特集:防災イマジネーションを高めよう

地域防災とイマジネーション
interview
天野玲子 天野玲子/あまの・れいこ
鹿島建設 土木管理本部土木技術部担当部長。
東京大学生産技術研究所・都市基盤安全工学国際研究センター客員教授。
土木学会学会誌編集委員会委員長。
1980年東京大学工学部土木工学科卒業。
同年鹿島建設入社,技術研究所配属。
土木設計本部にて設計業務を担当した後,現場を経験し,土木関連部署を経て2005年4月より現職。1999年博士(工学):東京大学。
会話の中でイメージが膨らむ
 いま東京大学の客員教授という立場で,ある市町村の地域防災計画作成のお手伝いをしています。私は鹿島の社員でもありますし,やや変則的ですが,産官学の連携による取組みとも言えますね。
 ただ,これまでの連携と違うのは,「官」がより地域に密着した地方自治体であること。防災計画の最上位にあるのは,政府の中央防災会議による防災戦略です。ここに示された大きな枠組み・方針のもとに,都道府県レベル,そして市町村レベルと,地域特性に合わせて計画をブレークしていくのです。
 このプロセスで大事なのが,今回キーワードになっている防災イマジネーション能力です。通いなれた道,小さな路地,病院,学校や公園。こうした普段の生活の場が,「いざ」の時にどうなるのか,どれだけ具体的にイメージできるかがとても大切です。それが優れた地域防災を作る下地になるのだと思います。
 私がお手伝いさせていただいている市も,小学校の学区レベルを避難の一つの単位にして,自分たちの避難場所へどんなルートで,どういうふうに逃げていくかといった勉強をし,3ヵ月に1回ほど互いに発表会をしています。イマジネーション能力を高めるトレーニングですね。そうすることで,防災拠点のあるべき形がイメージしやすくなる。会話を重ねていくうちにイメージが膨らんでいくのです。私の「学」としての立場での役割は,こうした事例を積み重ね分析していくことで,より効率の高い防災計画を広く水平展開していくことだと自負しています。

ハザードマップを役立てる
 イメージを高め,より実効性の高い計画を定めるためには,地震の時にどの場所がどれだけ揺れそうだとか,液状化の可能性などが記載されたハザードマップも大きな助けになります。熱心な市町村では,自前でハザードマップを作っている。国や県からもハザードマップは各市町村におりてくるのですが,それよりも精度の高いものです。ところが,折角のハザードマップを地域防災計画にいかに役立てるかがよく分からない。
 例えば防災拠点をどこに定めたらよいか。候補地がハザードマップのどこに位置しているかを重ね合わせるだけで,かなりの情報が把握できます。ここはそもそも危険度が高いから避けようとか,周囲で火事が多く発生しているようだからアクセスするだけでも大変そうだとか・・・。
 さらにイマジネーションを進めていけば,動き,アクションも見えてくる。発災時の防災センターへの救助の道筋をどう確保するか,消火作業にどんな動きがとれるのか,水と食糧の搬送方法は・・・とか。時間,エリア,ルートなど,発災後の2〜3日を考えただけでも,様々なイマジネーションができる。先ずは行政がそこまで考えないと地域防災はできません。

「人に優しいツール」を作る
 住民,生活者の防災意識も確実に高まりを見せています。NPOのような組織を作り,自らが率先して防災対応をイメージして,行政側に地域防災計画を働きかけるケースも活発化しています。
 こうした自治体や住民の取組みに対して,民間企業,建設会社はどのようなお手伝いができるのか。これは「民」としての立場で私に課せられた大きな宿題と思っています。
 鹿島とか大手ゼネコン,コンサルなどが保有する様々なハザード系の予測システムは非常に魅力あるツールです。それを提供してくれないかというお誘いは,鹿島だけでなく結構来ていると思います。ただ,これまで官と連携した建設会社の防災への取組みというのは,治水や道路計画など,国レベル,あるいは都道府県レベルのものがほとんどでした。学協会を介したケースもよくあります。予算や体制などの条件がある程度セットアップされた上での連携と言えるかも知れません。
 これに対して住民の自発的な組織や市町村レベルの自治体との連携に際しては,どうしても諸々の条件で限界がある。民間会社がそれなりのものを作るにはお金もかかって,ある意味営業ツールみたいな面がある。必要があるからすぐ出すというわけにはいかないでしょうが,企業も社会の一員です。その視点に立って,部分的にでもご協力できる道筋を考えていきたいですね。
 それからツールの質も考える必要があります。技術面での質ではなく,使い易さの質です。ツールが技術的に高度であればあるほど,その道の専門家でなければ取り扱えないものが多い。プロが扱うことだけを想定して,インターフェースの部分が作り込まれているのです。地域防災に関わるようになって痛感するようになりました。自らも大いに反省しています。ここにもイマジネーションが必要。「素人のように考え,玄人として実行する」と題する書籍が話題になりました。いい言葉ですよね。コアの部分に技術の粋を集めながらも,どなたにどのように使っていただくかに大いにイメージを拡げた,そんな「人に優しいツール」を作り上げていきたいと思っています。

産官学と住民の有機的な連携
 市町村には,地域特性を知った上で全体を見渡し,最適な答えを見出す知見があります。学や建設会社には技術的に高度な知見があります。そして住民には生活者としての視点とネットワークがあります。これらを束ね,「産官学と住民」が有機的に連携して真に実効性を備える防災計画を作り上げるキーポイント,それがイマジネーション能力だと思うのです。



Chapter 1 企業防災のイマジネーション
Chapter 2 個人の防災イマジネーション
Chapter 3 地域防災とイマジネーション
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