特集:洪水から都市を守る

建設省関東地方建設局
首都圏外郭放水路


 全国で進む総合治水対策。今回はそのなかで,当社が携わっている事業をいくつか紹介しよう。
地図




◎流域に住む322万人を洪水から守る
 首都圏外郭放水路は,埼玉県の東部・春日部市と庄和町にかけての国道16号線の下,地下50mの地点に建設される巨大な水害防止施設である。豪雨によって小さな川からあふれた水を取り込み,地下水路を通じ江戸川に放流する巨大プロジェクトである。この首都圏外郭放水路が完成すると,流域の浸水被害人口は約50万人から2万人と大幅に減少すると試算されている。

◎川に囲まれたお皿のような地形
中川・綾瀬川の流域は川の堤防より低い土地が続いており,大雨が降るたびに浸水被害に見舞われている。そこには大小さまざまな川が流れており,これらの川は川幅が狭い上に流れが緩やかなので,集中豪雨が降ると瞬く間に水は行き場を失い,浸水被害に見舞われる。この10年間で5度の甚大な被害が起きているという。現場の周辺にもいくつかの小さい河川が点在しており,見渡す限り住宅地や田が続く低地が広がる。この地域は首都圏から30〜40km圏内であり,都心へのアクセスの向上もあって,近年は急速な都市化が進んでいることも水害の多発化に拍車をかけている。

◎世紀をまたぐビッグプロジェクト
外郭放水路には直径25〜32m,深さ約65mの立坑が5本,そして内径10.6m,延長6.3kmの巨大なトンネルが造られる。水害防止の目的で造られる地下施設としては世界でも類のないスケールである。立坑から地下トンネルに取り込まれた水は排水機場にたどり着き,巨大なタービンの回転力で江戸川に放流される。ジェット機に使用されるガスタービンを4機使用する。その排水能力は毎秒200m3。1秒間に25mプール一杯分の水量に相当する。

◎最終区間のシールド来年掘進開始
1993年から始まったこの大事業に当社は,第4立坑の構築工事,そして第3立坑から第4立坑までのシールド工事を担当した。そして,第4立坑から最終区間となるシールド工区も引き続き担当する。
第4立坑の地下60m地点まで降りてゆく。25階建のビルがすっぽりと納まる大きさである。立坑の底には第3立坑から8,000tという膨大な水圧を受けながら約1.4kmを掘り進んできたシールドマシンが姿を現していた。今年6月に到達したマシンは現在整備中で発進口の凍結工事やセグメント搬送装置などの設備を整えた後,来年7月に外郭放水路の最終区間の掘進を開始,2002年7月に到達する予定である。
首都圏外郭放水路は,2002年の春に第3立坑から江戸川までの供用を部分的に開始する。2007年度には6.3kmの全面供用を開始する予定である。完成すると流域に暮らす322万人の人々が洪水の危険から守られる。一日も早い完成が待ち望まれている。

首都圏外郭放水路第4工区トンネル新設工事
場所 埼玉県春日部市不動院野地先〜春日部市 小渕地先
発注者 建設省関東地方建設局
設計 建設省関東地方建設局江戸川工事事務所
規模 シールドトンネル延長1,235m(泥水式シ ールド工法)セグメント外径11.8m, 発進 防護:凍結工法
工期 2000年7月〜2004年3月
施工 関東支店JV

お皿のような中川・綾瀬川流域
断面イメージ

完成したトンネル部分(第3工区)
完成したトンネル部分(第3工区) 直径約10m,単線地下鉄トンネルよりも2まわりほど大きい

第4立坑を見上げる 第4立坑内に姿を現したシールドマシン
第4立坑を見上げる 深さ約60m,直径は約30m   第4立坑内に姿を現したシールドマシン。このあと整備を行い,最終区間の掘進に入る

「地域の人と共に築く,未来の川」
外郭放水路第4工区トンネル新設工事
所長 原 廣

 「私がこの現場に来てからも,年に数度は川の水があふれる事態が起こっています。この工事のスローガンは“ともに創ろう!地下の川”。地域の皆さんと一緒になって,水害のない街を造っていこうと思っています。このビッグプロジェクトの最終区間となりますので,いいものを造りたい。施工的には“美しいトンネルを掘る”ことを目標としています」
原 廣



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