特集:教育新時代の学校

安全な学校をつくる技術
大地震など予期せぬ自然災害や健康を脅かす危険物質など,私たちの身の回りは危険がいっぱいだ。
こうした危険をシャットアウトし,生徒や学校関係者が快適な学園生活を楽しむ――。
それが学校建設に課せられた至上命題である。
安全なキャンパスづくりに貢献する当社の技術を紹介する。
アーチが連なる内部空間
安全と建築美の共存多摩美術大学附属図書館
 学校建築には,生徒や教職員を地震などの災害から守る安全設計だけでなく,学校の精神や理念を表現し,キャンパスのシンボルとなるような建築美の追求もまた大切な要素となる。
 今年4月,多摩美術大学八王子キャンパスに誕生した新しい図書館は,日本をリードするアートスクールに相応しい果敢な造形美を実現した。同校客員教授の建築家・伊東豊雄氏の設計によるもので,ヨーロッパの教会を彷彿とさせるアーチの連続で構成されている。本来建築に不可欠な耐震壁を一切なくした開放的な空間は,1階アーチ脚部下に設けられた51基の免震装置によって実現した。ハイヒールのようにスレンダーなアーチの足元は,薄肉の鉄骨と流動性に優れたコンクリートで造られた。
 現代の建築技術の粋を集めて具現化したアーチ構造の図書館は,安全と建築美を見事に両立させ,時に並木道のような,時に針葉樹林のような,時に小部屋のような空間を生み出して,学生たちに快適なキャンパスライフを提供している。
多摩美術大学附属図書館(東京都八王子市)
発注者:多摩美術大学/監修:多摩美術大学八王子キャンパス設計室/建築設計:伊東豊雄建築設計事務所/構造設計:佐々木睦朗構造計画研究所/建築・構造設計協力・設備設計:当社建築設計本部/規模:SC造(免震構造) B1,2F 延べ 5,645m2/2007年2月竣工  
設計者のイメージを具現化させた技術

この図書館建設にあたっては,当社建築設計本部,建築管理本部,技術研究所,
東京建築支店がワーキンググループを結成。求められる品質を保持しながら施工性にも
優れた技術を開発し,設計者のイメージを具現化することに成功した。
[ハイヒール形状のアーチ構造]
 建物を構成するアーチは,SC造(鉄骨コンクリート造)と呼ばれる構造体。あらかじめ工場生産したアーチ形状の鉄骨を現場で4方向に組み立て,コンクリートと一体化させた。51本におよぶアーチの脚部はどれひとつとして同じ形状がない。51種類の型枠をつくりコンクリート打設した。
 また,厚さ20cmのアーチとハイヒール形状の脚部を高品質に仕上げるため,当社技術研究所で開発した流動性に優れたコンクリートが使用された。
アーチ鉄骨建方
[免震構造]
 アーチ構造は,51本のアーチ脚部の真下(地下部)に設けられた免震装置によって支えられ,震度6強の地震にも耐え得る耐震性を実現。免震構造は,地震時に建物を守るだけでなく,書棚の転倒や図書の飛出しを低減させ,利用者とともに所蔵物を地震から守る。

[FEM解析と実証実験]
 複雑なアーチ構造の力学特性を求めるため,FEM解析(有限要素法)と呼ばれる特殊な解析手法を用いて,構造体としての安全性を確認した。また,施工前に実寸大モックアップにより施工実験を行い,施工性とコンクリートの品質を実証した。
断面図
実寸大モックアップ
FEM解析図。応力度を分析し,安全性を確認した FEM解析図。応力度を分析し,安全性を確認した
安全な学校をつくる技術・・・・・・パラレル構法
短工期で居ながら耐震補強
 文部科学省の調査(2006年6月)によると,全国の公立小・中学校や体育館などの耐震化率は54.7%にとどまっている。学校施設の多くは,児童,生徒や教職員が一日の大半を過ごすだけでなく,地域住民の災害避難場所にも指定されている。地域防災の観点からも早急な耐震対策が求められている。
 こうした中,千葉県市川市では,市内の4校について最適な耐震補強を行うために,市川市初のプロポーザル・デザイン・ビルド方式による技術提案コンペを実施。当社提案の『パラレル構法』が,市川市立大柏小学校の耐震補強に採用された。
 『パラレル構法』は,基礎梁・柱・鋼製のPC斜材からなるパラレル・フレームを既存建物に外付けするシンプルな構法。斜張橋のような外観が特徴である。短期間で工事ができ,屋外のみの作業ですむため,居ながらに耐震補強が行える。また,従来の鉄骨フレーム補強に比べ,採光・通風が確保しやすいことなど,機能的かつ斬新なデザインも評価を得ている。大柏小学校では,建物の色調にあわせて斜材の色を使い分け,明るいイメージを演出した。
 当社は,このほかにも多彩な耐震・制震・免震リニューアルのバリエーションをそろえ,建物の規模や用途に応じた最適技術で,地震から学校を守る。
採光・通風が確保しやすい パラレル・フレームを付けた校舎
市川市立大柏小学校(千葉県市川市) 
発注者:市川市/設計:当社建築設計本部/規模:パラレル構法による耐震補強/2006年9月竣工  
安全な学校をつくる技術・・・・・・シックハウスへの取組み
安心できる学習環境をつくる
 建材や家具などから発生する揮発性有機化学物質が室内の空気を汚染し,人体に影響を与えるシックハウス症候群。学校施設の建設やリニューアルが原因で,児童や生徒たちの健康を損なうことがあってはならない。安全で快適な学習環境を提供するために,当社は何重もの管理・チェックを実施し,シックハウス対策を行っている。
 武蔵野市立大野田(おおのでん)小学校の建設では,着工直後から専門家を交えた検討会を組織し,文部科学省・国土交通省の両基準をクリアする7種の化学物質に関する対策を行った。
 全使用建材をリストアップし,チェックする体制を確立。全ての建材を使用可能な状態にして施工した。施工時は,室内作業の際の窓開けや決められた資材以外の持込み禁止など,徹底した管理を行った。化学濃度のチェックでは,児童の利用スペースは同じ室内仕上げであっても複数箇所を測定。家具選びにも細心の注意を払うとともに,家具の搬入前後で2回の室内測定を実施した。こうした対応で,測定対象7物質全ての基準を完全にクリアすることができた。
 一方,保護者には学校が発行する配布物などを通じて,シックハウスの取組み内容を積極的に開示し,不安を取り除くことに努めた。
校舎正面 シックハウスのない快適な教室
武蔵野市立大野田小学校(東京都武蔵野市)
発注者:武蔵野市/設計:日本設計/規模:RC造一部SRC・S造 B1,5F 延べ13,508m2/2005年3月竣工  

 キャンパスのグランドデザイン
 安全な学校をつくる技術
 安心な学校をつくる技術
 安定した学校をつくる技術