水曜会:社内講演会の記録
第76回 2007年7月25日(水)
櫻井潔日建設計
ひと・環境・建築
「スルーホール」「ボイドコア」など、環境と対話する空間が特徴的な建築デザインで知られる櫻井氏の講演の幕開けは、光の当たり方によって異なる表情を見せるマスク(顔型)の写真。変わるものの背後に変わらない価値を見極めよ、という痛烈なメッセージが身にしみる。
約30年前、フィリピンにおける大学の新築計画では、高温多湿の気候、未開に近い社会条件の中で、苦闘の末に「影をつくり、風を流す」ことに辿り着いたという。日影をつくりながら段状にセットバックする中庭型の校舎には、レンガで新開発された通気ブロック等、環境を受け止めながら人のための場をつくる工夫が随所に織り込まれている。風土に根ざした実直な建築的回答の経験から、その後の活動の原動力となる強いモチベーションが感じられた。
また、紹介された最新作「コナミ・スーパーキャンパス」では、「エネルギーバランス・ゼロ」を実現するという。那須の地形と一体化し、オフィス・トップライトを覆う水盤と、白い曲面体のエントランスによる構成が印象的である一方、クール・ホットチューブ、温泉熱や地下水、雪利用まで工夫が徹底され、エネルギー消費量を標準比で75%カットし、残りの25%を太陽光、風力発電でまかなうというショッキングな建築であった。
こうした氏の設計活動はまた、日建設計という組織の中で育まれてきたものである。個人のモチベーションと創意、組織の風土と技術的蓄積の双方向的な作用が生み出す建築に魅了された、貴重な機会となった。

櫻井 潔
- 1950年
- 生まれ
- 1976年
- 京都大学大学院工学研究科修了
- 1976年
- 日建設計