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私の仕事
File No.04
写真:土田 耕太郎

土田 耕太郎

建築設計本部 建築設計統括グループ
〔1999年入社〕
1999年理工学部建築学科修士課程修了、同年入社、建築設計本部に配属。設計実務のほか、公開コンペに積極的に参加、くまもとアートポリス設計競技「次世代モクバン」入賞(共同)、第13回建築環境デザインコンペティション優秀賞(共同)。これまで携わった主なプロジェクトとしては、ベネトン京都店、箱根ラリック美術館、虎ノ門タワーズレジデンス棟、他。

16のシナリオづくりと
そこからの展開

フジテレビ湾岸スタジオ

1. プロローグ

入社6年目に配属になったDAグループ(建物のデザイン面を主に担当するチーム)での初仕事。

2011年の地上波デジタル放送の開始に向けて、フジテレビのスタジオ機能拡充をめざした「デジタルコンテンツファクトリー」の計画である。敷地は臨海副都心青海地区に位置し、フジテレビ本社とはウエストプロムナードと呼ばれる遊歩道で結ばれている。

2004年春、まずは敷地を確認する必要があると考え、ゆりかもめに乗ってお台場をめざす。そこには砂漠のような平原が広がっており、近景は雑草と砂利の空地、中景にはフジテレビ本社やテレコムセンターという巨大な塊が観覧車などに並んでいる不思議な風景であった。

DAグループの仕事は、社内他部署とコラボレーションするケースが大半。特に本件のようにスタジオを中心として衣食住の機能が複雑に入り組むプロジェクトの場合にはそれぞれの専門知識が不可欠であり、我々のほかに全体を統括するグループ、スタジオ専門のチームとの協働となった。

フジテレビ本社の経験が引き継がれ、スタジオの規模や配置については既に内容が固まりつつあった。DAグループはその基本計画に対して、「にぎわいの創出」、「ファサードの新提案」、「共用部のディベロップメント」を提案することから始めることとなった。

写真:フジテレビ本社遠景

2. 経験力と想像力

ある程度固まっている計画に新しい提案をすることほど難しいことはない。中途半端な提案では充分な説得力を持たずに潰されるか、既存の提案のロジックに論破されてしまう。

最初の二ヶ月ぐらいは、殆どが試行錯誤であった。

我々は既存のプランや他の事例を読み解き、諸室間のヒト・モノの動線を徹底的に調べてみた。また、容積の中でそれぞれの機能が占める割合をリサーチし、提案する上での土俵を固めていった。

建築設計の仕事は「経験力」が役立つ。大小様々なスケールや、コストバランス・ディテールに至るまで、経験者と未経験者ではおそらく雲泥の差がある。ただ、その差は努力によって確実に近づけられるだろう。

一方で「想像力」については、若手もベテランに劣るところは何もない。怖いのは、経験力がないからといって想像力を活かせないことである。

私はこの二ヶ月の苦闘の中で、ターゲットとなる既存提案のナレッジに必至に追いつこうと分析を重ねると同時に、柔軟な新提案を躊躇なくできるように準備をした。

写真:諸室と動線の関係性

諸室と動線の関係性

3. 新提案にむけて

この頃、外装デザインについて、グループ内では毎日のようにディスカッションが繰り返されていた。
担当メンバーだけではなく、DAの他のグループ員も交えてのディスカッションは刺激的で、示唆に富んだものだった。言葉や文字、スケッチ、模型などを用いて、互いに考えてきた内容をプレゼンし合う中で、新提案の可能性を膨らませる日々が続いた。

これは2004年7月頃の初期の提案の一つである。

立地するお台場という土地がかつては海であったことから、海の中でさまざまなデジタルコンテンツを供給するスタジオを包み込む、魅惑的な水泡のようなものを提案した。
屋上まで多面的にスタジオを包み込むファサードには、空や雲、飛行機やお台場の景色が映り込むと同時に、内部の気配がにじみ出てくるインターフェースとなる。

写真:初期の提案の一つ

4. 新提案-16のシナリオ

8月に入り、クライアントをKIビルにご招待してプレゼンを行うこととなった。今までのディベロップの過程を整理し、16のシナリオを用意してプレゼンテーションに望むこととなった。全員で分担して各案の特徴を整理し、模型を作りながらさらなるディベロップを行った。

当日、会場をセッティングし終えた時、すべての案がそれぞれの個性を持って並んでいる姿を俯瞰して感動したことを今でも覚えている。クライアントはすべての案に熱心に耳を傾けて下さったが、我々も模型と静止画像だけでは伝えきれないことを痛感した。また「打ち出の小槌」・「玉手箱」という思いもつかないキーワードを与えられたことが新鮮であった。

これまでオフィスビルのデザイン等では到底使わない脳の領域まで踏み込んでいたが、「フジテレビ」という巨人はもっとすごいものを待っているのではないかと、ゾクゾクしたことを鮮明に覚えている。

写真:16image 写真:模型

5. 未知の領域-デジタルVSアナログ

こうして前回のプレゼンでクライアントの要望に改めて勢いづけられた我々は、新たな提案を提示できるように未知の領域へ突入した。

新たな方向性を模索して、ストッキングを模型に被せて変形させたり、新しい形のアイディアを求めて、みかんの袋や落花生などの普段の設計室には見かけない変なものが持ち込まれ始めたのもこの頃である。

CGでのデジタルディベロップも本格的に稼働して、イメージできても模型にできない三次元曲面や多面体のような案は、積極的にCGでの検証を行っていた。 模型は、敷地に据えてさまざまな角度からプロポーションを検討できる一方で、CGでは反射・透過などの素材や色彩のバランス、そして昼夜のシミュレーショ ンをアイレベルで行うことができるし、様々な断面に切断して、内部機能との整合を確認できることも有効であった。

写真:CG

6. 新提案-7つの新提案

前回クライアントに提示した16の案を検証し、約1ヶ月で新たな提案を行うこととなった。

デジタルとアナログでのディベロップを行い、我々は7案の方向性を見出した。それぞれが魅力的なコンセプトを持つ案である。クライアントに説明を行い、そのうちの2案をベースに今後の検討を進めていくこととなった。

両案ともに共通することとして、曲面状のフォルムを持つことが挙げられる。矩形のスタジオヴォリュームに対比させて、周囲の空間は緩やかなカーブを描きながら配置されている。また、お台場特有の突風を和らげる効果を持ちながら、巨大なヴォリュームによる圧迫感を低減する役割も併せ持っている。その決定の瞬間、社外に出ていた僕のケータイに、上司から「決まったよ!」とEメールが送られてきたことが記憶に新しい。

写真:模型

7. 新提案のディベロップ-チーム・コラボレーション

ベースの案が決まったことで、社内でのディベロップも本格化した。

構造計画・設備システムとの整合、平面曲率の検証、コスト、風洞実験など、クリアするべき課題は非常に多く、また大きかった。

構造・設備のシステムについても、デジタルによるヴィジュアル化を徹底して担当者・クライアントと情報の共有化を行った。特に今回のような大規模で複雑な計画では、このような手法が役立つ。当社の技術研究所とのコラボレーションも盛んに行われた。風環境チームとは風洞実験を行い、外装と屋上環境の検証を行った。ファサードシステム、ガラススクリーンの高さ、緑化計画などは、この検証結果が多く反映されている。

外装についても現場を含んでの外装委員会が設立され、毎週のように全体のシステムからディテールについてのディベロップが行われた。

このような総合的なディベロップを目の当たりにして、ものづくりに対する総合力に改めて驚かされた。

写真:構造・設備システムの可視化 写真:風洞実験のモデル

8. フジテレビとのコラボレーション

建築的なディベロップと同時に、クライアントであるフジテレビとのコラボレーションも行った。

日本を代表するメディアであるフジテレビは、多様なコンテンツを有していると同時に、「お台場冒険王」等のイベントも催される。イベントを開催する際など、どのようなオプションが考えられるかについて製作や編集の現場の方々と議論を行いながら、建築的な可能性を追及した。屋上での野外コンサートや、ファサードを利用した映像化、バルーンやミストスクリーンなど、フジテレビのコンテンツを建築に取り込むスタディを行い、ムービー化していった。

このようなクライアントとのコラボレーションを通して、ユーザーであるスタッフの方々のフジテレビに対する愛着を肌身で感じることができた。また、建築はクライアントと共に創りあげるものだということを改めて実感できる貴重な経験であった。

写真:クライアントとの打合せの場

9. エピローグ

2007年3月の休日、車でドライブして久しぶりにお台場を訪ねてみた。

広大な空地だった敷地にフジテレビの湾岸スタジオが姿を現し、出航する前の船のように各部の点検作業が行われているようだった。模型のように俯瞰するには飛行機に乗らないといけないが、一周400Mをゆっくりと歩いて周ったり、ゆりかもめに乗って当時のスタディの記憶と重ねてみたり、楽しいひと時を過ごすことが出来た。今は静かな佇まいを見せているスタジオだが、湾岸スタジオを舞台にドラマやバラエティ、イベント等のコンテンツが世間に配信されることが楽しみである。

このような巨大プロジェクトに途中までではあるが参加できたことを誇りに思い、またここで培ったノウハウや経験を、他のプロジェクトにも積極的に展開していきたいと感じている。

竣工後

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