特集:ともに歩む「みんなの学校」づくり
3時限目:建設のプロセス 生きている「みんなの学校」,再生のプロセス
高度経済成長時代に施設整備が行われた学校施設の多くは,老朽化や教育ニーズの変化により,建替えの必要に迫られている。
その一方で,キャンパスの周辺環境は急激な都市化で,施設の拡張はままならない。再生プロセスにおける創意工夫を紹介する。
神奈川工科大学 キャンパス再開発

進化を続けるキャンパス
  神奈川工科大学(神奈川県厚木市)は,1962(昭和37)年創立の幾徳工業高等専門学校を母体とする工学系総合大学だ。学生数5,000人,約13haのキャンパスには,実験棟などの施設群が整然と並ぶ。
  学生の学習環境の向上を目指して,同校のキャンパス再開発事業は2004年にスタートした。当社は,マスタープランの作成から,バスロータリー移設(2004年),情報学部棟(2006年),KAIT工房(2008年),学生サービス棟(2009年),学生プラザ整備(2009年),C6号棟増改築(2010年1月竣工予定)のほか,改修・耐震補強工事などを一貫して手掛けてきた。
 
使いながら,つくり変える
  約6年に及ぶキャンパスの再開発には,その間も学生のキャンパスライフを損なわないよう,様々な施工計画上の細かな配慮がなされた。
  新築工事では,旧校舎間の隙間や旧校舎の一部を解体した跡地を活用,段階的に建替え整備を行った(下図参照)。この間,学生・教職員の安全な動線確保のため,綿密な工程調整で,連絡通路を最大2ヵ所確保するなどの工夫をした。
  限られた敷地内での建替え整備で,頭を悩ますのが,学校の記憶のよりどころとなる樹木や記念碑だ。キャンパス再開発に当たっては,前庭にあったケヤキの大木はバスロータリー前広場に移植,記念碑も学生プラザに移設して,キャンパスの“記憶の継承”に配慮している。

学生プラザより情報学部棟(左),学生サービス棟(中央),図書館棟(右)をみる
Phase 1 情報学部棟 2004-2006
Phase 2 KAIT工房 2007-2008
Phase 3 学生サービス棟 2008-2009
Person ……… 神奈川工科大学3期工事事務所所長 上原徹也
上原徹也 キャンパス再開発における最初の仕事,バスロータリー移設工事で工事課長を担当しました。その後2代にわたって所長を実務担当者としてサポートしました。現在はC6号館増改築の工事中ですが,再開発という長期的な視点に立って,大学側の意向や相談に誠実に対応することを心掛けています。
  この工事の前には,母校の工科系大学の建替え工事に従事していましたので,そこでの経験も活かせました。今回,大学から「オープンキャンパス開催中は工事の騒音や振動に配慮してほしい」と要請され,現場を休ませることにしました。工程はきつくなりましたが,かえって工事は順調に進んでいます。

工事概要
神奈川工科大学
場所:神奈川県厚木市
発注者:幾徳学園
グランドデザイン:当社建築設計本部
計画概要:既存校舎を一部撤去し,3期に分けて校舎を建替え
1期工事:バスロータリー,情報学部棟,C6号館改修
2期工事:KAIT工房(設計:石上純也建築設計事務所)
3期工事:学生サービス棟,E2号館改修,A1号館耐震補強,学生プラザ
4期工事:C6号館増改築
ほぼ再開発が完了したキャンパス
学生プラザ整備におけるキャンパスの真ん中での解体作業は,学生の動線(←→)を確保して行われた
バスロータリー前広場のケヤキはキャンパスの歴史の象徴
プロムナードに新たにシンボルツリー・シナノキを植えた
C6号館増改築工事(2010年1月竣工予定)
文庫幼稚園 建替え工事

分割工事で難問解決
 文庫幼稚園(横浜市金沢区)は,京浜急行線金沢文庫駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅地にある。現在,当社設計・施工により建替え工事が進められている。
  ここでの難問は,住宅地内の限られた敷地で現位置に建物を建て替える方策だった。別の敷地に仮設園舎を建てるのは,運営上からも難しい。そこで当社が提案したのが園敷地を2分割して,2期に分けて工事することだった。
  木造による園舎は,1期工事を終えて一部供用を開始した。2009年秋には旧園舎のイメージを継承した開放的な園舎が完成する。
 
護られた旧園舎の原風景
 設計は「既存施設のよい部分・継承すべき点」を把握することから始まった。それは,平屋建てで開放性のある園舎▽既存の樹木を極力切らない土の園庭▽園庭を囲む建物配置▽ゆとりある廊下幅??。さらに,道路と園敷地の高低差を活かして,雨に濡れない園バス送迎スペースを設けるなどの改善を図っている。

玄関側から見た文庫幼稚園の完成予想パース
文庫幼稚園建替え工事の手順
第1期が完成し旧園舎がすべて解体された(第2期着工時)
空と緑に包まれた旧園舎の原風景
完成した1期部分
3時限目:建設のプロセス リニューアルで「いかす」
東洋大学朝霞校舎実験工房棟改修工事

 東洋大学朝霞校舎(埼玉県朝霞市)の旧文化系研究室棟(1979年竣工,2005年改修)を,新学部,新学科の工学・デザイン系の実験工房棟として改修する工事である。
  堅牢なRC間仕切壁で細分化された空間を,少人数教育のスタジオとして活用するほか,中庭に屋根をかけ,実験・制作,議論・講評の場として3層吹抜けアトリウム空間を実現。またスタジオ天井の格子や木質のインテリアなどを手作り感覚の仕上げや細工を施すことにより,教材化,教具化するなど,実験工房として再生した。
  改修工事は良好な建築ストックの形成に寄与すると評価され,2008年のBELCA賞ベストリフォーム部門を受賞している。

実験工房棟。3層全体をまとめるアトリウム空間
改修前の廊下部分
スタジオをつなぐ廊下の天井は木質ルーバーを使用
フェリス女学院大学10号館改修工事

 フェリス女学院大学10号館(横浜市中区)は,1929(昭和4)年,建築家アントニン・レーモンドの設計で企業社宅として建てられた。1977年に同女学院が所有し,研究棟などに利用していた。
  2007年に横浜市歴史的建造物に認定され,助成交付金を受けて創建当初の姿の復元を目指し,当社施工で改修工事が行われ,2009年3月に竣工。建設から80年を経ており,建具や金物,タイルなど同じ部材の入手が困難なものも多く,修復には様々な工夫が凝らされた。
  10号館は近代建築の保存などを目的とする国際学術組織DOCOMOMOの日本支部により貴重な建築物に選定された。

歴史的建造物としてキャンパスで活かされる
創建当初からの貴重な建具や金物
広陵高等学校耐震補強工事

 文部科学省が2009年6月に公表した学校耐震診断の調査結果によると,公立小・中学校の耐震化率は67.0%。全国で約7,300棟の小・中学校の校舎が耐震化を必要としている。
  当社が開発したパラレル構法は,安全性,快適環境の提供,デザイン性に優れた耐震補強構法で,2006年12月に工事を終えた広陵高等学校(広島市安佐南区)が,5件目の施工である。2棟,6基のパラレル補強が採用された。
  パラレル構法の最大のポイントは,斜張橋の技術を取り入れたことと,建物外部のみの施工で施工中も通常通り建物を使用できること。工場製作のプレキャスト部材の使用により,在来工法より工期が短縮され,品質性も優れている。

3本の柱部材による軽快なデザイン
改修前の廊下部分
 1時限目:発想〜企画のプロセス
 2時限目:計画〜設計のプロセス
 3時限目:建設のプロセス
 4時限目:マネジメントのプロセス