特集:安全文化を築く![]() |
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出席者 | |
中村満義 社長 澤尻弘之 |
増永修平 執行役員土木管理本部副本部長兼土木工務部長 松崎公一 建築管理本部建築工務部長 山本敏夫 安全環境部長 岩本 豊 広報室長(司会) |
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成功体験を持つということ![]() 岩本 7月の安全週間に絡んで,安全と品質が今日のテーマです。2人の現場責任者から,いま進めている工事への思いや心構えを聞かせてください。 澤尻 現在,代々木神園町で建設中の高級賃貸マンションと中外製薬の製剤治験薬棟新築工事,それにGC板橋再開発プロジェクトの3現場を見ております。中外さんの建物にはもう10年近く携わっています。 社長 GCというのは歯科向けの研究施設ですね。 澤尻 はい。2005年8月から2011年1月末まで,4期にわたる再開発工事です。 社長 地鎮祭の時に行きました。 澤尻 GCの社長が現場を一緒に巡回しておられる時に,安全ポスターに写った中村社長の姿を見て,社長自らが安全のリーダーとなる会社なら重大災害は起きないだろうと,言われました。 三浦 私が現在担当しているのは,JR横須賀線武蔵小杉駅新設工事ですが,今年3月まで浜松の遠州鉄道高架新駅工事の所長をしていました。鉄道と道路の間の狭い用地に新駅を設置するのですが,営業線と道路の上にコンクリート構造物を,建築限界ぎりぎりに吊り足場を設けて構築するものでした。 社長 横須賀線新駅の方はこれから本格工事ですね。 三浦 軌道切換えを含む大規模な工事です。2010年3月竣工の予定です。 社長 遠州鉄道の経験が活きますね。 増永 彼のように40歳そこそこで厳しい現場の所長をやり遂げるのは,大きな自信になると思います。 三浦 やったことが喜びとしてはね返ってきました。いい現場でした。 増永 成功体験を持つということが大事ですね,この商売は。勿論失敗もあるでしょうが,やはり最後は成功しないと楽しくない。 社長 子供を初めて小学校にやるとき,学校は1人で来させろという。危なっかしいのだけど,目をつぶって送り出す。これがひとり立ちの第一歩です。 |
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安全は対話の多さに比例する |
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安全に家族のもとに帰る幸せ![]() 山本 社長の安全パトロールに同行させていただいていますが,社長は常に「自分の身は自分で守れ」とおっしゃっています。 社長 鹿島だから安全だなんてよく耳にするけど,危険な現場で身を守るのは自分自身でしかないのです。今日一日安全に仕事をして,家族のもとに帰れるということほど貴重な一日はないと思ってほしい。 澤尻 私は現場に「災害事例」を貼っています。それを気の緩みの戒めにしたいと思っているのですが・・・。 社長 自動車事故と一緒ですね。どうしてこんなところで,という場所で事故は起きる。 山本 そうですね。ちょっとした気の緩みが命取りになる・・・。でも,一昨年に比べると,去年は事故が減りました。要因は幾つかあると思いますが,一つは社長がポスターに登場したり,現場を回ったという意識革命ではないかと。 岩本 それはあるかもしれませんね。 山本 トップの決意というのは大きな力になる。社長に触発されて支店長が回り,支店の土木部長や建築部長も回るようになる。安全に限らず,トップが行動することが社員の励みにも,意識改革にもなると思いますね。 三浦 現場で約2週間,夜間に鉄骨の架設をした時には,静岡営業所の土木の各現場所長さんと,横浜支店の方などが,業務の合間を縫って交代で応援に来てくださった。本当にありがたい思いでした。 社長 みんなが見てるよ,というのが大事なんですね。 増永 協力会社もそうですよね。見てもらうということで意識も変わってくる。形式的な週報とか月報だけ上げておくのでは,なかなかそんな感覚にはなりません。 社長 子供だって,運動会で親が来てると,親を意識して一生懸命やる。これがやはり人間の原点じゃないかな。チーム鹿島,そういう思いでやりたいですね。最後はみんな人なんですよ。 |
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自然に出る行動が感動を呼ぶ![]() 岩本 現場では近隣対策も大切な仕事ですね。 三浦 遠州鉄道の現場では,毎月近隣の230軒に資料を持って回りました。 社長 どういう会話をするのです? 三浦 最初は向こうも怪訝な様子なのですが,2回目,3回目となると逆に声をかけてもらったりします。来週から夜間の工事があるのでご迷惑をかけます,とか説明します。そういうことを地道にやることで安全が確保できたのかな,と思いました。 社長 鹿島そのもののマネジメントには,ヒエラルキーもある。だけど問題は外なんですね。僕が外へ行ってお客様と会ったり,何か起きた時は応用動作が問われる。その対処方法を社員も,お客様も見ている。普段通りのことを自分がやっているかどうか,言行一致かどうかを見ている。 三浦 そうですね。 社長 だから所長が200何軒か歩いているのを,現場の人も協力会社も見ていて,これはやらなければ,という気にさせるところに結びつけなければいけません。安全だって一緒ですよ。安全に,安全にと言っても,現場を社員が歩いて,気がついたことを自分でやることが必要なんです。 澤尻 私もGCの現場には夕方5時頃に行って,社員と清掃道具を持って上から順番に降りてきました。掃除しながら,この収まりは間違ってるんじゃないかとか,いろんなことに気づくわけです。それを作業員は見ているのですね。 社長 都内のある製薬会社へ営業で通っていた時に,会長から,すぐ裏側にある鹿島の現場を指差して「鹿島は大したものですねえ」と言われた。何のことかと思ったら「毎朝現場の前の公道を掃いているのは所長なんですってね」と言う。どうして所長とわかったのかというと,会長がある時,掃除をしている人に話し掛けて分かった。会長は「所長が掃除するのか」と驚いたら「私は現場が始まる前にまずお清めをして安全を祈るんです」と,平然と言う所長に感服したというのですね。それで帰りに現場に寄って所長を褒めたら「えっ、あの人会長なんですか」。自然に出る行動が誰かに感銘を与えるのですね。 澤尻 そういう思いが伝わるんですね。 社長 会社の品質を作るというのは,そういうことなんです。品質を作るのは人なんです。 |
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本当のお客様第一主義とは![]() 澤尻 私はマンション工事をいくつか経験しましたが,マンションはクレームがつきやすい。一生懸命工夫してもクレームは出る。そこで大切なのは,素早い対応なんですね。土曜の夕方にお客様からクレームの電話が入った時,社員が「月曜の朝一番で対応します」と言うから,私は「すぐ行きなさい。自分なら困るだろう」と言いました。彼には何か用事があったのでしょうが・・・。 社長 要は,自分の家だったらどう思うかということなんです。僕はいつもお客様志向,お客様第一と言っていますが,安全にも品質にもすべて覚悟が要るのです。そういう意味では,土木でも建築でも「お客様のニーズに沿って」などというのは,生半可でやれるものではないのです。 澤尻 マンションの模型を見せてもイメージできないですものね。お客様が求める以上の設計や施工ができれば,それこそ本当のお客様第一になるのですが。 社長 みんな,クレームで傷の2つや3つは持っていると思う。でもこうした会話の中に,安全とか品質をどう守るかという本質が隠れている。安全とか品質だけを切り出して管理しようとしても,それはできない。社員の行動など,全人格的なものから安全も品質も出てくると僕は思いますね。 松崎 私は所長や次席などで現場の経験がありますが,竣工後のマンション現場に半年とか1年残ったことがある。お客様がどう使って,どこに不都合を感じるか,ということをダイレクトに見ることができました。これは良い経験になりました。ですから現場を移った後も,自分がメンテナンスをしていけば,そのお客様とずっとコミュニケーションが図れるわけです。そういう現場ほどクレームは少ないですね。 山本 コミュニケーションの活性化は,今年の全社安全衛生計画の重点実施事項にもなっています。コミュニケーションはお客様との間だけでなく,社員間も,協力会社や近隣の人ともある。そういった会話の中から人間関係が築けるのですね。 松崎 コミュニケーションの度合いで,その建物が本当に生きた建物であるかどうかが分かります。マンション工事でも,リニューアル工事とかメンテナンス工事の1つや2つを持ってみるということが,将来的に大きな財産になるのではないか。そんなことを現場にいる時に感じましたね。 社長 確かにそうした経験は必要かもしれません。 松崎 安全に関していえば,現場を見る目といいますか,澤尻所長が言われたように,大切なのは自分がその立場にいたらどう感じるかということでしょう。例えば足場の上である作業をする時,自分が怖いと思ったら,誰が上がっても怖い。ですから朝指示したことを,自ら夕方確認に行く。どういう状態で仕事をしているのか,自分をその身に置いてみる。そういうことが,ささいな事故も防ぐことになるのではないでしょうか。 山本 そうですね。現場を歩いてみれば,どこに転びそうなところがあるかは分かる。 社長 僕はある時,こんな話を聞いた。現場の所長が事故を起こすと,所長が処分を受ける。それは運が悪いのであって,きつい処分をされたら所長をやる人がいなくなってしまう,と言った人がいるというのです。 岩本 それは違いますよね。 社長 そこに安全の本質を持っていってしまったら,鹿島の技術屋じゃないと僕は思うんです。松崎さんが言ったように,自分で歩いて,自分で危ないと思うかという,そこまで目配りしてやっても,最後は天が味方しなかったということはあるかもしれない。だけど,そう言い切れるだけの努力をしたかということを,安全の委員会などで査問するのは,それを聞くのが目的であって,処分が問題ではないのです。運が悪かったと査定する方が思って,そんな手を差し伸べたら,みんな運が悪いことになってしまう。そうなったら会社は動いていけません。 |
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安全に絶対はないけれど![]() 社長 1970年頃は,売上げが3,000億で1万人近くの社員がいた。いまは1兆2,000億か3,000億で1万人です。社員が足りないから事故が起きるなんていうけど,3,000億を1万人でやっていた時の方が事故が多かった。1人当たりの施工高がこんなにあるから事故が起きるというのは,間違いですよね。それだけ安全管理もみなさんの努力でよくなったんです。4倍の売上高を同じ人数でやって,圧倒的に災害率は下がっているのだから。 山本 建設業の死亡数も,全国で500人のところまで下がってきました。 社長 電力会社の会長とお話しした際に聞いたのですが,あるシンポジウムでジャーナリストの木元教子さんが,「基本的に人は間違いを犯すし,機械は故障することがある,安全に絶対はない」と話されたそうです。僕はこれを聞いて,安全に絶対はないことを認識した上で,いかにそれをミニマムにするかという努力が,我々に課せられていると思いました。随分事故が少なくなったからいいじゃないかとか,あとは運が悪いだけだなど,そういう考えではなくて,それをミニマムにしていく努力が,その会社の良心だと思う。 松崎 その通りだと思います。 社長 絶対安全なんて世の中にはない。そういう前提で原子力発電はバリアを幾重にも張っています。電力会社は,万々が一に備える態勢を整えているんです。それを万々々が一にというふうにミニマム化する努力が,すべての安全と品質の根源ではないかと思いますね。 澤尻 だから我々は,100を目指すために150の努力をしなければいけない。では建設現場で150は何かというと,安全面ではかすり傷一つ負わないというのを私は目標にしています。それを一生懸命,毎日社員同士でやっていると,不思議と運って向いてくるんですね。 |
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実戦で必要なのは応用動作![]() 社長 この間,新聞を見ていてね,思わず膝を打つようなコラムがあった。元西鉄ライオンズの豊田泰光さんがこんなことを書いていたのです。ブルペンでものすごくいい球を投げていたピッチャーが,試合になると打ち込まれる。なぜかというと,それは第一にバッターボックスにバッターがいる。第二に審判がいるからというんですね。これがブルペンと決定的に違う要素なんだ,と。それだけで心理的に変わってしまう。 岩本 なるほど。 社長 それは仕事も同じで,社員が「そんなこと分かってますよ」と言ったことが,いざとなるとできない。ブルペンでは分かったつもりなのにね。じゃ我々はどうしたらいいのか。豊田さんは三原監督の言葉を引用して,こう言っています。試合で失敗したピッチャーが詫びると,監督は「おまえの失敗でゲームを落とした。おまえ,辛いだろう。でもな,もっと辛いのは起用した俺なんだぞ」と言ったというんです。これが教育というものかなと,ふと思ったりして・・・。 澤尻 「俺だって辛い」の一言で,選手が発奮する・・・。よく分かります。 社長 うちのアメフトの選手にだっていえる。練習で良くても試合では相手がいるんです。安全教育でも営業教育でも一緒だと思う。品質だってそう。段取りや手順は分かっていても,いざとなったら相手は自分の思った通りには動かない。実戦で何が必要かといったら,それは応用動作。現場では瞬時にそれが問われるのです。 岩本 社長はよく管理部門は現場の支援部隊だとおっしゃっていますね。 社長 支店は現場だと言うくせに,支店管理部門は現場という意識がなくなってしまう。財務も総務も,みんなそこにも現場はあるはずなんです。土木管理本部も建築理本部も管理部門だけど,土管本,建管本そのものが現場なのです。現場マンと言ったときに,施工現場だけが現場だと,そう思う意識があるから「管理部門は現場の支援部隊だ」って言うんだけど・・・。 岩本 それが,実戦での応用動作,現場で瞬時に求められる判断への強力なサポートにもなるわけですね。 社長 そう。俺は現場を見にきたというのと,俺の現場だと思うかどうかという意識の違い。それが第一人称でものを見るか,語るかということなんですね。要は社員一人ひとりが真剣に,一個一個のプロジェクトにどう向き合うかが,安全,品質の第一歩だと思う。一人ひとりがベストを尽くす。これが「チーム鹿島」の強さなのです。 岩本 ありがとうございました。 |
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■ 社長座談会 安全も品質も「チーム鹿島」で ■ トップダウンの安全管理 ■ 安全表彰あれこれ ■ 協力会社社長に聞く |