特集:災害に強い企業をつくる――鹿島のBCP
BCP始動
災害に強い企業をつくる――。民間企業の間で,「BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画」の策定気運が高まっている。
自然災害や大事故など不測の事態に遭遇した時,企業はいかに重要事業を継続し,短期間で機能を再開できるか,それを事前に計画・準備しておく。BCPとは,業務中断に伴うリスクから企業を守る経営管理手法である。
当社も,自社のBCP構築とともに,地域や顧客企業へのBCPサポートにも力を注いでいる。
今月の特集では,11月1日に行われた当社のBCP訓練を織り交ぜながら,「鹿島のBCP」を考察したい。
事業継続の重要性
 地震,台風,豪雪,竜巻,火山噴火・・・と,日本は世界でも有数の自然災害発生国である。加えて,テロやサイバー攻撃,感染症といった現代社会を脅かす新たな災害も問題視されるようになった。
 グローバル化とサプライチェーンの複雑化が加速する日本企業にとって,災害による事業活動の停止は,企業経営に大きなダメージを与えるだけでなく,地域や関係企業の事業活動,さらには世界の産業・経済にも多大な影響を及ぼすリスクがある。
 こうした状況を受けて,2005年8月,内閣府の中央防災会議が「事業継続ガイドライン」を公表。国が主導して,民間企業にBCP策定を促した。
 2001年の9・11テロ事件以後,BCPの有効性を認識した米国企業から,取引先の日本企業へBCP策定を求める動きが強まった。欧米では事業継続について規格認証の動きも出ているという。BCPを経営マネジメントとして位置づけることは,企業の社会的責任(CSR)として信頼の確保にもつながる時代になっている。

各企業の条件に見合ったBCP策定を
 中央防災会議の「事業継続ガイドライン」では,大規模地震発生の切迫性が指摘されるわが国の事情から,まず首都直下地震を想定したBCP策定を求めた。
 さらに,BCP策定に当たっては,これまで企業が力を注いできた防災対策の目的である「生命の安全確保」「二次災害の防止」「地域貢献・地域との共生」を前提とすることを強調した。生命の安全が確保されなければ,事業継続へのアクションも起こせないし,自然災害は広域的な被害をもたらすため,地域との協調や連携も不可欠だ。こうした防災対策をベースに, 企業それぞれの条件に見合った独自のBCPを追求する計画立案を求めたのである。
 喫緊の課題である地震からのアプローチを経て,あらゆるリスクに対応できる欧米型のBCPへ――。「事業継続ガイドライン」は,そうした将来展望を示している。

鹿島のBCP
 当社はBCP策定に向け,2006年に危機管理対策委員会を設置し,従来の災害時のリスクマネジメント体制の分析を行い,計画内容の検討とともに,BCP関連技術の開発に全社横断的に取り組んできた。 
 同年12月には,首都直下地震を想定したBCP「事業継続のための計画と取組み要綱【首都直下地震編】」を策定。今年4月,BCPの実施・運用,教育・訓練,点検,見直しを含めた体制を整備した「BCM(Business Continuity Management):事業継続管理」の運用を開始した。そして 11月1日,これに基づいた本格的なBCP訓練を実施した。
 当社のBCPは,中央防災会議の「事業継続ガイドライン」と,日本建設業団体連合会による「建設BCPガイドライン」を下敷きに,当社の経営の実態を踏まえ策定した。「首都直下地震を想定した当社への影響度評価と重要機能(業務)の抽出/重要機能(業務)に対する目標復旧時間の設定と復旧のための事前対策計画/地震発生時の組織体制と指揮命令系統/平時の実施・運用体制」などが示されている。
 特に,建設産業のBCPで重要な「顧客や地域への復旧支援」という社会的使命の遂行については,「その復旧活動に迅速に対処できない場合は,当社が培ってきた社会的信頼を毀損することとなる」と言及,役員・社員にその任務の重要性を強調した。

顧客のBCPを支援
 当社のBCPには,ハード・ソフトの両面に亘り,当社保有の防災技術が効果的に活用されている。これらの技術は,当社のBCPだけでなく,顧客のBCPをサポートするツールとしても有効活用が期待できる。
 今後当社は,被災時の顧客企業への迅速な行動設定などを含めた自社のBCPの継続的なメンテナンスとともに,BCP関連技術をさらに進化・充実させ,顧客のBCP支援のツールとして,積極的に提案していく。
BCP
災害時に,重要業務が中断しないこと,また万一事業活動が中断した場合でも,目標復旧時間内に重要な機能を再開させ,業務中断に伴うリスク(顧客の競合他社への流出や企業評価の低下等)を最低限に抑えるために,平常時から事業継続について戦略的に準備しておく計画のこと。
(建設BCPガイドライン:日本建設業団体連合会)

主にテロ対策として,欧米で先行したリスク管理手法。注目される契機となったのが,2001年9月11日に発生した同時多発テロだった。わが国では,新潟県中越地震をはじめ多発する地震災害時に,事業が中断しサプライチェーンへの影響が出た企業例があり,BCPの重要性が再確認された。

 鹿島のBCP支援技術
 鹿島のBCP訓練リポート
 interview