特集:建築施工革命序論

Revolution-1 タワークレーンのいない超高層工事
小田急海老名分譲マンション新築工事
工事概要
場所:神奈川県海老名市
発注者:小田急電鉄
設計:当社横浜支店・小田急建設JV
構造:PCaPC造+基礎免震構造
規模:〈EAST棟〉地下1階,地上23階 延べ15,149m2〈WEST棟〉地下1階,地上22階 延べ20,932m2
全体工期:2002年4月〜2004年7月
施工:当社横浜支店JV
「工場」化した建築現場
 大型部材をリフトで建方階まで垂直に持ち上げ,建設中の最上階にセットした天井クレーンで設置位置まで水平移動する──「建築の現場というイメージよりも,工場みたいですね」。現場を訪れるお客様や見学者から寄せられる最も多い声だ。施工エリアが整然とし,作業員の数も少なく,オートメーションの生産工場の雰囲気に似ている。
 「シャトライズ工法」と名づけられた今回の施工方法は,敷地環境のさまざまな条件に合わせて合理化を追求するなかから生まれた。全戸南向きの板状マンションに無柱空間を実現するために,全長15.8mのPCa(プレキャスト)大梁の重さは22t。従来の2〜3倍だ。
 こうした大型で重量のある部材では,タワークレーンも大型化し,施工コストが高くなる。また,工事中の免震建物とタワークレーンとの接続部分の地震対策など,この現場特有の困難な技術的課題が発生する。移動式の超大型クローラークレーンでは,狭隘(きょうあい)な敷地に不向きなだけでなく,大規模な地盤改良工事も必要となる。
 さまざまな条件を総合的に検討した結果,「超高層にはタワークレーン」という常識を脱却することがこの現場の課題となった。
小田急海老名分譲マンション「VINA MARKS」EAST棟の施工状況
「乾式超高層」への生産システム
 常識からの脱却は,多様な利点を生む。2台の天井クレーンにフックをふたつずつ設置――合計4つのフックによるクレーン作業に自由度が生じるため,作業効率が大幅に向上し,工期もコストも圧縮できることとなった。
 また,部材の搬入などを行う施工エリアは,リフトが設置される建物短辺方向の1ヵ所のみとなり,敷地を効率よく利用できる。狭隘な敷地で大型PCa部材を組み立てるのに最適の工法となった。
 さらに,免震建物へのクレーン設置という難問は,天井クレーンを建物の本設柱を通じて躯体全体で支えることによりクリアし,地震への安全性も確保できた。
 そして思わぬ利点も生まれた。風が強い敷地において,強風に左右されずに作業が進行できることとなった。従来のタワークレーンに比べて部材の吊り下げ距離が極端に短く,風の影響を受けないからだ。
 全戸南向きの板状建物で無柱居室のニーズを実現するためには,本件のようなPCaPC(プレキャストプレストレストコンクリート)造が最適である。PCa部材の大型化・重量化は今後もつづく傾向にあり,超高層建設の合理化の主題は,現場における「乾式施工」の追求となる。鉄筋コンクリート造はプレキャスト化,鉄骨造はボルト接合(現場溶接なし)化である。
 工場のように大型部材が搬送され,組み立てられるシャトライズ工法は,やがて超高層建設の「常識」のひとつに加えられるかもしれない。
セルフクライミング天井クレーンシステム「シャトライズ工法」 小田急海老名分譲マンション
Revolution in EBINA 所長が教える建築施工革命6箇条
施工革命のためにすべきことは何か?
旧来の常識にとらわれない 革新的な施工現場の陣頭指揮をとる 荒木所長に心得を教えていただいた。

point-1 要素に分解して対策を立てる
現場でコストダウンを図るために,さまざまな要素に分解し,それぞれの対策を立てる。
・ どの部分のコストが高いのか?
・ “攻めどころ”はどこか?
・ 需要と供給のバランスは?
本件では,たとえば大型PCa部材の特徴を活かすために,揚重システムを工夫した。

point-2 コストダウン≠工期短縮
コストダウンに有効なのは「工期短縮」というよりも,「適正工期」ということ。
適正工期とは,さまざまな要素を無理・無駄なくシステマティックに組み合わせることでつくり出すもの。
生産システムを思い切って根本的に変えることによって工期は短縮する。

point-3 革命の必然性を現場で共有する
協力会社や職人さんにとってもメリットがあることを説明・説得する。
新しい生産システムは,新しい職種(多能工など)を生み出すことができる。

point-4 工期短縮のターゲットは躯体工事
全体工程を主導する躯体工事がねら小田急海老名分譲マンション新築工事事務所荒木修治 所長(右)いどころ。
仕上工事は躯体工事に付随する。

point-5 総合力を発揮できる組織づくり
“いざ”というときに集まることができる,組織としての柔軟性が重要であり,全体を強力に引っ張るキーマンが必要。
本工事では本社・支店各部門の全面的な協力をえて,各分野の専門家が定期会議を重ねることで,所期の目的を達成した。人材をフレキシブルに集められる体制があるとよい。

point-6 強い意志と楽しむ感覚
「絶対にやる」という意志,「面白い」と思う感覚が大切。


Revolution-0 いまこそ施工革命宣言のとき
Revolution-1 タワークレーンのいない超高層工事
Revolution-2 座談会:総合力を現場に結集せよ
Revolution-3 躯体工事を攻めるクリエイティヴな現場たち