特集:鹿島の医薬品施設エンジニアリング
Chapter 3 鹿島の医薬品施設建設
当社は,お客様のパートナーとしてきめ細かなサービスを提供するために,プロジェクトマネージャー制のもと,部署を横断したプロジェクトチームを編成し,医薬品製造施設の建設に取り組んでいることは,Chapter1の「お客様のよきパートナーとなる」の項で触れた。
このプロジェクトマネージャーを中心としたチームが,最先端の医薬品製造施設の実現へ向けてどうアプローチしているか――。現在進行中のプロジェクトを例に紹介する。
大規模点眼剤専用製造施設の実現へ―― 日東メディック株式会社 第3製剤棟
 主に医療用・一般用点眼剤の製造販売と受託メーカーとして,シェアを拡大する日東メディック株式会社。同社が富山県富山市に建設中の「日東メディック(株) 第3製剤棟」は,高齢化社会の進展による需要拡大と,それに伴う新規受託を視野に入れた世界レベルの製造基準に対応する大規模点眼剤専用製造施設となる。
 当社は,日東メディック株式会社への営業および関連施設の工事を手掛けてきたエンジニアリング本部・生産・研究施設統括グループの緑川浩史担当部長をプロジェクトマネージャーに,エンジニアリング本部,建築設計本部,北陸支店からなるチームを編成。プロジェクトの「調査・企画」「基本計画」「設計」「施工」「試運転調整・引渡し」というフローの中で,お客様と課題や理想を共有したものづくりを進めている。
 プロジェクトの各フローを追ってみよう。
【調査・企画】
【調査・企画】● FDA(米国食品医薬品局)等世界レベルの最新GMP(医薬品の製造管理および品質管理 の基準)への対応
● ステロイド製剤と一般製剤の製造エリアの完全分離
● 防腐剤フリーの点眼剤設備の導入
● 生産・物流の高効率化による製造能力の強化をコンセプトに,プロジェクトの調査・企画を行った。プロジェクトマネージャーを中心に,技術面の総責任者であるエンジニアリングマネージャー,建築設計担当者が,お客様と話合いを繰り返す中で,要望を引き出し,建設地の選定から最適な製造施設のプランまでトータルに提案し,当社の案が採用された。
 
【基本計画】
 企画コンセプトを受け,具体的に基本計画条件を策定し,お客様とともに製造施設をどう運用していくかを検討。
 ステロイド製剤と一般製剤の製造エリアを階層別に完全分離するプランとし,GMPに対応したゾーニング,動線計画を創り上げた。さらに,生産機器,搬送機器の最適な自動化を計画し,お客様から頂いた数々の課題を解決することで,生産性の向上を図った。
製造システムイメージCG
 
【設計】
ゾーニング図 お客様が進める生産プロセス計画を活かす構造・架構,設備システム,仕上げ等,具体的な仕様を作成し図面化。お客様の製造作業を詳細な内容まで検討し,使い易い施設の設計を進めた。
 
【施工】
【施工】 お客様の事業計画に即した最適な工期を設定し,医薬品工場の特徴であるクリーンルームをスムーズに立ち上げるための最適な施工手順,スケジュールを検討し,確実な施工を実施。
 お客様が担当する生産設備機器の搬入・設置段階になると,さらに多くの協力会社が出入りするため安全管理が重要となる。お客様とプロジェクトマネージャー,現場が連携し,作業工程の確認などを綿密に行い,無事故無災害を目指す。
 
【試運転調整・引渡し】
  気流方向確認 現在,現場では生産設備機器の搬入・設置が完了し,仕上げの段階に入っている。お客様とともに進めてきたプロジェクトの最終評価は,試運転,バリデーションの結果で明らかになる。
 今回のプロジェクトでは,当社のバリデーションエンジニアリングを提供し,明快なバリデーション実施フローに基づいて,世界に通用する無菌医薬品製造施設を完成に導く。
 引渡し後もプロジェクト担当者が,十分なフォローアップ体制を整え,お客様のパートナーとして末永くお付き合いさせて頂く。

※バリデーション: 医薬品の製造に関して,常に正しい製造条件,環境下で生産が行われていることを,科学的根拠をもって確認し記録すること。医薬品の製造品質を保証する方法
躯体工事が完了した第3製剤棟 【工事概要】
日東メディック(株) 第3製剤棟建設工事
場所:富山県富山市/発注者:日東メディック(株)/エンジニアリング:当社エンジニアリング本部/設計:当社建築設計本部/規模:SRC造 3F 延べ 15,627m2/工期:2007年5月〜2008年10月
(北陸支店施工)
プロジェクトチームに聞く
香川敦史■エンジニアリングマネージャー
エンジニアリング本部 生産・研究施設統括グループ
香川敦史 医薬品グループリーダー

 私の役割は,プロジェクトマネージャーの方針を基に,お客様とチームを繋ぐパイプ役となり両社の技術を融合させることです。多くの経験で蓄積した生産システムに関する技術を生かし,お客様の製造設備計画をサポートさせて頂きました。今後,最も重要な工程を迎えますが,良い施設を提供できるように努力を重ね,お客様と一緒に創り上げてきたプロジェクトが成功を迎える日を楽しみにしています。
渡邉文博■建築設計担当
建築設計本部 建築設計統括グループ
渡邉文博 チーフ
 鹿島の総合力を実感するプロジェクトです。より良い生産環境を実現するために,サポートシステムとしての建築の実現に徹底致しました。また,生産諸室を見学できる見学者廊下を介して外の景色を見える構造とし,就労環境に配慮したプランとしました。晴れた日には,立山連峰を望むことの出来る爽快な作業空間となっています。
 お客様にご満足いただける施設となるよう最後まで頑張りたいと思います。
芦田清一■施工担当
北陸支店 日東メディック(株)第3製剤棟建設工事事務所
芦田清一 所長
 2007年5月に着工し,工事は順調に進んでいます。建物の用途が目薬の生産ということで,ステロイドの封じ込めや無菌製剤への対応といった高い品質が求められました。現場社員や協力業者に経験者を配置し,エンジニアリング本部や設計から細かな指導を仰ぎながら充分な検討を重ね,施工を進めてきました。
 現在は,お客様が担当する生産設備機器の搬入・設置工事などの日程の調整,動線の確保,安全管理の徹底に努めています。今後も無事故無災害で,お客様へお引渡ししたいと思います。
プロジェクトマネージャー制

TALK お客様のノウハウと鹿島のエンジニアリング力を融合させて,一緒に新たな価値を見出していく――。
当社のものづくりへのこだわりは,お客様にどう受け止められているのか。
プロジェクトの立ち上げから携わる日東メディック株式会社・森 秀則係長と当社の緑川浩史プロジェクトマネージャーが,“ものづくり”について語った。
完成予想パース緑川:医薬品製造企業が多く集まる富山県の営業強化を狙い,本格的営業活動を開始したのが2004年のことでした。富山営業所に常駐して全社的支援を基に,営業活動を展開してきました。日東メディック様も,その頃からお付合いさせて頂いたお客様です。

森:当社の既存工場のリニューアル工事をお願いしたのが,御社とのお付合いのはじまりでしたね。非常に丁寧で親切な対応が印象的でした。

緑川:リニューアル工事のご評価を基に,今回のプロジェクトに対する提案コンペへ参加の御指命を頂き光栄でした。これは何が何でも,お客様の期待に応える提案をしたいと,プロジェクトチームを編成しプランを検討させて頂きました。

森:点眼薬の受託拡大を目指し,生産能力の増強と世界レベルの製造基準を有する最先端の点眼剤専用製造施設を建設するプロジェクトです。ステロイド製剤と一般製剤の完全製造分離など,新たな挑戦に向けて経験と技術をもつパートナーを求めていました。御社のプレゼンテーションは非常に理解しやすく,私たちに訴えるものがありました。

緑川:とても嬉しいお言葉です。御下命頂いた段階では既存工場の増築プランでしたが,その後,建設地の選定を含めたプランの再検討に際しても当社に引き続きお任せ頂きました。当社へ寄せて頂いた信頼と期待の大きさに身が引き締まる思いでした。

森:プロジェクト当初の段階から,緑川さんを核に,各分野ごとに一貫した担当者が熱心に我々の相談に乗ってくださる。今回のプロジェクトでは,私たちにとって挑戦的な試みも多かったため,非常に心強く感じました。皆さんと議論を進める中で情報交換が出来,その中で新たな発見やアイディアを具現化していく感覚は,まさにものづくりの醍醐味ですね。

緑川:私たちも,御社のプロジェクトチームの一員であるという意気込みで,一緒に仕事を進めさせて頂いています。最良の製造施設をご提供するために,何度も議論,検討を重ねさせて頂きました。今後も信頼して頂けるパートナーとして努力を重ねていきたいと思います。

森:これから始まるバリデーションでも,御社の豊富な経験を活かした支援を期待しております。

緑川:プロジェクト成功へ向けて,ベストをつくします。今後とも宜しくお願い致します。
左:森 秀則 係長 右:緑川浩史 プロジェクトマネージャー

 Chapter 1  鹿島が目指す医薬品施設エンジニアリング
 Chapter 2  次世代型医薬品製造施設の誕生  
 Chapter 3  鹿島の医薬品施設建設
 Chapter 4  これからの医薬品研究施設