特集:電子デバイスファシリティの新展開

Prospect  物理・化学と建築のコラボレーションをめざして

電子デバイス生産分野の活発化にともない,建設業界にも変化が生じてきた。
短工期,品質,ローコストへの要求が時々刻々と強まるなか,業態そのものの問い直しがはじまっている。
次世代の電子デバイス生産にとって,理想的な施設づくりのあり方とはどのようなものか。
当社の電子デバイスチームの陣頭指揮をとる,建築管理本部の荻原行正本部次長,鹿島リサーチの加々美孝部長,建築設計本部の大塚賢マネージャーに話を聞いた。
荻原|先日のフラットパネルディスプレイ(FPD)展には約570の企業・団体が出展しました。今年,当社は初めて出展しましたが,私が実際に会場を見て再確認したのは,この分野に参加している企業の多さです。例えば,当社の現場で防水工事に関わっていたプラスチック加工業者が,ディスプレイのプラスチック膜加工分野に参画していました。このように,あらゆる産業が参加している分野なのです。
 これまでの建設業のレベルに留まっていてはこの分野の一翼を担えないと,あらためて痛感しました。建屋だけを提供するのではなく,製造装置の一部をつくる,「物理・化学とコラボレーション」するという意識が必要だと思いました。
加々美|つまり,電子デバイス生産分野をトータルに把握して,全社一丸になって取組まなければ生産者のニーズに応えられないということですよね。設計,施工,技術開発はもちろん,生産者との橋渡し役となる営業も交えてスクラムを組まなければいけません。当社では,複数の部署が連携したチームを編成して,従来の建設業の概念を覆すような取組みを目指しています。FPD展への出展はそのチームの取組みのひとつです。
大塚|製品がどんどん進化している現状がありながら,建築が変わらないというのはおかしいですよね。かつては,分子汚染制御なんてことは求められなかったけれど,今では新しい問題が次々と提起されています。〈多層階免震工場〉をはじめ,この特集でとり上げた技術は,技術研究所やエンジニアリング本部と協力して生まれたものです。こうした体制で取り組めるのは当社の強みでもありますが,逆に言うと,横断的な取組みをしなければ参入できない分野なのですね。
荻原|そして,このような体制を継続することが重要ですね。これまでの実績で得た技術のバックボーンをもちながら,さらに成果を上げていく。そのためには,従来の建築のつくり方の概念にとらわれないようにしなければなりません。
 これまでは設計しながらつくる,つくりながら設計するというのは,邪道と考えられてきました。きちんと手順どおりにつくるのが正道だと。しかし,この分野では従来の非常識が常識として求められることもあるのです。
加々美|これは営業活動にも言えることです。この分野における市場の分析・把握というのは,技術部門とともに進めています。現在,設備投資を進めている企業というのは,世界のマーケットニーズに合わせてダイナミックに動いている。そこへアプローチするには,同じ目でマーケットを見据える力が当然必要になってくる。
 さらには、生産者が求めている最先端の技術をいかにサポートできるか,その対応のスピーディーさが仕事のキーになる。
 だから,技術と営業が組んでフットワークよく対応しているのです。
大塚|電子デバイス分野のイノベーションは,日進月歩どころの勢いではありません。最先端のものをつくろうとしている人たちと一緒に施設づくりをしていく,その一翼を担うという意欲がなければ成り立たないのですね。「こんな工場をいかがですか」と一方的に言うわけにはいかない。
 ストラクチャーとか,免震,制震というのは建築分野のボキャブラリーですよね。一方で「サイエンス」という枠組みを基準に,多くの企業が最先端技術を持ち込む分野です。この分野にどこまで入り込むかは,同じく最先端を追い続ける姿勢をもつことができるかにかかっています。例えば,免震は建築分野では最先端の技術と言えますが,それで終わってはダメなのです。生産者と一緒の技術革新の継続が必要なのです。
加々美|加えてベーシックな技術,つまり短工期で膨大な仕事量をこなせる施工能力との両立が必要ですね。どちらもコラボレーションの場で培うものです。
 FPD展では,営業マンがすべてのブースを廻り生産者の生の声を聞くことができました。次はいかにこれらを磨き,最先端をリードし続けていくか,ですね。
左から加々美部長,荻原本部次長,大塚マネージャー



Solution 1 多層免震大空間
Solution 2 地震リスクを事前に把握する
Solution 3 電子デバイス生産施設のトータルエンジニアリング
Prospect  物理・化学と建築のコラボレーションをめざして