特集:洪水から都市を守る

日本の国土と治水事業

●日本の地形と雨量の増加
日本の国土は,細長い地形の中央に高い山脈が走り,低地が少ない。そのため川は高地から低地へ一気に下るという特色がある。少ない低地に大都市が集中しているのが現状だ。統計によると,国土の約10%に当たる河川の氾濫区域の中に,全人口の半数が居住し全資産の75%が集中していると言われる。
 また,季節の変化が激しく降雨量が多い。近年,特に世界規模の気象変動の影響もあり,各地で雨の被害が相次いでいる。昨年6月,1時間に77mmの雨が降った福岡市,翌月に同91mmを記録した東京都練馬区,そして今年9月,97mmの時間雨量に加え,一日の雨量が428mmと桁外れだった名古屋市。これまでの「想定」を遥かに超える豪雨が高度化した都市を襲っている。

●総合治水対策の必要性
 洪水を防ぐためには,上流部にダムを築く,河川を拡幅する,調整池や放水路を設けるなど,様々な施策がある。建設省や各自治体では,流域の特性に合わせた河川改修や雨水流出抑制施設の設置など総合的な治水対策を積極的に進めている。

●都市治水対策における地下空間の利用
 都市部では,人工的に公園やスタジアムの地下部などを遊水池・調整池とすることで遊水機能を補完している。特に土地に余裕のない都心部では,地下にトンネル式の河川を設けたり,下水道を増補する対策が行われている。今年5月に,「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(大深度利用法)」が制定されたことにより,地下調節池・放水路等は,益々増えていくだろう。地下空間で,洪水から都市を守るためのプロジェクトが動きはじめている。

※地下40m以深の地下部分について,公共的な事業として利用する場合は原則として補償しなくてよいこと等を定めた

ダ ム 放水路
洪水時に上流からの流入量を調節して,下流の河川流量を低減させる。   中・下流の流れを直接,他の川や海に導くために人工的に河川を開削し洪水流量を分派させる。
福岡導水山口調整池ダム(福岡県)   三郷放水路(埼玉県)
福岡導水山口調整池ダム(福岡県) 1997年施工   三郷放水路(埼玉県) 建設省 江戸川工事事務所提供
     
遊水池・調整池 河川の拡幅・築堤
     
新田東雨水調整池(宮城県)   荒川堤防(東京都)
新田東雨水調整池(宮城県) 1999年施工   荒川堤防(東京都) 1998年施工




戦後最大の水害
カスリーン台風
カスリーン台風で決壊した堤防復旧工事の様子
    カスリーン台風で決壊した堤防復旧工事の様子(内務省から依頼を受け当社が復旧工事を担当した)
 
 1947(昭和22)年9月。戦後の廃墟の中で困窮にあえぐ日本に,カスリーン台風が襲った。このカスリーン台風は年間総雨量 の約4分の1の豪雨をわずか1日半の間に降らせ,群馬県内は相次ぐ土砂崩れ,鉄砲水に見舞われた。9月16日午前0時20分,ついに,利根川の右岸側(現埼玉 県大利根町)の堤防が激流に持ちこたえられず,340mにわたって決壊した。堤防を切った濁流は大人の背丈を越える高さで町や村落を次々と襲い,4日後には東京東部を水没させた。カスリーン台風による死者は約1,100名,倒壊・流出家屋約9,000戸,浸水家屋38万戸等である。利根川決壊箇所の締切工事は70日あまりにわたり昼夜兼行で行われ,延べ16万人が投入された。以来,利根川の堤防は切れていない。
 あれから半世紀。カスリーン級の台風が襲った場合,当時をはるかに上回る被害が出ると想定されている。流域の都市化が進み,高度に進化した首都が水没したらどうなるか‥。治水対策の努力は更に続く。



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