特集:「はやて」は北へ

Chapter2 当社の担当プロジェクト
八甲田トンネル大坪工区JV工事
 八甲田トンネルは七戸駅(仮称)と新青森駅の間に建設された。八甲田山系北端の裾野を貫く2万6,455mの長大山岳トンネルで,八戸−新青森区間の約3分の1を占める。2005年2月27日に貫通,陸上トンネルとしては同じ東北新幹線の岩手一戸トンネル(2万5,808m,当社JVは一戸工区3,990mを施工)を抜いて世界最長となった。約2カ月でスイスのレッチベルクベーストンネル(3万4,600m)にその座を明け渡したが,複線断面の陸上トンネルとしては,いまも世界最長である。
 トンネル工事は6工区に分けられ,当社JVはほぼ中央部に当たる大坪工区(青森県七戸町国有林地内)を担当した。本坑までの斜路を含め約5kmのトンネルを発破によるNATMで掘削した。
 2000年3月に着工。膨張性地質の山,鉱化変質性掘削ズリの処理,「みちのくトンネル」(3,178m,当社施工,道路トンネル)の直下40m部分の掘進,日本有数の豪雪地帯での厳しい作業環境など数々の難しい課題を克服した。
 環境に配慮した施工方法や全工期無災害などが評価され,2005年5月に土木学会賞環境賞,2006年5月に土木学会賞技術賞,2007年7月には厚生労働大臣表彰優良賞を受けている。
 トンネル工事はほぼ完成し,現在は線路敷設の他,各種設備工事などが行われている。
長距離ベルトコンベアでの土砂搬出 豪雪地域での冬期作業
【工事概要】
東北新幹線八甲田トンネル大坪工区/場所:青森県七戸町国有林地内/発注者:鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部 東北新幹線建設局/規模:NATM 施工延長 本坑4,300m,斜路738m/工期:2000年3月〜2006年12月
(東北支店JV施工)
線路が敷かれるのを待つトンネル内部
column
貫通を祝う関係者貫通式
 2005年2月27日,青森市と旧天間林村(現七戸町)の境界にあたる折紙・大坪工区境で行われた八甲田トンネルの貫通式には,三村申吾青森県知事,小幡政人鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長ほか,事業関係者,工事関係者ら約600人が参加。トンネルの全体貫通を祝った。折紙工区側では三村知事と小幡理事長,大坪工区側では梅田春実国土交通省鉄道局長と津島雄二衆議院議員が同時に貫通発破ボタンを押すと,約1mほどの岩盤が崩れ落ち,トンネルが無事貫通した。

冬の八甲田山八甲田山
 青森市の南側に聳える8峰からなる火山群の総称。標高1,585mの大岳を主峰とする。周辺一帯は世界でも有数の豪雪地帯。1902(明治35)年,青森歩兵聯隊第2大隊が八甲田雪中行軍の訓練中に遭難し,210人中199人が凍死する惨事となった。新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』はこの事件を題材にしている。
interview 工事を担当した2人の所長
 現場に乗り込んだ当初は,電話線もなく衛星携帯電話を使わざるを得ない状況で,冬は大量の雪で交通が遮断され「陸の孤島」状態でした。
 工事は可能な限り機械化を進めました。掘削ズリを運搬する長距離ベルトコンベアを導入した結果,大型車両の排気ガスも発生することなく,安全面だけでなく作業環境の向上にも寄与しました。バトンを引き継いだ久保田所長が,無事故無災害を継続してくれたので,厚生労働大臣表彰優良賞を受賞することができました。
 私は「岩手一戸トンネル」も担当しましたが,当時,世界最長の陸上トンネルの記録を更新しまして,今回,八甲田トンネルで再び更新することとなり,技術者冥利に尽きます。入社以来,青函トンネルを担当し,八甲田がその集大成といったところです。「高品質なものを納める」,その思いで工事を担当させてもらいました。やはり貫通した時は感激しました。
 冬場の交通が不便な地元住民の皆さんは,八戸−新青森間の延伸を心待ちにしていると思います。重要な事業に携わることができ,嬉しく思っています。

一條 勝 所長
一條 勝 所長
(現:土木管理本部 技師長)
2000年3月の現場乗り込みから,
全体貫通後の2006年1月までの約6年間を担当
 私は,トンネルの全体貫通後から担当することとなり,レールの下の部分のコンクリート打設等,仕上げ工事を担当しました。坑口付近に設営されていた現場事務所には10ヵ月程いましたが,やはり自然環境が厳しかったですね。冬の間は地吹雪がすさまじく,視界がない状態での運転等は大変でした。特に事務所周辺は吹き溜まりでしたので,雪の積もり方も異常で驚きました。
 また,工事は,前所長から6年間無事故無災害を継続中でしたので,「最後まで事故を起こさないで締めくくりたい」と思っていました。昨年12月に無事故で竣工を迎えた時は,重責を果たすことができてホッとしました。
 トンネル現場は八甲田トンネルで3つ目ですが,新幹線延伸事業という意義深いプロジェクトに携わることができて,いい思い出となっています。開業前の試乗会には,ぜひ参加したいですね。
久保田幸雄 所長
久保田幸雄 所長
(現:青森営業所 住金鉱業工事事務所所長)
一條所長の後を受け,2006年1月から竣工引渡しまでの約1年間を担当
東北幹、新青森StBL他工事ほか
東北幹,新青森StBL他工事
 八戸駅から延伸される東北新幹線の新青森駅は,JR青森駅の西約4kmに位置するJR奥羽本線新青森駅に併設される。東北新幹線の終着駅と同時に北海道新幹線の起点駅となる。この新青森駅周辺で急ピッチに工事が進んでいるのが,当社JVが担当する「東北幹,新青森StBL他工事」である。
 東北新幹線新青森駅とその前後の全長1,121m(JR奥羽本線交差部を除く)にわたるラーメン式および桁式高架橋を建設する新幹線工事だ。コンクリートの高架橋17基,橋脚9基,橋桁20連などを建設するもので,現場全体が4工区に分割され,同時進行で施工されている。取材当日も,工区の端から端まで延べ10台以上のクレーンが絶え間なく稼動していた。現場では,見上げるほどのコンクリート構造物が整然と建設されており、ピーク時には1日で1,000m3のコンクリートを打設したという。
 工事は2005年3月の着工から2年半が経過し,8割程度の進捗率だ。
上空から見た新青森駅周辺地区の工事の様子(2007年6月)。東北新幹線は,在来線のJR奥羽本線(写真上部の緑地帯部分)とほぼ直角に交わる

東北幹,新青森StBL他工事

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着々と施工が進む橋脚
周辺住民とのコミュニケーション
 現場周辺は静かな住宅街で,工事に際しては周辺住民への細やかな配慮が求められた。特にコンクリート打設時は,多い日で1日に200台の生コン車が往来し,作業も朝6時から開始した。このため,事前にJV職員が周辺住民へ工事の説明に回り,理解をお願いした。「何度か挨拶に伺ううち,住民の方から『明日,生コン打つのですね』と返して頂けるようになりました」と事務係の青山竜一さんは言う。周囲に対する地道な心遣いの積み重ねが,大規模インフラ事業を支えている。

橋の建設経験豊かな現場所長
 現場を統括するのは,橋の工事経験が豊富な田村富夫所長である。PCエクストラドーズド橋として世界最大支間を誇る道路橋の「三戸望郷大橋」(青森県三戸町)も田村所長が担当した。入社以来,ほぼ一貫して橋梁建設に携わっている。橋の最大の魅力を「どこから見ても絵になること」と語る。今までに約10本の橋を手掛けた。
 今回の現場は規模も大きいため,品質や安全の管理も一筋縄ではいかない。4つの工区毎に1次協力業者が異なり,所長方針などを作業員全員に浸透させるには,細心の注意と工夫が必要だ。そこで,田村所長は自ら,協力会社などの中堅社員を対象に月に一度の安全教育を実施する。中堅クラスを指導することで,作業員はもとより,幹部クラスにも浸透させることを狙っている。無事故無災害50万時間を達成していることが,所長方針が作業員全員に徹底されていることの現れだ。
奥に見えるのが,JR奥羽本線の跨線橋。新幹線はここで在来線と交差する
連続する高架橋 現場巡視中の田村所長
同時進行で整備される駅前周辺
 新青森駅周辺では新幹線の乗り入れにあたって,駅前広場や立体駐車場,駅へのアプローチ路整備などの区画整理工事も進行中だ。現場の工事車両が通行できる道路も日々変更されるため,現場間の連絡調整は欠かせない。
 この他にも,当社JVの現場の一部では,他の施工業者がPC橋の建設作業を進めている。そこで月に一度,駅周辺で作業する6社による連絡調整会議が開かれる。延伸事業に関係者のコラボレーションは欠かせない。

遺跡と豪雪と不発弾処理
 この地域では,三内丸山遺跡に代表される縄文時代の集落跡がいたるところで発見されている。「土を掘るには遺跡調査が必要です。調査には2,3ヵ月かかるので,それを見込んで工程を組む必要があります。また第2次大戦青森大空襲時の不発弾が埋まっている可能性もあるので,金属探知機で調査したことも・・・」と田村所長。
 施工する上でもう一つの大敵は雪。青森市は日本でも有数の豪雪地域で,積雪は2mを超える。12月から3月までの冬場は,雪が降るたびに除雪をしてからの作業となる。所長の苦労は工事完了まで続く。

全体工事範囲模式図。青色の部分が工事施工範囲で,点線部分は別工事

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JR新青森駅新設JV工事事務所
 新青森駅周辺には,当社JVの現場がもう一つ存在する。「JR新青森駅新設JV工事事務所」である。
 主な工事内容は,新幹線駅に接続するJR奥羽本線新青森駅の跨線橋の新設・撤去,その他支障物の撤去,ホーム新設,軌道工事だ。
 既に跨線橋の新設工事は完了しているが,工事が本格化するのは2008年以降の見込み。現場の高橋健一所長は「営業中の線路に関する工事なので,列車の運行を第一に考え,一つひとつの作業を手順に沿って,慎重に施工しています。見た目以上に時間がかかる仕事です」と言う。
 今後,このJR奥羽本線新青森駅を跨ぐ54mの新幹線高架橋工事も計画されている。
【工事概要】
東北幹,新青森StBL他工事
場所:青森県青森市大字石江地区/発注者:鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部 東北新幹線建設局/規模:新青森駅及び駅部周辺のラーメン式及び桁式高架橋工事 全長1,121m(JR奥羽本線交差部を除く)/工期:2005年3月〜2008年3月
(東北支店JV施工)

(1) 奥羽本線新青森駅支障移転他
(2007年2月〜2007年11月)
(2) 奥羽本線新青森駅仮在来上家新築他
(2007年3月〜2007年10月)
(3)東北新幹線 新青森駅高架橋他新設1
(2007年7月〜2009年6月)
場所:青森県青森市大字石江地区/発注者:東日本旅客鉄道 東北工事事務所/規模:JR奥羽本線新青森駅の跨線橋の新設・撤去,その他支障物の撤去,ホーム新設工事,軌道工事
(東北支店JV施工)

 chapter 1 延伸事業の概要
 chapter 2 当社の担当プロジェクト
 chapter 3 東北新幹線全線開通を待つ青森