特集:水といきる−水のある豊かな暮らし−
Chapter4 ビルの中で活躍する水〜防災に利用する
ウォータースクリーン
 微細な水粒子を放射することにより,火災が発生した危険ゾーンを区画して延焼を防止し,熱や煙の拡散を抑制する新しい火災防災システム(当社とホーチキの共同開発)。高い遮熱効果を持ち,1,000度近い高温の反対側で,最高でも156゜C,平均で77゜Cまで温度を低下させることができる。水の幕(ウォータースクリーン)はどこでも通ることができるため,避難用の広い間口が確保でき,車椅子利用者の避難や怪我人の搬送も容易に行うことができる。また,向う側が透けて見えるため火災の状況を確認しながら救援・消火活動を行うことができるのも特長だ。従来の防火扉や防火シャッターでは困難だった床や天井に勾配や凹凸,段差がある場合でも設置でき,曲線状の区画も可能である。
 ウォータースクリーンは,性能評価を経て建築基準法上の特定防火設備として国土交通大臣の一般認定を取得しており,既に東京ビル(2005年竣工 東京都千代田区)やコマツ茨城工場管理棟(2006年竣工 茨城県ひたちなか市)などで採用されている。
 ビル以外にも,道路トンネル,鉄道地下駅など空間形状の特殊な構造物への適用も期待されている。
システムの構成
平常時(スパイラルヘッドは格納されている) 作動開始 水噴霧放射
扉やシャッターでは困難な曲線状の防火区画も可能 東京ビル。地下1階にウォータースクリーンが設けられている ビル以外にも適用範囲は広い。トンネル内部に設置したウォータースクリーンのイメージ図
〜循環して再利用。リニューアル,解体作業に活用する
中水道システム
 一度使った水や雨水,下水処理水を中水処理プラントで再生し,その水をトイレの洗浄水や庭園の散水などに再利用する中水道システム。水資源循環の中核を成し,上水の使用量を削減し水資源の保全を図り,逼迫している都市の水需要を緩和すると同時に,排水量を減らして下水道への負担を緩和するのに貢献する。大切な水資源をリサイクルして有効に使うだけでなく,地震,火災などの災害時に水を確保することができるのもメリットだ。
 当社では,中水道のエンジニアリングを積極的に推進し,顧客のニーズに合った適切なシステムを構築するために,ビルの企画構想の段階からコンサルティングを行い,水の収支バランスの検討,コストの算出,施工,アフターサービスに至るまで,最も経済的で維持管理の容易なシステムの導入の提案を行っている。
西南学院中学校・高等学校(2003年竣工 福岡市)

西南学院中学校・高等学校(2003年竣工 福岡市)の雨水利用。約2,550m2の体育館屋根を雨水の集水面として利用し,集めた雨水を300m3の貯留槽に貯えた後,濾過装置を介して校舎内のトイレ洗浄水に有効利用している
中水道システムの概念図
ウォータージェットを用いた石綿含有吹付け材の除去
 当社は,高圧の水をジェット噴射するウォータージェットを用いて,安全かつ効率的に石綿(アスベスト)を含有する吹付け材を剥離除去する工法を開発して,施工に適用している。従来の手作業での除去に比べて,作業空間に浮遊する粉塵の濃度を5分の1以下に低減でき,時間当たりの除去量は約10倍に向上した。
 リニューアルや解体工事での石綿の除去は,周辺環境への飛散防止が重要で,安全で確実な対策が求められるうえに,防護服を着用しての過酷な作業を伴うことから,作業の効率化や作業時間の短縮が求められていた。ウォータージェットは,これまでもコンクリートのはつり作業などに用いられてきた。本工法では,吹付け材の成分・硬さなどにあわせた最適な水量・水圧を求め,適切なノズルを考案することによって,ウォータージェットのエネルギーを効率的に使用して,乾式,半湿式,湿式の各吹付け材に対応することが可能になった。今後,ビルのリニューアル,解体工事に積極的に導入していく予定だ。
解体工事における耐火被覆の除去作業で活躍するウォータージェット 耐火被覆除去前 耐火被覆除去後
〜エネルギーを蓄え空調に用いる
蓄熱式空調システム
 水や氷を用いて,夜間にエネルギーを蓄え,昼間の冷房や暖房に使うのが蓄熱式空調システムである。ヒートポンプなどの熱源機を用い,電力需要の少ない夜間の割安な電力を利用して,夏は冷水や氷をつくり,冬は温水をつくって蓄熱槽に蓄え,昼間は夜間に蓄えたそれらの冷熱を,夏は冷房に冬は暖房に利用する。電力需要の多い昼間の空調負荷を蓄熱でまかなって電力消費量を減らし,電力供給の平準化を図ることができる。
 大地震など万一の災害に伴う断水時には,蓄熱槽の水を中水としてトイレの洗浄水などに用いることもできる。
 当社は,長年にわたり蓄熱空調システムの開発に取り組んでおり,顧客のニーズに添った最適なシステムの提案を行っている。
蓄熱空調システムの概念図(夏季の例)
氷蓄熱システム(不凍液型)概念図
水蓄熱システム。蓄熱槽に夏に冷水で蓄熱するのが水蓄熱式。虎ノ門タワーズ(東京都港区)の熱源機械室 施工中の蓄熱槽の内部
column 「霧を噴霧して作業員の熱中症を防ぐ」
当社では,建設工事現場で微細な霧(フォグ)を噴霧し,作業環境の改善と作業員の熱中症対策に役立てる実証実験を実施している。
 微細な霧は,温度を2℃〜5℃程度低下させる効果があり,触れても濡れないことから,人間は涼しさを感じ快適性が向上する効果が確認されている。冷却する空間の特性と目的に応じて最適な噴霧を行えば,得られる効果が大きいことから,当社は,中央線連続立体交差化工事(JR国立駅JV)で導入し,効果の検証を行っている。
霧(フォグ)利用イメージ 「霧を噴霧して作業員の熱中症を防ぐ」

 Chapter 1 飲み水、農業用水を貯える
 Chapter 2 上水をつくる
 Chapter 3 水の力で電気をつくる
 Chapter 4 ビルの中で活躍する水
 Chapter 5 水辺で動植物と共生する
 Chapter 6 水をきれいにして戻す