特集:電子デバイスファシリティの新展開

Solution 3  電子デバイス生産施設のトータルエンジニアリング

当社では,これまでに紹介した〈多層階免震工場〉〈地震リスク簡易評価システム〉のほか,次世代の電子デバイス生産をサポートするべく,技術開発を日夜進めている。
ここでは,電子デバイス生産施設をトータルでサポートする当社の要素技術を紹介する。
01 分子汚染コントロール
 次世代の電子デバイス生産施設における課題のひとつにクリーンルーム内の分子汚染がある。分子汚染された製品は歩留まり低下の要因となる。しかし,その発生は建材や設備機器,外気,人など,複数の要因が絡み合うもので,抜本的な解決策が待たれていた。
 当社では,まず分子汚染物質をできるかぎり少なくコントロールすることから対策技術を確立している。
当社技術研究所内に設けられた空気室ラボ(超高清浄クリーンルーム)。アウトガスと呼ばれる各種建築材料から発生するガスの評価・実験で,無機イオン・有機物ともに,極めてゼロに近い空気質を実現した 分子汚染対策のコンセプト図。「施設内部での発生の抑制(出さない)」「外気からの分子汚染を排除(持ち込まない)」「内部発生した汚染分子の除去(排除する)」に従ってコントロールする
当社技術研究所内のクリーンルームに設置されたミニチュア・クリーン・チャンバ(クリーンルームの縮小モデル)。建材やフィルタ,ケーブルなどの設備材料を実際に設置し,計画段階からクリーンルームに近い環境で,アウトガスの評価・予測ができる
02 開放型磁気シールド
 電子デバイスはさらなる微細化へと進んでいる。次世代デバイスの製造方式においては磁気の影響排除が大きな課題のひとつとして注目されつつある。
 これまでの電子デバイス生産施設内での磁気遮断は,生産装置付近を隙間なく覆う板状のシールド材が担っていた。しかし,これでは室内を目で確認できず,また空間の自由度も高いとは言えなかった。
 これを解決したのは,当社が開発した帯状のシールド材である。これを装置周辺に一定間隔で配置することで,開放的な作業環境が得られるだけでなく,従来以上の遮断性能も発揮される。
 現在,病院のMRI室や電気室でも採用され,その汎用性が期待されている。
病院のMRI室への応用例
左から「密閉型(従来方式)」「開放型(鹿島方式)」「ハイブリッド型」へと発展するシールド技術。開放型では,壁・天井をガラス張りにでき,クリーンルーム付近の自由度が格段に向上される
03 次世代リアルタイム防災システム
 いざ地震が起きたら,状況をいち早くキャッチし,いかに早く次の行動に移れるかが,二次災害を軽減し,生産施設を早期に回復するポイントとなる。当社の〈次世代リアルタイム防災システム(RDMS)〉は,その手がかりとなるシステムである。
 地震の直前には,気象庁が発信する緊急地震速報を元に,大きな揺れがはじまる前に地震の襲来(予想震度,到達時刻)を知らせ,さらに地震の最中・直後には,振動センサなどが建物や設備の損傷を正確に把握して即座に報告する。
 これにより,地震に対するアクションを一刻も早く起こして,危険を回避し,生産ラインの早期操業再開などに役立てる。電子デバイス施設をはじめとして,今後の建物・都市の地震災害軽減を担う次世代技術として期待されている。
次世代リアルタイム防災システム〈緊急地震速報のモデル図〉
04 排水廃液放流ゼロシステム
 電子デバイスの製造には大量の水と薬品を必要とする。その多くは洗浄工程に用いられ,さらに他のプロセスでも多用される。そして,これは大量の生産排水・廃液が出されることを意味する。
 環境の保全に対する意識が年々高まるなかで,電子デバイス生産分野でもこれに応える動きが加速している。排水への配慮もそのひとつで,それに応えるべく当社には〈排水廃液放流ゼロシステム〉がある。生産排水を希薄排水と濃厚廃液に分類し,排水は回収・リサイクルされ,廃液はさまざまな手段で安全に処理できるシステムである。
 ある施設で実際に運転した結果,放流ゼロに加え廃液の業者引取り量の90%削減が確認され,環境負荷の低減はもちろんのこと,トータルな運営コストも削減された。
 市場ニーズへの応答と環境負荷の低減――これらを両立する次世代型生産施設へのシフトチェンジはすでに行われている。
施設の敷地内に設けられた処理装置
05 生産ライン計画支援システム
 電子デバイス生産施設の新設計画において,検討にもっとも多く時間が費やされるのは,当然ながら生産ラインレイアウトである。6〜7ページの工程表に示したとおり,装置の選定・設置を含めたレイアウトは,施設の規模決定と並行して反復検討され,着工後もなお,最新製造技術や市況に応じたベストのラインが推敲され続ける。当社ではこのような生産ライン計画を,CGによるシミュレーション技術等も活かして,支援するサービスを提供している。
 生産設備・搬送設備・作業員のパフォーマンスをモデル化することにより,生産から出荷までの流れを一体的に分析する生産ラインシミュレーションを検討できる3Dモデルによって大型生産装置を搬入するためのルート計画とスケジュールコントロールまでをトータルサポートでき,垂直立上げ操業へ移るために,徹底的に施設建設期間の効率を追求する総合的なシミュレーションシステムである。
3Dモデルを用いた生産装置の搬入軌跡図(左)と稼動を想定した生産ラインのシミュレーション(右)。生産装置や生産される電子デバイスがアニメーションで表示されるため,最適な工程の検証が容易となる
ここに示したほかにも,微振動制御技術(V-Fineシステム),クリーンルームの耐震対策,レイアウトフリー床システム,自由にレイアウトできる高剛性床,短工期ローコストな外壁屋根の気密工法,省エネルギー技術など,当社では次世代の電子デバイス製造環境に対応した技術を多数保有している。
フラットパネルディスプレイ展@東京ビッグサイト
 4月20〜22日の3日間にわたって,東京ビッグサイトにて〈フラットパネルディスプレイ研究開発・製造技術展〉(FPD展)が開催された。今年で15回を数えるFPD展は国内外から約570の企業・団体が出展した。業界最大規模となるこの展示会,3日間の来場者は主催者発表で52,804人におよんだという。中国や台湾からの見学者も多く訪れ,日本の電子デバイス生産技術に対する注目度の高さがうかがえた。
 今回初参加となった当社は,「地震リスクから経営を守る!」をテーマに,次世代の電子デバイスに向けた生産施設づくりをアピールする展示を行った。プレスリリース発表直後の4月8日にYahoo!ニュース産業部門でアクセスランキング第1位を獲得した〈多層階免震工場〉をはじめとして,〈地震リスク簡易評価システム〉〈次世代リアルタイム防災システム〉など,さまざまな最新技術を,パネル,デモンストレーション,セミナーの3形式を中心に紹介した。当社ブースには3日間で2,000名以上の見学者が訪れ,なかでも,〈多層階免震工場〉〈地震リスク簡易評価システム〉〈トータルエンジニアリング〉に関する3種類のセミナーでは,開始前のアナウンスで続々と見学者が集まり,大盛況となった。
来場した梅田社長 初参加となった当社ブース
大勢の聴衆が訪れたセミナー



Solution 1 多層免震大空間
Solution 2 地震リスクを事前に把握する
Solution 3 電子デバイス生産施設のトータルエンジニアリング
Prospect  物理・化学と建築のコラボレーションをめざして