特集:電子デバイスファシリティの新展開

Solution 1 多層免震大空間

ニーズ1:地震リスクを軽減
 電子デバイス生産分野では,生産装置を含めた初期投資金額が,1,000億円を超える場合もある。しかし,ひとたび大地震が起これば,工場や装置への直接被害だけでなく,操業停止にともなう売上げの減少などの間接被害も甚大である。
 近年発生した地震でも電子デバイス工場は甚大な被害を受けている。また工場内では危険なガスや薬品を使用していることからも,安全性の確保も重要な課題となっている。

ニーズ2:大空間の生産ライン
 次世代に向けた電子デバイスの生産施設づくりで,テーマとなっているのが「大型化」である。製造法の合理化,あるいは液晶パネルなどの表示装置の大型化にともない,生産装置も大型化する傾向にある。これによって,生産ラインが入るクリーンルームも大スパン架構が要求されはじめている。
 また,電子デバイス工場の建設は生産ラインが決まる前に設計・施工するのが常態化しており,工場にはラインの変更に耐えうるフレキシビリティが求められている。そして,大スパンはこれを解決する一手段ともなっている。

ニーズ3:微振動制御
 一方で,より精密な機器を扱う生産施設では,微振動を制御することも焦点となっている。場外を走る車両や,ときには場内の人の歩行で発生する揺れさえも歩留まり低下の原因となる。これを防ぎながら,より広い空間を実現するための,一体的な解決策が求められている。

 このようなニーズに応えるべく,当社では,これまで培った実績を生かした,一体的な施設づくりのシステムを開発した。
 それがここに紹介する「多層階免震工場」である。

拡がるクリーンルーム
 多層階免震工場の最大の特徴は,これまでにない大スパンのクリーンルームを実現したことにある。従来20mほどのスパンだったクリーンルームが40mを超える規模にまで拡張でき,生産ラインと装置のレイアウトの自由度が格段に上がる。これを実現するのが,当社特許のカテナリーアーチ構法である。
 従来のトラス梁に代わって,カテナリーアーチが採用されたのは,少ない鉄骨量で高い剛性をもつためだ。多層化しても生産装置の微振動防止対策が十分に保証されるのである。

解放される設備配置
 カテナリーアーチのメリットは多層化されたときに,さらに発揮される。
 クリーンルームの床下となるリターンプレナムには生産装置の補機やダクト,ケーブル類が配される。トラス梁の場合,そこに入る斜材がこれらの配置を妨げることもしばしばあった。しかし,橋などに用いられる〈懸垂曲線〉を活かしたカテナリーアーチ構法ならば,リターンプレナムにも斜材がほとんど入らず,設備などのレイアウトの自由度が飛躍的に増すのである。

 ここで,多層階免震工場のもうひとつの特徴である免震化にスポットを当てよう。
 すでに示したように,電子デバイス生産施設にとって,振動は最大の敵となる。その意味では,大地震時の加速度を大幅に低減し,生産装置の損傷防止,操業停止のリスク低減を可能とする免震化はもっとも適した構法と言えるだろう。

短工期と免震化の両立
 これまで電子デバイス生産施設を免震化した例は,ほとんどない。その要因のひとつに工期がある。
 建物を免震化する場合,基礎部に免震層を設ける工程が加わる。通常の工期にわずかな時間が加算されるだけだが,一刻も早い操業開始が待たれる電子デバイス生産施設では,これが障壁となっていた。
 しかし多層階免震工場では,基礎部をプレキャスト化するなどの工夫によって,一般建物と変わらない工期の短縮化と,さらにはコストダウンも可能にした。かつてない大スパンのクリーンルームと大地震による操業停止リスクの大幅な軽減という,ふたつの重要なニーズをともに満たしながら,短工期・コストダウンも達成可能な多層階免震工場。次世代型電子デバイス生産施設を創造するシステムの誕生である。
大地震による操業停止リスクを大幅に軽減する〈多層階免震工場〉のシステム図。「耐震」「空間」「配置」「施工」を一体的に計画し、人命と生産装置を守る施設づくりが可能となった
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電子デバイス工場を知るキーワード
歩留まり(ぶどまり))
生産されたすべての製品に対する,不良品でない製品の割合のこと。工業製品の多くは,製造品すべてが出荷できないのが一般的で,一定の割合で不良品が含まれる。不良品の割合が高ければ歩留まりは下がり,低ければ歩留まりは上がる。歩留まりが低いと原材料費や製造費の無駄が大きくなり,企業の収益を圧迫する要因となる。



Solution 1 多層免震大空間
Solution 2 地震リスクを事前に把握する
Solution 3 電子デバイス生産施設のトータルエンジニアリング
Prospect  物理・化学と建築のコラボレーションをめざして