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水曜会:社内講演会の記録

732006年12月20日(水)

伊藤 公文鹿島 建築設計本部

編集される建築:
撮影・印刷されて広まっていくもう一つの建築

逆光の名手、エズラ・ストーラーの写真には、建築のシルエットと人、点景が絶妙に配置され、一切のトリミングを許さない完成度と芸術性がある。サーリネンのTWA空港ロビーの写真、ミースのシーグラムビル。学生時代から何度も繰り返し眺めているうちに、これらの写真が「もう一つの建築」として記憶されていることに気づく。

張り出したリビングルームに佇む女性と眼下に広がるロスアンジェルスの夜景。あの有名なケーススタディハウスの写真を撮ったジュリアス・シュールマンは、ノイトラの建築写真を撮る傍らで、キッチンなどのコマーシャル写真も手掛けていた。どちらにもアメリカ西海岸の明るい太陽とよき時代の期待に満ちた空気が生き生きと再現されている。

バルセロナで活躍するヒサオ・スズキは、現在の建築ジャーナリズムをリードするエルクロッキー誌に写真を多く掲載している写真家。陰影のないフラットな映像、対象をフォーカスしない構図、脱色したようにモノトーンな色調。彼の写真を見ていて、確かに街を歩いていると建築ってこんな風に立ち現れるよな、と妙に納得してしまう。

スタンスの異なる3人の写真家。それぞれの「もう一つの建築」は時に見る者を、そして建築家本人でさえ揺り動かす強い力を持つと感じられた。

(柴田 作│KAJIMA DESIGN)

写真:伊藤 公文
伊藤 公文
1947年
生まれ
1973年
鹿島建設
1976年
鹿島出版会
2000年
鹿島建設

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