特集:ITSで拡がる交通インフラのかたち

Chapter-3 フレキシブルなインフラ整備
 磁気がコントロールする交通システム
 交通事故による死亡者は,昨年1年間で8,000人あまり。車社会の発達とともに増加の一途を辿ってきたが,近年は交通規制や罰則の強化によって減少傾向にある。しかし,人身事故の発生件数は年間80万件を超え,大きな社会問題のひとつとなっている。
 交通インフラへのITの導入は,走行の安全性という点でも大きく貢献する。その技術のひとつがAHS(Advanced Cruise-Assist Highway Systems:走行支援道路システム)だ。一例としては,路面に埋設された磁性体の位置を車に搭載したセンサーが感知し,ドライバーが眠気などにより車線を外れそうになると,警告が発せられるようなシステムである。
 こうした技術を応用した先駆的な公共交通が,兵庫県・淡路島の「ファームパーク イングランドの丘」で実際に運行されている。磁気を利用した無人バスである。路面に埋め込まれた永久磁石である「レーンマーカ」が走行を制御し,車線を保持するハンドルの役割を果たすのである。ここでは専用道路で運行しているが,将来的には一般道にレーンマーカを敷設し,一般車両への適用も可能となる。
 そして,この交通システムは,接触事故を防ぐだけでなく,接続装置のない連結走行が実現できる。いわば無人の路面電車のような新しい交通システムが出現するのだ。この交通システムは,愛知万博にも導入が予定されている。
兵庫県・淡路島「ファームパーク イングランドの丘」で運行されるAHS対応の交通システム。
 きめ細かな社会基盤づくりをめざして新しい交通システム
 AHS対応交通システムのもうひとつの目的は,「中量輸送システム」の実現にある。鉄道とバスの中間に位置づけられるもので,よりきめ細かな公共交通網を築くものである。
 レールの敷設が不要なため,鉄道に比べて安価な建設が可能となり,路線選定の自由度も高い。また,レーンマーカのような設備は,専用道路だけでなく,既存の道路にも設置が可能なため,ニーズに応じて段階的に整備できることになる。路線の増設にもフレキシブルに対応できる。さらに,乗客数の変動に合わせて車両を増減することも容易だ。
 当社では,このような交通システムのコスト低減や機能向上をめざし,舗装仕様,分岐システム,レーンマーカの合理化施工などの研究に取り組んでいる。
AHSに対応した交通システムの運行イメージ
Simulation 「交通環境」を計るトータルシステム REST
 ITSがもたらすのは,交通の利便性だけではない。当社では,シミュレーションで得られる情報を利用し,交通とその環境を評価する新たなシステム「REST」を開発した。
 高速道路のインターチェンジや「駅広」のターミナルの計画,そして渋滞に配慮した工事計画から事業効果まで,多様なシミュレーションが可能なトータルな評価システムである。

1.インターチェンジにおけるETC導入の検討
高速道路のETC車載機の搭載状況を元に,インターチェンジ(IC)の配置計画を検討することが可能である。データをもとに段階的な整備計画を進められるだけでなく,IC周辺に最適な構造計画も検討できるようになった。IC付近での一旦停止によるCO2やNOXの拡散などの環境への影響も分析できる。

2.「駅広」のターミナルの配置計画
将来の交通量や駅広利用状況をRESTに入力することによって計画におけるターミナル内の交通の流れが把握できる。バスの停留所やタクシー乗り場などの施設について,駅前の混雑に対処する配置計画が可能となり,ゆとりある「駅広」空間が創出される。
大規模ICにおけるETC導入後の車載機搭載率を比較・分析したもの。
3.工事現場の配置計画
交通インフラの整備は全面的な通行止めが難しく,“いながら工事”となる。RESTのシミュレーションによって,交通量に影響の少ない工事の作業計画の検証が可能になる。

4.事業効果を予測する
都市部における立体交差事業などの大規模なインフラの整備では,近隣の商業施設への経済的な影響が懸念される。RESTの交通量分析にもとづき,事業効果を数値化することで,明快な近隣説明ができる。また,データの集積から,整備の進捗状況にもとづいた将来予測も可能となった。
作業帯の設置形状により,交差点における滞留スペースの交通影響を検証した事例


Chapter-1 国土を拓く知能
Chapter-2 ITSで変わるまちの拠点
Chapter-3 フレキシブルなインフラ整備
Chapter-4 人間とITの融合をめざして