特集:ともに歩む「みんなの学校」づくり
1時限目:発想〜企画のプロセス 創造的教育の実践「奈良学園・スクールプロジェクト」の1000日〜生徒・教職員参加型校舎建替えプロジェクト〜
新校舎の計画・設計などのプロセスを,そこで学ぶ「生徒たちの創造教育の場として活かせないか」という教育者の問いかけから一つのプロジェクトが始まった。学校をつくること自体を教育の場とした初めての試みである。 約1000日に及ぶ奈良学園中学校・高等学校(奈良県大和郡山市)の「みんなの学校」づくりを追った。

「学びたい校舎」の理想形
  奈良学園は1979(昭和54)年に創立された。当時建設された校舎の老朽化に伴う建替え計画が具体化。学園関係者から「学園へ愛着を持ってもらうためにも,生徒に理想の校舎像を考えさせたい」との問いかけに,当社は企画段階からの生徒参加型のプログラムを提案。それが生徒や教職員による「スクールプロジェクト」誕生のきっかけだった。
  こうして,多様なアイデアを取り込み,構想を練って,「希望や工夫が詰まった学び舎」の理想形をつくり上げ,いよいよこの9月から,新しい校舎で授業が始まることになった。
  生徒や教職員が思い描く理想の学び舎の実現に,生徒たちは「よその学校では体験できないことをやった」「新校舎への愛着が増した」と,充実感,達成感に笑顔を見せる。一緒にアイデアを出し,生徒をサポートした先生方も「自主性や創造性を養ういい機会になりました」と,この1000日を振り返る。
 
新校舎計画に参加しよう!
  「スクールプロジェクト」が立ち上がったのは2006年12月だった。野村利夫校長,新川雄彦先生ら教職員による校舎改築クリエイティブ委員会のもとに,新校舎竣工時期に在学している中学2年生から高校1年生の生徒を対象にメンバーを募集。主体的に企画提案を行うクリエイティブ会員20名,アイデア提供などで参加するサポート会員53名が構成員となった。
  「企画提案作業などはグループ単位で活動させました」と新川先生。活動を通じて,意見をまとめる力,人に理解してもらう表現方法を身に付けよう,とのねらいがある。当社社員も,現場見学会や建築に関するセミナー,コンクリート打設体験などで,幅広い視野を養成する環境づくりに協力した。

「創造教育の場」をサポートする
  2007年3月,「スクールプロジェクト」のキックオフミーティング。9月の文化祭で生徒が行う新校舎プランのプレゼンテーションまでの進め方を検討する。
  推進プログラムには,ランドスケープデザイン,学校施設事例研究,学校プラン作成実技のセミナーなどが盛り込まれ,新校舎プランの企画提案に必要な専門的な知識を,必要に応じて当社社員が指導した。
  ランドスケープデザインの専門家によるセミナーでは,ビオトープや植栽の様子をスライドや模型を使って提示。学校プラン作成実技では,新たに考案した「スクールパズル」で教室や食堂など学校のイメージを具体化する校舎プランづくりを行った。
  一方,クリエイティブ会員が中心となって,在校生から新校舎についての校内アンケート調査を実施するなど,提案資料作成は着々と進んだ。

ユーザーの生徒ならではのアイデア
  文化祭での「スクールプロジェクト」発表会では,参加4グループのアイデアと成果が示された。
  保護者,先生,生徒が気軽に交流できるPTSルーム,校舎間をつなぐ「リレーション・ブリッジ」,屋上緑化が楽しめる長円型の校舎,各校舎をつなぐ食堂のあるメインホール・・・。ユーザーである生徒ならではのアイデア満載のコンペだった。
  発表会場は,開演と同時に立ち見の出る盛況。NHKのカメラも発表風景を収録し,テレビのニュースで全国に放送された。
  発表会のアイデアや全校生徒のアンケート結果をもとに,新校舎計画案は検討が加えられ,2008年8月に着工した。

「学校づくり」と思い出づくり
  「スクールプロジェクト」は,施工の段階に入ってからも続いた。生徒たちから自然に「ものづくりの現場を見たい」との声が届いた。これを受け,生徒オリジナルの「スクラッチタイル」づくり,校内斜面の植樹による里山「緑の再生」,新校舎建設現場見学会,学校のサイン(案内プレート)を考えるセミナー,新校舎の名称募集など,数々の“ものづくりプログラム”が組まれた。
  「参加メンバーの中には建築家を志す生徒もあらわれた」と新川先生。家族との会話でも,学校や建設現場の話題が急増したという。「鹿島さんの協力も得て,創造教育の場の創出は,子どもたちに想像以上の成果をもたらしました」。野村校長の総括である。

Person………関西支店京都営業所 課長 下村悦隆(奈良学園高等学校1988年卒業)
下村悦隆 自由な発想のもとに意見を出し,議論を重ね,試行錯誤しながら設計アイデアをまとめていく。この一つひとつのステップが,生徒や教職員の皆さんにとっても,我々にとっても良い経験になったと思います。
  学び舎を自らの手で作り上げていく生徒の姿勢は,校訓「至誠力行」そのものでした。自ら考え,自ら行動し,社会へ貢献する「人間力(=志)」という奈良学園のDNAを受け継いだ素晴らしい後輩たちと出会えたことに感謝しています。

工事概要
奈良学園大和郡山キャンパス
場所:奈良県大和郡山市
発注者:奈良学園
設計:当社関西支店建築設計部
規模:RC造 3F 延べ10,277m2
2009年8月竣工(関西支店施工)
完成予想パース 「奈良学園・スクールプロジェクト」は,第2回キッズデザイン賞※の建築・空間デザイン部門を受賞した ※主催:キッズデザイン協議会。産官学民が“デザイン”の力を通じて生み出した,子どもたちのための成果について優れたものを表彰する制度
「スクールプロジェクト」の説明会(2006年12月)
教職員による委員会では敷地模型が持ち込まれ,議論が白熱(右端が野村校長)
アンケート調査の内容を吟味するクリエイティブ会員の生徒たち
ランドスケープデザインの講演後,現学園の模型を囲んで生徒が集まり,トークが弾む
「スクールパズル」が,生徒の創作イメージを膨らませる
はじめてのプランづくり。「実際に,手を動かしてみよう!」
竣工間近の新校舎大階段で「スクールプロジェクト」メンバーの記念撮影
文化祭での発表会。テレビカメラが生徒たちの熱のこもったプレゼンを取材
「緑の再生」。不安定な足場で頑張って植樹
慎重にスクラッチタイルを貼り込む野村校長
関西支店(営業・設計・施工)と開発事業本部開発計画部が連携した推進スタッフのみなさん
 1時限目:発想〜企画のプロセス
 2時限目:計画〜設計のプロセス
 3時限目:建設のプロセス
 4時限目:マネジメントのプロセス