特集:病院レボリューション

時代のニーズに柔軟に対応できる病院建設

巻頭インタビューで神戸赤十字病院の小川恭一院長は,阪神・淡路大震災の経験から,病院は地震時にも医療機能を維持できる,壊れない建物であることの重要性を強調した。
一方,病院の施設整備はこうした非常時のほかにも,高齢社会の進展,医療提供体制の機能分化,医療技術の急速な進歩・・・といったニーズへの対応も迫られている。
しかしこれにどう取り組むかは,各々の病院が持つ環境,特徴,経済力等によっても異なる。
新しい時代の医療を取り巻く変化に即した病院建設の事例を紹介する。
Case 1松山リハビリテーション病院の場合「限られた敷地」「診療の継続」という条件下での建替え
 松山リハビリテーション病院(愛媛県松山市)は,1967年に開設された。その後,敷地内に病棟の新築・増築を重ねてきたが,建物の老朽化,医療法改正に伴う新施設基準への適合等を目的に,建替え計画に着手した。当社は企画・構想段階から事業をサポートし,マネジメント・アメニティ・セーフティーの各方面から検討を加えてきた。
 同病院の敷地内には既存病棟が複数あり,計画用地が限られていた。この中で,
@ 施工中も診療機能を継続する
A 施工中も病床数を確保する
B 仮設病棟無しで建替える
C 患者さんをはじめ施設利用者の安全を確保する

この4つが絶対要件とされた。
 様々な計画案が検討された結果,工期はかかるが,診療の継続性を保ち,最も経済的に施工できる「順次建替」案を採用した。敷地内の未使用地に高層棟を建設した後,順次既存施設を解体しながら,増築,建替えを行うというものである。
 こうした厳しい条件をクリアし,最先端技術を駆使して,松山リハビリテーション病院の建替え計画は2002年2月にスタート。約7,450m2の敷地に,これまでに9階建ての本館の建設を行った。病床数337床の本館には,震度6強〜7の地震にも耐える免震構造を採用した。リハビリ専門病院に特化した病棟機能を備え,省エネルギーシステムを導入,将来的な変更に対応できる病室面積を確保している。
 現在,第V期工事のリハビリ棟建設が進行しており,2005年末までには,リハビリガーデンや屋上のエコヒーリングガーデンも完成の予定である。
完成予想パース
工事概要
松山リハビリテーション病院
場所:愛媛県松山市
発注者:慈強会
設計:当社建築設計本部
規模:本館―RC造(免震構造) 9F
リハビリ棟―RC造 3F PH1F 
総延べ16,185m2
工期:I期 2002年2月〜2003年5月
II期 2003年5月〜2004年5月
III期 2004年5月〜2005年11月
(四国支店施工)  
4つの検討案
●「既存建物改修+増築」案
既存建物の一部を残した増築案を検討。これからのリハビリ病院としての機能を満たすには不十分の計画となる。工事費は最も少ない。
●「仮設病棟を利用した建替」案
仮設病棟を設けて建替えをした場合,数億円の工事費増となる,また同一敷地に余地がないため,許可病床上・医療法上の問題もあり困難。
●「病床の一部を休床する建替」案
既存北病棟を休床した場合,約10.8億円の収入減。
●「順次建替」案
工期や役所対応の手間はかかるが,診療の継続性を保ち,病院にとって最も経済的・機能的メリットの多い案。
敷地内建替え工事の流れ
STEP-1 【既存】
  STEP-2 【I期工事】
既存病院はリハビリ棟・南病棟・北病棟で構成されていた。計画用地は敷地隅部の庭部分のみであり,ここを建設地に充てる計画とした。
  敷地内の庭部分に本館(一部)を建設。
完成後,既存北病棟の入院患者さんを本館へ移動する。
建設着工前の松山リハビリテーション病院
  手前の建物が北病棟,奥が新築した本館
STEP-3 【II期工事】
  STEP-4 【III期工事】
既存北病棟の一部を解体し,その敷地にSTEP-2で建設した本館を増築。完成後に一部残った既存北病棟と既存南病棟の診療施設と入院患者さんが移る。
  既存北病棟と既存南病棟を解体し,その敷地にリハビリ棟を新築する。完成後診療機能を新リハビリ棟に移し,既存リハビリ棟を解体する。
北病棟の一部が解体され,本館が増築された
  既存南病棟が解体され,現在リハビリ棟を施工中
STEP-5
既存リハビリ棟の解体後は,患者さんの機能回復をサポートするリハビリガーデンを造り,新リハビリ棟の屋上ヒーリングガーデンとともに,憩いの場を提供する。
 
リハビリガーデンイメージ
壊れない,揺れない病院
――鹿島の免震技術――
 建物の基礎下や床下に積層ゴムを用いた免震装置を設置し,建物を支える仕組みが免震構造。この免震装置が地震の衝撃を和らげ,揺れを1/3〜1/5に低減する。
 松山リハビリテーション病院の本館にも免震構造が採用されたが,本館は増築するかたちで2回に分けて建設されたため,“免震建物をつなぎ合せる”という,新しい試みがなされた。大地震にも壊れない,揺れない当社の免震技術は,多様なタイプの建物の新築からリニューアルまで,幅広いニーズに対応できるラインナップを用意している。
 昨年10月の新潟県中越地震では,一部の医療機関の病棟が被害を受け,入院患者を移送する事態となった。これを重視した厚生労働省は,全国の災害拠点病院の耐震性について調査に乗り出した。
免震構法概念図
松山リハビリテーション病院の免震装置設置工事の様子
使用された免震ゴム



interview 新しい病院のかたち
時代のニーズに柔軟に対応できる病院建設 Case 1 Case 2 Case 3
病院レボリューション いま,鹿島が目指すこと