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水曜会:社内講演会の記録

862017年1月11日(水)

藤森 照信東京都江戸東京博物館館長

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独特な建築が面白い。
講演が決まる前の氏に対する印象だ。
講演は自作を中心に古今東西、歴史から素材まで様々な話が結びつき、会場全体が世界中を旅しているような感覚に包まれる。その講演の中で氏が述べた言葉には意外なものが多かった。

一つ目は「今は建築史家として活動をしていない。」と言う。
理由は建築史家という仕事は、自らの足で何度も現地に赴く必要があり、体力が必要だから、という。氏の講演を聞いている限り、体力の衰えなど微塵も感じさせない。建築史家に必要とするエネルギーは想像を絶する。

二つ目は「職人は尊敬していない。」というのだ。多くの建築素材を扱う氏の言葉として、とても衝撃的な言葉だ。理由は、氏が“建築家の先生”として振る舞うのではなく、自身が“職人に近い立場”であり、何か問題がある時は一緒に考えて方法を探すためである、という。なるほど、建築探偵であり、縄文建築団を率いる、氏だからこそ言うことが出来る言葉。とても納得がいく。

そんな氏の建築は、独特な世界観を持ち、建築関係者でなくとも惹き込まれる。建築史家として生きてきた氏は設計で誰かの真似をしてはいけない。と誓い、自作を“インターナショナルにしてバナキュラーな建築”と表現する。実際、最先端の技術を表に見せることなく、全て手仕事で覆い隠されており、その手仕事一つ一つが絶妙なバランスを保ちながら、造形に調和を生み出す。先日、見学に訪れた場所は、まちの中心部から離れた立地にも拘らず、止め処なく人が訪れる。
建築の力を感じずにはいられない。

講演後もすべての質問に丁寧に答えて頂いた。その中でも、21世紀のすべての人が関わることの出来る製造業は建設業だけだ、という話。それこそが建設業のもつ最も重要な意味なのだと。
その言葉を聞いて、改めて自分たちの仕事の持つ多様性と重要性について考える。
講演の間も講演後も終始、建築やそれらに関わる多くの話を楽しそうに話し続ける。
心の奥底から建築への愛情が伝わる。その姿がさらに元気を与えてくれる。
建築することは面白いことだと。

(栗原 史佳│KAJIMA DESIGN)

写真:藤森 照信
藤森 照信
1946年
長野県生まれ
1971年
東北大学工学部建築学科卒業
1978年
東京大学大学院博士課程修了
1980年
東京大学工学部博士学位

2010年

東京大学生産技術研究所教授

2014年

工学院大学教授
現職
東京大学名誉教授、
工学院大学特任教授、
東京都江戸東京博物館
館長

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