特集:教育新時代の学校

安心な学校をつくる技術
学習に集中できる機能的な施設,快適で安らぎのあるスペース,友人や教職員との交流の場,
学生生活の思い出を育むロケーション――。
キャンパス空間は,より良い教育・学習を実現するうえで重要な役割を担っている。
学生や教職員を惹きつける学園づくりを紹介する。
大阪市立大学 高原記念館(大阪市住吉区)
自然を生かした学園づくり水煙状の文様の再生ガラス
 キャンパスの中央広場にある小さな森に立つ高原記念館――。ホールや多目的会議室からなるこの施設は,大阪市立大学の創立125周年を記念し建設された。教育活動のみならず学生,教職員,同窓生などが交流するための様々なイベントに活用されている。
 建設地となったキャンパスの森は,樹齢50年を超える楠が茂り,自然を感じる日常の風景として,学生たちの記憶に残るキャンパスの1シーンとなっていた。建設にあたっては,環境保護の目的だけでなく,学生たちの思い出の場所を大切に保存するために,大学の歴史とともに生きてきた木々を失うことなく,森の秩序を受け入れた建築設計を目指した。
 建物の輪郭線は,木々の幹を結んでいった線によってかたちづくられた。このジグザグに折れ曲がった不整形な輪郭は,外部と連続的につながる内部空間を創出した。内外部には,テラスや軒下,吹抜けなど,自然を感じることのできる多様な場所を配置し,安らぎの空間を生みだした。
 建物を構成する外壁には,透明ガラスと水煙状の文様の再生ガラスを使い分けた。透明ガラスからは,木々を通して見たキャンパスの様々なシーンを室内空間に取り入れたり,内部の活動を表出することができた。再生ガラスには樹葉が映り込み,建築のシルエットが森と融合するとともに,内部には木々の気配が映し出され,インテリアの一部となった。この再生ガラスは,廃板ガラスを使って焼成した界面結晶化ガラスで,永遠のリサイクルが可能であり,自然と共生した建築に相応しい素材となった。
 自然を守る取組みが建築の一部となって造形美をかなで,安らぎのあるキャンパスを創出した。
再生ガラスに木々が映りこみ建物と森が調和する 木々の気配を感じる内部
大阪市立大学 高原記念館(大阪市住吉区)
発注者:高原慶一朗/設計:当社関西支店建築設計部/規模:S造 2F 延べ1,488m2/2006年10月竣工   
安心な学校をつくる技術・・・・・・環境配慮設計
建築が環境教育の教材に環境配慮設計
 女子実学教育の創始としての伝統を誇る嘉悦学園。創立100周年を迎えるのを機に,時代の変化に即した新たな教育の場を創出するため,男女共学化へ移行するとともに,臨海副都心有明地区にキャンパスを移転した。
 新キャンパスのテーマは「環境」。当社はキャンパスプランの設計にあたり,「地球環境」と「社会環境」という二つの面からアプローチした。
 「地球環境」では,建物に地球環境負荷を低減する環境配慮設計技術を存分に活用した。生徒が学園生活を過ごす中で,環境配慮技術の仕組みを理解し,体感してもらうことで,学校施設自体が環境教育の教材となるとの考えからだ。
 「社会環境」面では,人との出会いや関わりあいから,人間形成が行われていく大切な中学・高校時代にあって,キャンパスを社会の縮図と捉え,自己と社会環境との多様な関係性が生み出される空間創りを目指した。


■ 環境配慮設計

[ライトシェルフ]
教室の窓サッシに中庇を設置し,日射遮蔽により空調負荷を,反射光により照明消費電力の低減を図る。
[風の塔]
自然換気により校舎内部の空気を良好に循環させるための塔。タワー上部のトップライトを開閉し,自然換気を行う。
[クール&ヒートチューブ]
地冷熱を利用し空調負荷を低減する。外気を風の塔の下部より取り入れ,ピット内部を経由させ,体育館に夏は冷気を冬は暖気を送る。
[雨水利用]
屋根に降った雨水を地下貯留槽に集め,ろ過後トイレの洗浄水として再利用する。
[屋上庭園]
建物の断熱効果とともに,生徒自らが植物を育てる環境教育の場となる。
クール&ヒートチューブ
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■ 交流の場となる広場を核とした空間形成
校舎は,教室棟(カフェテリア・職員室・教室)・本部棟(ホール・情報センター・本部事務所)・体育館の3棟で構成される。3棟は中央広場を核に,2階ブリッジ・3階デッキ・4階屋上庭園で機能的に連結。動線が出会いの場となっている。中央広場はエントランスや南・北のグラウンドの結節点であり,学園行事の際,交流の場となる。  
4階屋上庭園より校舎を望む 各校舎の結節点となる中庭
かえつ有明中・高等学校(東京都江東区)
発注者:嘉悦学園/設計:当社建築設計本部/規模:RC造一部S造 B1,5F,PH2F 延べ13,032m2 /2006年2月竣工  
安心な学校をつくる技術・・・・・・ハイブリッドマルチタワー
フリープラン・スクールの誕生地域のランドマークとなる情報学部棟
 これからの学校建築に求められる課題として,設計の自由度と可変性があげられる。
 大教室,普通教室,研究室,実験室,講堂・・・と,様々な空間が存在する学校では,各々の用途に適した建築計画とフロアごとの多様なゾーニングが求められる。空調設備や給・排水設備をはじめとする設備計画にも,使用目的に応じたフレキシブルな対応が必要だ。
 一方で,建物の長寿命化とともに,学校経営も長期スパンで考える時代になった。建物を長く使い継ぐ中で,用途変更などに伴うリニューアルにも容易に対応できる可変性が求められる。
 当社は,設計の自由度とリニューアル時の可変性を実現した超高層ビル向けに開発した新構法『ハイブリッドマルチタワー』を,神奈川工科大学情報学部棟に初適用した。この構法は,建物の中央に設置したコア壁と,コア壁同士を連結する境界梁に耐震要素を集約した構造で,外周フレームは自重のみを支える。居室空間は柱や梁の制約から解放されるので,床を取り払った吹抜け空間をつくるなど,用途に応じた自由な間取りが設計でき,大掛かりなリニューアルにも対応できる。設備面でも自由なレイアウトが可能だ。
 将来のカリキュラムに合わせて,最適な学習空間を自由に変更できる――。21世紀に相応しい「フリープラン・スクール」が誕生した。
ピロティに面した2階自習スペース 新構法を生かした2層分の高さのピロティ
神奈川工科大学 情報学部棟(神奈川県厚木市)
発注者:幾徳学園/設計:当社建築設計本部/規模:SRC・RC・S造(ハイブリッドマルチタワー構法)B1,13F,PH1F 延べ16,344m2 /2006年2月竣工  

 キャンパスのグランドデザイン
 安全な学校をつくる技術
 安心な学校をつくる技術
 安定した学校をつくる技術