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設計担当者のコメント

宮城球場(クリネックススタジアム宮城)

最初の一歩

岡村 耕治

提案までに与えられた時間はわずか1週間。球場周辺を歩き回ってひねり出した考えは、野球場を内側にも外側にも開く=選手と観客、球場と公園を近づけて、文字通りの野球公園「ボールパーク」にすること。それが最初の一歩になった。そこから生まれた様々な具体的なアイデアを3つの言葉にくくって提案した。

より近くで(内側に広げる)
観客席を拡張するとき、普通は既存の席より遠い席が増える。そうではなくて、より近くで見たい。この欲求が「砂被り席」や「張り出し席」(フィールドシート)を生んだ。既存の席より前に席を増やす=「内側に広げる」は「コロンブスの卵」的発想だ。増設する客席のレベルは内側ほど低くなる。最前列は地面に掘り込まれ、観客の目線はベンチの選手の目線と同じ高さになった。近くて低い視点はスピード感や迫力を際立たせ、これまで味わったことのない臨場感が生まれた。

より自由に(外側を取り込む)
球場を周囲に開くこと。将来のために広がりを確保すること。これらを同時に解決するため、外野側に工事残土を使って芝山の観客席(楽天山)や広いスロープをつくり、周囲の既存の公園と外野の観客席とを緩やかに連続させた。ブルペンは公園側から見える位置に配置、スタンドに設けられていた既存のトンネルや切り通しはそのままいかし、試合の雰囲気を外部に伝える役割を与えた。観客席と公園が一体となった前例のない空間は、試合日には市民も店を並べる野球祭の縁日のような場所となった。

より贅沢に(ボールパークとして補強する)
プロ野球場として不足している屋内スペースを増やすために、バックネット裏外周に既存構造に触らずに弓型の施設を新設。客席の下部にスペースを増やすのではなく、フィールドが眺められる位置に出来るだけ広い増築スペースを設け、多彩な観戦スペースや関係者の諸室とした。ボールパーク養成ギプスと名づけたこの増築施設は、球場の機能を補強しつつ、より贅沢な観客席を生み、ボールパークの新しいファサード(顔)をつくった。
野球場は球団とファンが長い時間をかけて育てていくエンターテインメントの空間。設計の役割は、選手とファン、球団と地域を結びつける場所を設定することだと思う。今回の計画で既成の概念にとらわれない自由な球場のあり方を示した。こうしてできた新球場は物理的にも心理的にも開かれており、将来の更なる変化、成長の可能性を広げている。

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