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次の世代の元気を生み出すために |
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1960年大阪生まれ。 京都大学工学部建築学科卒。工学博士。 専門は建築史,都市文化論。 これまで大阪府特別顧問を初め多数の自治体のアドバイザーを務めるとともに,各地で市民参加の街づくりを実践。 昨年大阪で開催された「水都大阪 2009」では,プロデューサーを務める。 『ゆく都市 くる都市』,『モダニズムのニッポン』,『大阪のひきだし』など著書多数。 |
20世紀は,世界中の都市が足並みを揃えて近代化を遂げた「都市化の時代」でした。これに対して21世紀は「都市の時代」,つまり各都市が各々の得意分野を伸ばして競い合う時代です。そう考えると,関西の各都市も都市間競争を見据えて,従来の産業生産型の都市でなく,「関西の優位性」に根ざした付加価値を持つ新しい都市へと脱皮せねばなりません。例えば,環境に配慮した最先端の計画で注目されている大阪湾岸地域の液晶パネルなどの工場群のように,従来とは違うものづくり,知財的な部分を付加した産業を伸ばそうという視点が重要です。
その意味で国策として掲げられた「アジア・ゲートウェイ構想」 は,関西の「元気の素(もと)」になると思います。国境を越えたアジア各国とのフラットな関係,それが私たちの価値観やライフスタイルに影響を与えています。日本の若者は,ソウルや中国の流行に敏感になりつつあり,逆に,日本のアニメやコンテンツが世界中に影響を与えています。関西とアジア各国との距離を縮めることが重要です。
また文化に特化した観光が,関西の今後を支えるエンジン産業になると考えています。近年,アジアの各都市は,エンターテインメントやコンベンション施設,カジノの集積を図ることで,必死になって外国からの集客を呼び込もうとしています。統合型リゾートを整備したマカオやシンガポールが良い例でしょう。アジアの都市間競争において,観光の面においても,関西各都市の魅力を伸ばす実践が求められています。
かつて関西には,文化的にも,産業的にも,憧れの対象となる集積がありました。今はそれが危うい。私は,中之島や御堂筋を,そういう魅力ある場所にすべきだと考え,日本で初めての試みとして,土佐堀川や堂島川の川べりに商業施設を並べようというアイデアを出しています。また,かつてのオフィスビルや工場,レジデンス(住居)を文化的な機能と新しい形の商業へと転用するなど,ストック(既存の建物など)をリノベーションしてゆくべきだと早くから主張してきました。これも街の活性化につながります。
街づくりの上でわれわれが忘れてはならないのは,次の世代に必要な基盤は,時間をかけても順番に作り直さないといけないということです。基盤整備が完了したら終わりではなく,街を育て,30年,40年サイクルでまた新たに手を入れていく。街に完成形はなく,地域にも完成形はないのです。現在の担い手が未来を語り,将来を見通した実践をはかることが,次の世代の元気を生み出すと信じています。
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関西は元気の発信基地 |
関西経済は,他の地域と同様,依然として大変厳しい状況が続いています。公共投資については,道路等のインフラ整備事業が見込まれるものの,大幅な削減は避けられません。また,民間設備投資についても大阪湾沿岸を中心に液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ,太陽電池やリチウムイオン電池の分野で,生産拠点の大規模な設備投資が続いていますが,企業収益は厳しい水準にあり,総合的に見ると減少しています。これらを背景に,建設業界においても,受注環境の悪化,価格競争の激化など克服しなければならない経営課題が山積みです。
しかし,私たちは指をくわえて見ているわけにはいきません。この厳しい時代を乗り切るには,「お客様の信頼を獲得する」という基本が大切です。当社の発展を支えてきた原点だからです。そのためには,経営学者P.F.ドラッカーの言葉を借りれば“強みの上に築け(Build on Strength)”を実践していかなければならないと考えています。当社の強みである技術力やノウハウを集結させ,これをベースにして,お客様のニーズを的確に捉え,それを具現化した提案をしていく必要があります。
では,当社の強みである技術やノウハウを集結させるにはどうすればよいか。関西の「コミュニケーション力」がポイントになるのではないかと思っています。私が北海道出身で,入社後の大半を東北で過したので,特に感じるのかもしれませんが,関西の人は,普段の会話でもアップテンポで声が大きく,元気に明るく物事の本質を話す。これが大事なのです。形式的なコミュニケーションからは,何も生まれません。厳しい時こそ,一人ひとりが問題意識を持ち,社内外において真のコミュニケーションを強化させ,深化させていけば,自ずと当社の強みが集まります。そして,私たちを強く,揺るぎないものにしてくれます。
そうすれば,どんな状況であっても怖いものはありません。意志のないところに行為はない。行為のないところに結果はない――私の長年の信条です。それぞれの立場で明確な意志を持って行動すれば,必ず厳しい状況を抜け出すことができます。もともと関西には元気で明るい気質があります。関西から元気をどんどん発信し,会社を元気に,そして日本を元気にしていきたいと思っています。