特集:KAJIMA 新エンジニアリング主義

3 鹿島イズムとエンジニアリング・スピリット
 エンジニアリング本部からの展望


エンジニアリングというキーワードには,変化する社会のニーズに的確に対応して,さらなる発展を図る当社の姿勢と精神が凝縮されている。
ここでは当社のエンジニアリングの展望を岡本章常務取締役・エンジニアリング本部長に聞いた。
同本部の設立にも尽力した岡本常務は,エンジニアリング部門の重要性を早くから認識しており,その役割を当社の将来像の「パイロット役」と例える。

岡本章常務取締役・エンジニアリング本部長
岡本章常務取締役・
エンジニアリング本部長

鹿島フィロソフィの付加価値
──なぜいま建設業におけるエンジニアリングが注目されているのでしょうか。建設を基盤とする「技術の鹿島」が,1996年になってエンジニアリング本部という看板を改めて掲げたのは・・・。

まず背景となったのは,社会ニーズの変化です。「量」から「質」への価値観の移行が90年代に顕著になってきました。
 生産施設を例にとっても,ひとつの工場に求められる機能が,多様化,複雑化してきました。ものづくりの基本である,高品質・高生産性の確保という大前提に加えて,環境や省エネへの配慮,地域社会と企業とのコミュニケーションの窓口としての機能などが求められるようになったのです。また,顧客企業内の工務・営繕部門の業務の一部がアウトソーシングされるようにもなりました。
 それまでは工場の箱づくり,あるいは一部の施設づくりを請け負うに過ぎなかった当社に,生産施設の機能そのものを満足するための高度な提案が求められるようになったのです。建築技術に加えて多種多様な技術が必要となり,そのためには技術が各部署に分散しているよりも,ひとつの組織に集約した方が意志決定や戦略策定のうえで有利になる。そこで,エンジニアリング本部が設立されたのです。
 エンジニアリングは,建築物に大きな付加価値を与える行為です。当社の多様な技術を内外により見えやすくし,付加価値として顕在化させるために専業部門を立ち上げたともいえるでしょう。


技術を総合力に変換するマネージャ
──エンジニアリング部門の役割はどのように変わってきたのでしょうか。

エンジニアリングとは,「多様なニーズに対してさまざまな技術を統合し,課題を解決する」ことですが,お客様と世界の先端技術をつなぐこともエンジニアリング本部の役割のひとつです。技術のコミュニケーションと言ってもいいかもしれません。
 本部の設立当初には,従来の請負型から提案型の技術営業へと,姿勢の変化が表れましたが,本部自体の役割もニーズの変化とともに多様化しています。建設本業の受注拡大をサポートすることにはじまり,最近では建物の付加価値を高めるものとして注目されるようになりました。さらに,エンジニアリングそのものを「事業」として捉えることも視野に入れています。
 また,エンジニアリング本部は,建築・土木以外にも,機械,電気,情報,エネルギーといった多様な専門家で構成されるチームです。建築設計エンジニアリング本部や環境本部と情報を共有するなど,各部署と有機的に連携することで,全社的な「複合機能」を発揮することも心がけています。
 各分野の専門家をひとつのプロジェクトに集約することができるのが,ゼネコンならではの強みです。しかし,一方でお客様からは「鹿島さんはいつも大勢で来ますね」と言われることも少なくありません。顧客のさまざまなニーズや課題に対し,社内外の多様な技術・ノウハウを統合し,新しい価値としてのソリューションを提供していくためには,建築,生産,物流,情報といった個々の技術を取りまとめ,全体としての最適化を図っていくプロジェクトマネジメント機能の重要性を痛感しています。質・量ともに成長段階ではありますが,グループ全体の総合力を最大限に発揮するためのキーマン的存在となる,プロジェクトマネージャの育成・強化に今後とも努めていきたいと考えているのです。


ビジネスモデルの着実な構築
──最近の動向と今後の戦略について,お聞かせください。

当社の事業は,建築,土木,開発の3本柱を中核にしておりますが,エンジニアリングがそれにつづく事業の柱となることを狙っています。
 現時点で可能性の高いものとしては,たとえば医薬品エンジニアリング事業が挙げられます。この数年の実績が顕著に伸びていることは,当社の総合エンジニアリングに対して一定の評価をいただいた結果ですし,海外との連携強化を図ってきた10年あまりの戦略がようやく今,実を結びつつある段階です。医薬品を巡る社会情勢は,グローバルスタンダードへの対応など,急激な変化を遂げようとしています。当社は,これらに立ち向かえるだけの力は蓄積していますし,今後活発化するゲノム関連市場で果たす役割についても模索しています。
 また,工場や研究機関といった施設づくりだけでなく,物流や情報,エネルギーといった,線的,環状的にネットワークとして広がるエンジニアリングにも力を入れています。物流の再編計画において,立地選定の段階から支店と連携してコンサルティングを行い,さらには,お客様の本業の経営コンサルティングを行った例も出はじめているのです。
 建設業のエンジニアリングに派手さはありません。お客様のニーズを聞き,現状の調査・分析を行い,施設計画,設計・施工,そして試運転調整,稼動立会いという各段階を通じて,お客様とともにひとつずつ課題を解決しながら,お客様のニーズに合った使い勝手のよい施設をつくり込んでいく──こうした具体的なプロセスは非常に地味で着実に一歩ずつ進めていく作業でもあります。しかし逆にいえば,それだけ地に足の着いたもので,一連のプロセスのなかに新たなビジネスチャンスを発見する機会も多いのです。
 エンジニアリングを核とした事業展開は大きな可能性をもっていると考えます。現在,エンジニアリング本部としては,医薬品や物流などにつぐ新たな領域・分野でのビジネスチャンスを模索しています。土木の企画や設計,開発事業といった,面的な開発を手がける部署とのコラボレーションによって,都市や地域レベルといった分野にエンジニアリングを展開することも期待されているのです。


エンジニアリングカルチャーの高揚
──エンジニアリング部門の立場から鹿島全体へのメッセージを。

現在の当社のエンジニアリングの姿は,そもそも「技術の鹿島」の伝統と,多様な技術の蓄積から生まれたものです。特殊なことではなく,全社的なポテンシャルを引き出す作業を地道につづけてきた結果といえます。それだけにエンジニアリングは,今後も当社の強みである総合力をさらに引き出す可能性を秘めているのです。
 当社の経営理念を結ぶフレーズに,「社業の発展を通じて社会に貢献する」とあります。建設事業は,ビジネスであることには間違いありませんが,同時に大きな社会的使命を帯びた事業行為でもあるのです。抽象的な言い方ですが,こうした行為の実現のためにエンジニアリングがあるのです。
 そして,鹿島グループの一人ひとりがエンジニアリングの意味を改めて意識していただくことで,歴史ある企業風土がより醸成し,高揚へとつながり,社会貢献へのエナジーに変換していけば・・・と感じています。鹿島のスピリット,イズムとして,「エンジニアリングカルチャー」と言えるような風土を内外に浸透させていきたいと考えているのです。





0 「技術の鹿島」のエンジニアリングとは?
1 ニーズをかたちにする実践力
2 社会をつなぐ創造力
3 鹿島イズムとエンジニアリング・スピリット