特集:病院レボリューション

病院レボリューション いま,鹿島が目指すこと
 医療を取り巻く環境変化に対応すべく,病院はいま変革の時を迎えている。今回の特集では,様々な課題をクリアし,時代に即した施設づくりに取り組む建設事例を紹介した。
 これからの医療施設に求められるのは,各々が果たすべき使命を認識し,それに特化した施設づくりを,将来的なビジョンに基づいて検討していくこと。要は“お客様に満足していただける”医療施設づくりである。
 当社は,技術研究所の豊富な研究成果に裏打ちされた技術の蓄積と,医療経営に関する多彩なソフト開発で,これまで多くの医療施設づくりに携わってきた。
 そのキーワードは3つ。「マネジメント」「アメニティ」「セーフティー」である。この観点に基づいたソリューションサービスを提供してきた。
 これからも当社はこの方針を堅持しつつ,事業企画・調査から設計・施工はもとより,アフターフォローにいたるまで,施設の一生涯をバックアップし,医療経営の良きパートナーとしての役割を担っていく。
 いま,鹿島が目指すこと――。
それは,患者さんに安全な建物,快適な環境を提案し,信頼のおける医療技術のもとで,安心して治療を受けていただくことである。当社が目指す医療施設の究極のかたちである。
病院レボリューションいま,鹿島が目指すこと
地域の患者需要の把握と来院患者の予測により,病院経営をサポートする――「患者需要予測システム」
 建物が老朽化し機能が低下した病院,経営的観点から医業形態の見直し検討を希望する病院――。病院の建替え,リニューアルを行う際は,将来的なビジョンを明確にし,目指す医業形態のフィージビリティスタディをしっかりと行い,安定した病院経営の道を検討することが必要である。そのためには,まず地域の医療ニーズをしっかりと把握し,そこでの自院の位置づけを明確にすることが重要である。
 鹿島が独自に開発した「患者需要予測システム」は,GIS(地理情報システム)・国勢調査・厚生労働省の患者調査・病院概要等のデータを用いて,診療圏における患者動向を簡易に予測することができる。具体的には,現在ならびに将来の人口・年齢構成等の推計に基づき,入院・外来各々の,傷病別・診療科目別・重傷度別・診療単価別の地域の発生患者数を算出。この結果を元に,周辺病院との競合や連携を計算し,自院への来院患者数を予測する。
 図1は,半径10km圏における外来患者の分布予測例である。また,自院内の科目別患者数や診療圏内シェアの現状,将来に向けた患者増加率をグラフ(図2)に示し,事業計画に役立てている。
 さらに事業の計画段階において,このツールを利用し地域における患者数の現状分析を行い,獲得すべき対象患者数に近づけるための具体的な改善策を立案し,将来あるべき医業形態の提案活動を行っている。
 当社は本システムをはじめ,「病院事業収支シミュレーションシステム」等,各々のケースに則したツールを用いて,事業計画をサポートしている。また,現在,生き残りをかけ病院が受審に取り組む,日本医療機能評価機構による医療機関の第三者評価受審対策メニューの作成,現状の施設機能を評価し,リニューアル等の整備計画の方向性を示すことができるツールを用いたコンサルティング業務も行っている。
図1
図2
QOL向上と参加型医療の環境づくりを目指す――「入院患者さん支援情報システム:ベッドでネット」
 入院生活は,患者さんに様々なストレスをあたえる。病の痛みや,入院前の生活とのギャップからくる不安や寂しさを少しでも和らげるには,入院中のQOL(生活の質)を向上させ,復帰への意欲を養う環境を整えることが大切である。
 当社が研究・開発を行っている「入院患者さん支援情報システム:ベッドでネット」は,ベッドサイドのテレビを活用して,簡単なリモコン操作で,患者さんがイントラネットやインターネットを利用できる環境を提供する。
 イントラネットでは,病院内の施設やサービスの案内,入院生活や医療に関する様々な情報が閲覧できる。病院の要望に応じて,イントラネットのコンテンツも多種取り揃えている。また病院からの情報提供だけでなく,患者さんからの意見や要望を収集する双方向型の活用もできる。有料でインターネットの利用も可能なので,ホームページの閲覧やEメールによって,外部との交流も図れる。
 このシステムは,2001年10月にオープンした東京大学医学部附属病院(東京都文京区)に初めて導入された。その後同病院とのコラボレーションにより,機能・コンテンツの拡大,操作方法の改善を重ね,現在では船橋整形外科,千葉県がんセンターほか数ヵ所の病院で導入されている。
個人のセキュリティ等に十分配慮した上で,患者さんの検査結果の数値,画像データやカルテなどの個人医療情報の提供も計画している。こうした個人情報の開示は,医療の透明性,医療サービスの標準化が図られるとともに,患者さんが医療に参加する環境づくりに役立つことにもなる。
 今後も当社は入院患者さんのQOLの向上と,患者さんと病院を結ぶコミュニケーションツールづくりのサポートを行っていく。
東京大学医学部附属病院に導入した「入院患者さん支援情報システム」
東京大学医学部附属病院に導入した「入院患者さん支援情報システム」
患者さんの不安を取り除く鹿島の新技術――世界初の「開放型MRI室」
 MRI(磁気共鳴映像装置)は,病気の早期発見を促す医療機器として広く活用されている。しかし閉ざされた密室の中での診断ゆえに,不安感や圧迫感を訴える患者さんが多かった。従来のMRI室が,装置から発生する磁気を外部へ漏らさないためと,周囲の電磁波から装置を保護するために,磁性材の金属板で部屋全体を覆っていたからである。
 そうした悩みを解消すべく誕生したのが,世界初の「開放型MRI室」である。ガラス張りの明るく開放的な空間に設置された装置での検査は,医師との“アイコンタクト”を可能にし,患者さんが安全で安心できる検査空間を創り出した。
 開放型MRI室は,厚さ20mm,幅85mmのスティック状の磁気シールドと,電波をカットする金属メッシュを特殊ラミネートしたガラスを使用。磁気シールドを2枚のガラスで挟みこむ形で,30cm間隔で帯状に配置する。この技術は,当社が開発した基本技術をベースに,新日本製鐵との共同研究で実用化した。
 本技術はシールド性能面でも従来のものを上回るだけでなく,二重ガラスの空気層で騒音や振動も緩和できる。シールドスティックは色や形状が自由に変えられるため,空間のデザイン性が向上するというメリットもある。
 第1号は,昨年4月に完成した岩手県予防医学協会の「人間ドックセンター」に設置され,受診者の好評を博している。
 当社は,昨年11月に米国・シカゴ市のマコーミックプレイスで開催された「第90回北米放射線学会」の展示会に,日本の建設会社としては初めて出展。「開放型MRI室」に関する技術展示が「患者のアメニティの確保と運営サイドの利便性を両立した製品」として,大きな反響を呼んだ。
開放型MRI室
開放型MRI室



interview 新しい病院のかたち
時代のニーズに柔軟に対応できる病院建設 Case 1 Case 2 Case 3
病院レボリューション いま,鹿島が目指すこと