日のインフラを整備していくという使命があります。その担い手として,エンジニアとして,夢と誇りを持ち続けていくべきだと思っています。
|